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132.マンチェスの人々

「ええ!月に銀貨7枚しか貰えないんですか?


 町で働く方がわりがいいじゃないですか」


「何馬鹿な事言ってるの。衣食住支給なのよ。


 見習いメイドにこんなに払うのはここ位よ」


マンチェス辺境伯の館に新たに雇われた4人のメイドが


先輩メイドに仕事の説明を受けていた。


「でも結構いろいろ面倒な仕事があるじゃないですか。


 もっと楽な仕事はないんですか?お嬢様の相手をするだけとか」


「何を勘違いしているか知らないけど、お嬢様に近い所は一番厳しくて


 仕事も多いわよ。あんたらには無理ね」


「そうですか?昨日お会いしましたけど、優しい方で


 お話してて楽しかったですよ」


「そっちの問題じゃない。読み書きができて礼儀作法が出来なきゃ駄目。


 あんたらできるの?」


「自分の名前くらいは書けるけど」


「ミャーはネズミを捕るのが得意ニャ」


「最低限の事は教えろと言われたけど先が思いやられるわね。


 とりあえず縫物の仕事を手伝って。お針子をやってたんでしょ」


「なんか振り出しに戻ったみたいで嫌だな」


「仕事を始める前に文句を言わない。ここで何年か勤めて


紹介状を書いてもらえばどこでも雇ってもらえるようになるんだから


頑張りなさい。お金も貯まるわよ」


「月に銀貨7枚で貯まるんですか?」


「使い方によるけどね。その気なら全くお金を使わなくても暮らせるし


 役得、チップを貰ったり服や装飾品を貰ったりもあるから


 思ったより稼げるわよ」


「本当に?やる気出てきた。どうすればいいのか教えて」


「そんなに簡単には貰えないけどね。


 来た人の顔と名前を憶えて、なにを喜ぶか考えるの。


 ここに来るのはエライ人が多いから他所で勤めても役に立つよ。


 でもアンタらは、まず口のきき方を覚えた方が良いかな?」


 中央貴族の面倒なのだったら、チップどころか怒鳴られるよと


 先輩メイドは続けた。





マリーお嬢様の馬車は、金の鍋を積んだ馬車を後ろに引き連れて館へ帰っていった。


あれはいったい何だったのか。何故依頼を受けてしまったのか。


喧騒が収まらない傭兵ギルドでギルドマスターは深呼吸を繰り返した。


馬鹿げてる。聞いた時は天才的作戦だと思ったが、冷静になって考えると


失敗した時のリスクが大きすぎる。


金貨50枚の手付金で考えるような作戦じゃない。


それでも、やらせてみたい。


不思議な感覚だった。辺境伯令嬢とはいえ、年齢的にはほんの小娘のはずだ。


にもかかわらず、対面している間ずっと圧倒されていた。


嫌な感じではない。領地領民への愛情が伝わってきて


単純な気質の傭兵たちは涙ぐんでいた。


にもかかわらず私は恐怖すら感じた。


今まで会った王族、貴族の誰とも違う。


フルオロ伯爵、あれは分かりやすく恐ろしい。


先の先まで読んで準備し冷酷に実施してくる。


敵わないと思うから恐ろしい。




マリーお嬢様はどうだ。


抜けた所もある、素の姿を見せて来る。


腹の底がわからないフルオロ伯爵とは違う。


なのに何故?




考えていると、ドアがノックされギルドの受付が


困ったような顔で入ってきた。


無茶な依頼を受けるなとクレームを入れにきたかな。


「ギルマス、マリーお嬢様からの依頼の件なんですけど」


「悪かった。あの条件では誰もやりたがらないね。断ろう」


「逆です。皆申し込んで来て収拾がつきません。


 マリーお嬢様の話を聞いた者は断られても着いて行くと言っています」




恐ろしかった理由が理解できた。


マリーお嬢様は危険だ。あの人の為なら人が死ぬ。


演技ではなく、素だからこそ人の心を打ち、助けたいと思わせてしまう。


オレイン川沿岸の住人の為なら自分の命を賭けても良いと本気で思っているから。



「ギルドの金庫を開けて。ありったけ支度金を払って」


ギルドマスターはこの危うい賭けに乗る事にした。




ジェニ子爵自身の評判はさておき、抱えている劇団の評価は高い。


売れずに旅芸人をやっている者はともかく、マンチェスの常設劇場に


出ている者は一流だった。




一流でなければならない。


彼ら、全員ではない、は王国各地の情報を集める組織でもあるからだ。


芸事が劣っていては各地の貴族、有力者と繋がりが持てず、


協力者を得る事ができない。




「ほら、合鍵だ。チョロいもんだぜ」


「ご苦労様。尾行はどうだった?」


「ついて来たけど金の鍋の騒ぎに紛れて捲いたよ」


「おいおい、引き渡しを見られてないだろうな」


「大丈夫だそんなヘマはしない」


舞台の質が高ければ、門番の娘を篭絡し、協力者にする事ができるようだ。


「決行日の尾行は問題だな、港の方で騒ぎを起こす連中に


 頑張って貰わないと門を開けるなんて無理だぜ」


「誰が何するか位教えてくれても良いのにな」


「全くだ。警備隊が集中するような騒ぎを起こすなら


 金融街や宝飾町でひと稼ぎしたいもんだ」


「それは俺も思ったけど、勝たなきゃ取り返されるだけだから


 指示に従うしかないだろう」


「まあマンチェスの陥落の時は略奪で稼ごう」




舞台関係者の全員が工作員ではなく、メインは真面目にやって


長期間かけて相手の土地に根を張る。


ジェニの戦略は巧妙だった。



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