131.ギルマスキター
「全ての辺境伯領住民は保護されねばならない。
お父様がいつも言われていた事よ。
なのにほとんどとはどういう事なの?
誰か残っているという事でしょ。ありえないわ」
マリーお嬢様はいきなり声をかけられたのに、全く平静だった。
武器を向けようとした護衛の騎士達を手で制すると、
顔はランドルフ会長の方に向けたまま何事も無かったように
話を続けた。
声だけは周囲に聞こえるよう大きくしていた。
「それに町に籠るという事は辺境伯領を踏み荒らされるという事。
この土地を切り拓き、暮らしていくために、いかに多くの人が
血と汗を流してきたか。私はちゃんと教えてもらったわ。
お父様、お母様が愛したこの地を荒らされて
領民に被害が出たりしたら二人にどう言い訳すればいいの」
「…お嬢様は確かにご領主様のお子様でございます」
ランドルフ会長、答えになってないと思う。
両替商の偉いさん達は感極まったような顔をしているので
意味は通じているのだろう。
周囲が静かになった。
「傭兵ギルドにお伺いした時いらっしゃった方だと思うけど、
私に何か御用かしら。
殿方にいきなり声をかけられては困惑してしまいますわ」
お嬢様はゆっくりと窓の方へ向き直った。
「失礼いたしました。身内がオレイン川近くの村に残っているので
つい声が出てしまって」
「まあ大変。王都からここへ来る通り道じゃない。
早く避難させないと」
「そうしたいのですが、家畜の世話やらありまして。
年寄りは頑固でして…」
「美しい土地ですものね。そこに家があるんですもの、
離れたくないのは当然だわ」
「何もない田舎で。そんな事言ってもらうと…」
「そんな事ないわ。私知ってるの。
今年の春茶色いお風呂に入りに行ったもの。
お花がいっぱい咲いてて、ミルクが美味しくて
ずっと居たかったわ」
人相の悪い連中にからまれた、と思ったが、そいつらは
今やマリーお嬢様の掌中に取り込まれている。
というより、聞いていた町の人も護衛の騎士達も完全に魅入られている。
『テンプレ、マリーお嬢様変な能力使ってないか?』
『魔力とか技術ではないですね。天然でやっています。
本気で領民や領地の心配をしています』
『しかし頼もしかったり、子供みたいだったり振れ幅すごいな』
『アンタと違って転生者という訳でもないのにね』
『いちいち俺と比べるな。同じ貴族でも従兄の誰かさんと大違いだ』
『アンタも比べているじゃないですか、全然違うというのは同意ですが』
テンプレと念話していたらマリーお嬢様が急に俺の方を振り向いた。
まさか、念話を聞き取れるとかじゃないよな。
「エア、ちょっと付き合って」
「何に付き合うんですか?」
「傭兵ギルドのマスターが来たの。
一緒にご挨拶して」
「それ位かまいませんけど」
傭兵ギルドは実質冒険者ギルド、転生者としては
そこのギルマスに会ってみたいと思っていた。
「ランドルフ会長、申し訳ないけど少しの間だけ
どこかお部屋を貸して下さらないかしら。
傭兵ギルドにお願いしたい事があるの」
「構いませんが、何か傭兵ギルドにご依頼されるのですか?」
「その問いは年頃の女性には不適切ですわ。
私にも家の者に頼りたくない事もございますのよ」
「これは失礼を。傭兵ギルドのマスター、参りましたな」
ギルマス、イメージと違う。刀傷オヤジとかじゃなく
怜悧そうな女性だった。
所属メンバーが無礼を働いたと謝罪に来たらしい。
ランドルフ会長が用意してくれた部屋があまりに豪華だったので
人相の悪いのが慌てたが、ギルマスが一声かけると収まった。
力関係は見た目とは違うようだ。
俺の紹介はおざなり。
ギルドの受付嬢から俺に関する報告は受けていたらしい。
「それで、ご依頼とは何でしょう」
「オレイン川に遊びに行きたいの。一人じゃ寂しいから
一緒に来てくれる人を集めたいの」
「それはいつごろですか。今回の騒ぎが収まればご希望の人数を
集めてみせます」
「あら。前にも言わなかったかしら。私、我がままですのよ。
今すぐにでも、なるべく早く行きたいわ。」
「急ですね。少し待っていただかないとご希望の人数は集められないと思います」
「集められるだけで構わないわ。魔物を狩ってる人を中心に集めて」
「そんな事では旅行先で力尽きる事になりますよ。
だいたいフルオロ伯爵はご承知なのですか?
お支払いはどうされるのですか」
「フルオロおじ様には内緒にしたいな。
このままだと私の大事な物が守れない。自分でやる他ないわ。
それと、支払いは分割にしていただけるかしら」
「分割、ですか」
「そう分割。王都の方々のお相手も、支払いも一度に全部と
思うから大変なのですわ。そういう時には分割にしないと」
「興味深いお考えです。分割計画はどのように。
ご希望通り動くには、手付金位はいただかないと」
「エア、お金貸して」
「え?急に何」
完全に油断してた、いきなり何言うんだ。
「金貨50枚持ってるでしょ。貸して」
「両替商の人達に言えばもっと貸してくれるんじゃ」
「あの人たちは商売で貸しているのよ、
正当な借用書を書いて金利を払わないといけないわ。」
「僕には借用書も出さず、金利も払わないつもり?」
「エアはそういう風に貸してくれるって聞いたわよ。
あの子達に貸して、私には貸してくれないの」
あいつら、なんて事を教えるんだ。そういう事は黙ってろよ。
「わかりました。金貨50枚で集められるだけ集めてみましょう。
私たちに損はないでしょう」
「有難う。信じてくださるのね」
「フルオロ伯爵はどんな手を使っても必ず勝ちます。
お嬢様が何をされてもね。
かかった費用もお支払いいただけるでしょう。」
二人が何やら図形を描きながら話し続ける。
どうでも良くないが、俺とネッチャがさっき貰った
金貨50枚は既に取り上げる事が確定事項になっている。
俺の意見を聞け!聞く気ないだろうけど。




