129.計量結果キター
沿道に溢れる人人人、人の波。建物の窓どころか屋根の上にまで
人がいる。
「愛想よく笑ってなさい。手まで振らなくていいから」
オープンの馬車で隣の席に座っているマリーお嬢様が沿道の人の
方に顔を向けたまま言ってきた。
何故こんな事になっているかというと
リヒト帝国に表彰された帰り、マリーお嬢様の誘いに乗ってしまった
からだ。
「エア、町に出たくない?」
「出たいですけど、伯爵が」
「フルオロのおじ様には私から言っておくわ」
マリーお嬢様の周囲の人の顔が若干ひきつっている。
「近所の金融街に行くだけ、問題があるはずないわ。」
「金融街に?」
「金のお鍋の重さを聞いて、引き取って来る簡単なお仕事よ
凄い金額になるみたい。一人だと心細いから一緒に来てくれると助かるわ」
話の前半と後半が合ってない。ついでに心細さを微塵も感じさせない。
「護衛の人も大勢いるんでしょ?僕がいなくても心配ないんじゃ」
「そんなに警戒しなくても狙いなんてないわよ
エアにマンチェスの町を見せてあげたいだけよ」
「それだけ?」
「あんまり疑り深いと折角の可愛さが台無しよ。
それだけだって。
向こうに着くまで私の大好きな町の自慢話を聞いてなさい」
金の鍋がいくらになるのか聞いてみたいし、町の様子も気になる。
行きたいのは間違いない。
「それではお願いします。着替えて顔を洗ってきても良いですか」
「何馬鹿な事言ってるの。折角正装してるんだからそのままに
決まってるじゃない。幸い化粧も崩れてないわ」
「ええと、なんと言うか。恥ずかしくて」
「慣れないのね。可愛い。でもエアのためを思ってよ」
「僕の為?」
「クロムの町でエアヴァルト・フォン・バルツって名乗った子が
いるそうなの。その子を引き渡せって言われたら困っちゃうわ。
我が家にはエアという可愛い女の子しかいないのに。」
なるほど。そういう理由もあるんだな。
ほとんどはマリーお嬢様の趣味とお遊びだろうけど。
という訳で馬車に乗っている。人の視線が突き刺さって痛いくらい。
マリーお嬢様の横の子供誰、って思われてるんだろうな。
「普通にしてれば良いから。」
すかさず声をかけてくれたマリーお嬢様だけど、人気ありすぎ。
フルオロ伯爵も手を振ってくる人が多かったけど、問題にならない。
早朝と昼間の違い?泣いている人までいる。
「マリーお嬢様って人気あるんですね」
「お父様、お母様のおかげよ。二人とも領民とお話をするのが好きで
皆の世話をするのが好きだったの。私はたまに付いて行っただけよ」
人ごみに驚いている間に金融街に着いた。
馬車を降りる時チラッと裏通りの方を見たけど人垣ができていて何も見えない。
質屋のBBA、商売できてるかな。
入口のガラス窓から秤に乗った金の鍋が見え、護衛の人が立っている建物に入る。
「ようこそおいで下さいました。マリー様、どうぞおかけください。」
「有難うございます。お久しぶりね、ランドルフ会長。
変な事お願いして、ご迷惑じゃなかったかしら」
「とんでもございません。これ程の栄誉と眼福、感謝しております」
「そう言って下さると気が楽になりますわ。鑑定と計量はどうでした」
「比重と重さを測っただけですから、推定にはなりますが
色から見てかなり高純度の金です。残りは銀と銅でしょう。
金貨とほぼ同じ組成ですな。
重さについてはこれから発表する所です。」
「昼の鐘で計量したのよね。折角だから秤の所で聞こうかしら」
「有難うございます。場が華やぎ、一層盛り上がる事でしょう」
マリーお嬢様のお付きの顔はますます引きつったように思えたけど
お嬢様は部屋を出て鍋の前に立った。
会長と呼ばれた人だけでなく大勢金持ちそうな爺がその周りを取り囲むと
窓が開け放たれた。
「発表する。金の大鍋の重さは6317ゼニーと8分の1。賭けの答えは
6317とする」
1ゼニー22.5g位だから142kgとちょっと。
重い重いと文句を言いながらも一人で持ち上げていた
エルフの怪力ぶりが恐ろしい。
俺の覚えている日本の金相場、1g3万円だと42.6億円と少々。
端数だけでもとんでもないんだけど、既に俺の基準を超えていて
実感がない。とりあえず大金だ。
『142135.3125g、グラム3万円だと4,264,059,375円です
純金ではないので3万円はしないかもしれませんが』
『子供の頃にソロバン習っときゃ良かったな。暗算ですぐ出て来ないや』
『あんたの借金、金貨1300枚より高いですけど、ネコババしなくて
良いんですか?』
『金は欲しいけど泥棒はしたくない。ましてや世話になった
エルフ達の財産をネコババなんてするもんか』
『この一帯でその数百倍は軽くありそうですね。盗んでも持ちきれないですね』
『だからなんで俺が盗む前提なんだよ。てか数百倍?マンチェス
どれだけ金あるんだよ』
俺がテンプレと念話している間にマリーお嬢様は爺達と話している。
「マリー様、この度は…」
「その先は言わないで。まだ行方不明よ
それより町の外の人の避難は進んでるの?」
「はい順調です。ほとんどの住民は町に入りました。
不安を感じている者もいるでしょうが、城壁を見たり
今日のような気晴らしの行事を見る事で落ち着いてきております。」
「その話はフルオロ伯爵からも聞いたわ。順調?冗談じゃないわ。
ほとんどって、どういう事なの」
「それで、どの様にお考えで」
突然、数人の男に窓の外から話しかけられた。
顔に傷があったり、豪快な無精ひげだったり。
要するに人相のわるい男達だ。
ヤバイ、賭けに負けてクレーム入れてきたのかな?どうしよう。




