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126.外伝 中央軍別動隊

中央軍別動隊の指揮官、ヨーゼフ・ラデッツ伯爵は急いでいた。


彼の属する中央軍は王国最強、精鋭中の精鋭。


中央貴族がこぞって加わり、その指揮官は大変名誉ある職である。




そこから5千人ほどを抽出した別動隊を率いている訳だが


彼の顔は冴えなかった。


兵に不満はない。量はともかく質はこれ以上望めないだろう。


比較的低い身分の騎士伯や平民出身の近衛兵で編成されている。


王都に残っている部隊だと伯爵以上の家の次男三男、次女三女が


入り込んでいて、命令するにも編成するにも気を使わなければならない。


あんな連中を率いるのはごめんだ。


今のように暗くなった道を進めと命令したらひと悶着おきるだろう。


急ぐ理由を説明してあったとしてもだ。




貧乏くじを引いたもんだ。


自分をこの任務に付けた総大将のゲプハルト・ブリュッヘル侯爵の顔を思い出す。


不承不承、納得はしていないのがありありだった。


若い、無茶な奴にやらせたかったのだろう。


そういう奴はやりたがらないとは思う。


この任務、表向きの手柄はエミュール・フォン・バルツに行ってしまうからだ。




中央貴族の派閥間の調整で四十歳を過ぎた自分になったという事か。


お互い納得出来ませんね、位の嫌味を言ってやってもよかったのかもしれない。


私の体力的な心配をされたが、問題はそちらではない。




馬はそれ程長くは移動できない。


もちろん、早馬のように軽装で馬を乗り継ぎひたすら走れば早い。


マンチェスまで三日で行ける。


装備を付けた騎兵でそれをやったら馬が倒れてしまう。


替えの馬をそんなに用意できないし、馬と兵隊の相性もでる。




歩きだったら十日以上かかるところだが、馬車に歩兵を乗せられたので


7~8日にまで縮められそうだ。幸い晩秋で馬糧の補給はたやすい。


馬車に積んであった燕麦の袋は捨てさせ、途中の町で補給する事にした。


…ヌー河の川船が使えれば簡単なのに。




*******************


中央軍別動隊が行く道は王国で最も栄えた街道なので


道は整備され、宿場町があり行軍は容易だった。


先駆けを走らせれば、ホールや教会等屋根のある所で


五千人宿泊できる町がいくつもあった。




ヨーゼフ・ラデッツ伯爵はホテルの窓からヌー河を見下ろしていた。


王権派が船を接収しているので数は減っているが小舟程度は通る。


無電も電話もない世界でも情報は洩れるだろうが、


それより疲労回復を優先していた。


河から離れたり、マンチェスの方へ行く旅人を拘束したりする事も


考えたが、やめた。


河から離れると大きな町がないし、真っ平な地形で見られた旅人を


全て拘束するなんてできないだろう。




マンチェスの町に橋頭堡、攻略の拠点を作れ?


下命された時、無理に決まってる、と言いそうになった。


マンチェスの堀りや城壁を知らないのかとも思った。




一応作戦らしき物はある。


マンチェスで唯一城壁の無い方向、港に陽動隊を上陸させ


町の中で暴れさせる。


その隙に最近できた区画の城門を開けさせ突入する。


そんな事できるのか?作戦だ。




カギはジェニ子爵が握っている。


マンチェスにはジェニ子爵が所有する常設劇場があり、多くの


人間が送り込んである。その中の一部が城門に入り込んでいるらしい。




港の攻撃はどうするのか?海の船はマンチェス側につきそうだし


多くの船を用意するのは無理だろう。


そのカギもジェニ子爵が握っている。


信じられない事にリザードマンと交渉をまとめたという。


泳ぎの得意な奴らが泳いで港に上陸、敵を引き付ける。


その間に劇団の中に入り込んでいた味方が町中に放火


敵の守備隊をさらに分散させてから自分達中央軍が突入


そういう計画だ。




リザードマンが言葉を持っていると聞いた事はあるが、


彼らを亜人に入れるのは抵抗がある。


あれならゴブリンやオークの方が人間らしいとさえ思う。




ジェニ子爵頼りの作戦だな。


子爵と合流した後は指揮権を渡して一歩引こう。


勝っても負けても、責任は渡してしまえ。


ヨーゼフ・ラデッツ伯爵はエミュール・フォン・バルツを


思い浮かべた。




あの子、責任とか理解しているかな。


彼がマンチェス辺境伯の後継者として名乗りをあげた、


これが今回の発端、という事になっている。


新国王マクシミリアンはこれを承認し応援、


横領しようとしているエミュールの従妹のマリーを退けるため


中央軍を派遣した。




この内容だと、新国王に恩義で縛られて、領地経営に干渉される。


それより同族で争ったりしたら領地や部下が荒れるぞ。


…新国王は領地の没収を考えているかもな。




生意気そうな見た目の割には素直で、一日馬に揺られても文句も


言わなかったエミュール・フォン・バルツ。


責任や義務がのしかかっている事に気が付いているようには思えなかった。

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