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123.秘策の正体

ヌー河の河口付近に広がる湿地帯にはリザートマンが住んでいた。


亜人の中で最も知能が低く、人間を食べる事もあるため


魔物と思っている者が多い。


実際はどうか。固有の文字は持っていないが、言葉を話す事はできる。


ある程度なら交渉ができる程度の知能も持っている。


人間の言語を話せる者はおらず、表情が読み取り難くコミュニケーションは


取りずらいが不可能ではない。




もっとも家族単位で分散して狩猟生活をしている彼らの中に人間が


入り込むのは極めて危険である。


肉食性の強い彼らは目の前の動物、同族含む、を生のまま食べる。


頭の先から尻尾の先まで3m近く、立ち上がった身長が2m近く


大きな口は人間の頭なぞひと噛みで嚙みちぎってしまう。


魔物と呼ぶ方が良いのかもしれない。




そんな彼らが生息しているヌー河の湿地に、数隻の船が横づけしている。


阿鼻叫喚の大騒ぎになっていたが、一般的な船は寄り付かない場所で


当事者以外に気が付く者はいなかった。




「やめて、助けて」「お願いします。子供だけでも、この子だけでも助けて」


手枷、足枷の男女、子供を抱いている者もいる、が船から引きずり降ろされている。


既に気絶したり、腰が抜け失禁している者もいるようだ。


「お前らは買われた奴隷なんだ、グズグズ言わずに降りろ。」


「鉱山で苦しんで死ぬより、楽ってもんだ。こら、しがみつくな」


船の上では赤い服を着た男たちが棍棒をふるっている。




地上では脛まで泥に埋まりながら綱を引いていた男が枷を外していた。


「ほら逃げな。上手く逃げ切ったら自由の身になれるぜ」


気絶している者には水をかけ、わざわざ起こしてから放す理由は


もちろん親切心ではない。




周囲はリザートマンに取り囲まれている。


必死に逃げようとする者が次々捕まっていく。




「腕が、腕がないよ。」


「お母さん助けて、痛いよ」


意味の分からない悲鳴の中に時々聞き取れる言葉もある。


家族らしき集団が子供を逃がそうと必死に抗っているようだ。




逃げ切れる可能性は無いだろう。


湿地は人間にとっては動きにくい泥だが、足に水かきがある


リザートマンは平気で動き回っている。


必死に逃げようとする者たちが次々と捕まっていく。


リザートマン達は抵抗を楽しむように獲物を捕まえ、


四肢を齧り、胴体から内臓を引き出し食べていく。


胴体だけになった人間が我が子の方に必死に行こうと蠢くが


届く寸前に子供の下半身が食いちぎられる。


殺戮が終わった時にはヌー河支流に血の帯ができていた。




【追加だ、これで良かろう】


リザートマンの言葉を話せるらしい老人が船の上から話しかける。


【いつまで待たせる?待ちきれない】


【もう少し、あと何日か】


【長いな】


【待て。そうしないと報復されるぞ】


【人間、報復、怖い。待てば報復ないな?】


【ない。私たちあの町とる。人間食わせてやる】


【分かった。楽しみに待つ。皆もいいか】


周囲にいたリザートマンたちは舌なめずりしながら同意した。




手枷足枷を回収していた男は綱で引き上げて貰わなければ動けない程


泥に埋まっていたが、疲労困憊の原因は湿地で活動したせいでは無いようだった。


リザートマンと会話していた老人が船を出すように指示を出した時には


体を丸め、動けなくなっていた。




「しっかりしろ。櫂を漕ぐんだ」


仲間の一人が声をかけた。


「なんて、なんて事してるんです?」


「考えるな、櫂をとれ、漕ぐんだ。こんな場所から離れたいだろ?」


船は無言のまま河を遡っていく。


細かい水路が入り組む湿地を抜け、川幅が広く両側に農地が広がる場所まで


どの位時間がかかっただろう。


「この辺りで休憩だ。運河の辺りは船が多い。河口付近に行ったのがバレないよう


 夕闇に紛れて抜けるぞ」


青い顔をして下を向いている男が聞いてないと思ったのか


隣の男が肩を叩き声をかけてきた。


「今晩は子爵のおごりで飲ませてもらえるぞ。楽しみにしておけ」


「そんな気分になれません。吐き気がして」


「お前初めてだったか。まあエグイからな」


「エグイなんてもんじゃないですよ、何なんですかあれ」


「踊り食いだそうだ」


「踊り食い?なんですかそれ」


「口の中に入れた時の動きとか、齧った時の絶叫がたまらんらしい


 あいつらの食の好みだ」


「わざと苦しめてるようにしか思えないんですけど」


「大きな声で騒いで暴れまわる方が旨いんだってよ。


 奴らの常食は魚だが、魚は暴れても、声を出さないからマズいとさ」


「そんな奴らに奴隷とはいえ人間を差し出すって考えられなくないですか」


「さあな。あいつら売れ残りは使い道がないからな」


「使い道って…」


「鉱山とかの重労働じゃ使えない、やらせたら病気になったり、すぐ死んだりする


 不景気で軽い作業をさせる為に奴隷を買うようなもの好きもいない。


 売れ残りの不良在庫さ。


 酷い事言うようだけど、鉱山で慣れない仕事させられて苦しんで死ぬより


 時間が短い分楽だったと思うぜ。昨日はちゃんと飯も食わせたしな」


「…」


「まあ、お前の方が普通だろう。気にすんな。飲んで忘れちまえ。


 他所で話したら子爵にどんな目に遭わされるか分かってるだろ?


 いいな、忘れるんだぞ。」




船には所属を表すような旗は出していないが


乗っている船員の赤い衣装から


ジェニ子爵領の船だと推定できた。

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