122.中央軍の進撃
新王に離宮に集められた中央軍は実に堂々と王都の外、
ちょっとその辺り、という場所まで進軍した所で足を止めた。
ヌー河の混乱で船が遅れていると説明がされていたが
実際の理由は違う。
総司令官、ゲプハルト・ブリュッヘル侯爵は頭を抱えていた。
今回の決起立案者の一人ではあったが、
彼の献策は何一つ採用されていない。
彼の指揮する中央軍が制圧するはずだった王宮は
騎士伯や平民兵を王宮奥深くに入れられないという理由で
王権派の貴族達が制圧する事になり、最悪の事態になった。
その後もそうだ。少数でも良いから迅速に移動し
今頃はマンチェスに入っている計画だったはずだ。
兵力の多寡は衝撃力と秘策により補うと説明したはずだ。
それなのに中央貴族たちの顔を立ててやりたいという政治的事情、
義弟でもある新王マクシミリアンの意向により彼の作戦は全面見直しになった。
見直し、か。
クーデターそのものに反対していた彼は、義弟の懇願により勝てる可能性のある
作戦を考えた。
確率の問題もある、必ず勝てるとは思えない旨の但し書きをつけた。
あれほど自重するように伝え、反対して自分が決起責任者となり、
自分の作戦とは程遠い事をやっている。
彼は王家直属の中央軍を指揮して王都、王宮を護る事を役職とする家に生まれ、
新王マクシミリアンの義兄。妹を王家に嫁がせられる家系であり、
役職、履歴も完璧なるべくして総司令官となった。
実態は人間関係のしがらみが多すぎ、悩みが深かった。
軍勢は動けない。
最大の理由は貴族たちの戦意らしきものが旺盛過ぎる事だ。
戦意ではないな。皆手柄が欲しい。というより金と名誉か。
80年も大きな争いがなく、現状維持しかできなかった連中が
大量にやってくる。そのほとんどは都市生活者だ。
貴族の教養として武術や学問としての軍事は学んでいるだろうが、
まとまって行動したことはない。
それがよくわかるのは、船に乗る順番、従兵の数、装備品の格
そんな事でいちいち争い、調整を申しこんでくる。
食糧や野営の支度すらしてこず、支給要請をしてくる。
そんな連中ばかりが、次々とやってくる。
農閑期なので領地から兵を呼ぶと言う者もいた。
80年以上、戦闘どころか狩猟もしていない農民兵が役にたつだろうか。
補給の足枷になるような気がするが、王権派貴族の結束を考えると
格上の王族、公爵の申し出をむげに断る事はできない。
別動隊を先行させるか。
中央軍、騎士伯、近衛兵達で編成された常備軍は事前に用意した
補給物資と共にいつでも動ける状況にある。
船は思った程集められなかったし、上位の貴族達が乗りたがるから
使えないが、陸上で行く事はできる。
問題は指揮官だな。名目上の指揮官はバルツ男爵の息子だが能力がない。
伯爵クラスで適当な奴を選んで、上級貴族連中の承認を得なければならない。
面倒だがやらねばならない。
今読んだジェニ子爵からの手紙には、
秘策を待たせるのは限界、急ぎ来られたし。
とだけあった。
秘策が無ければマンチェスは陥落しないだろう。
王国一の軍学者と呼ばれるゲプハルト・ブリュッヘル侯爵の結論である。
マンチェスの警備隊は軍隊ではなく治安維持部隊だ。
4千とはいうが年寄りまで含んでおり戦力としては割り引いて考えて良いだろう。
今攻めなければ傭兵と羊飼い、80年前の戦役で評価が高かった集団、
が相手に加わる可能性が高い。
亡くなった先王やマンチェス辺境伯家と縁の深いリヒト帝国も問題だ。
動員に時間はかかるだろうが、敵対する可能性が高い。
その上黒い森のエルフ達も…
考えれば考えるほど悩みは深かった。
自分の考えを押し通す事の出来ない総司令官。
彼は貴族学院で”必敗”と教えていた存在に自らなっていた。




