120.戦力分析キター
『疲れた。就活の面接より疲れた』
『しょっちゅう疲れたと言ってますね。ジジ臭いと嫌われますよ』
『この世界に来てからずっと、ありとあらゆるパターンで
疲れる事だらけ、本当に歳とったかもしれない』
物騒な事を言うお嬢様のお茶会からやっと解放された俺は
トボトボと自分の部屋に戻った。
肉体的にも精神的にも限界。忙しすぎないか俺?
バルツ村のブラック労働が懐かしい思い出化しそうで嫌だ。
生活環境は最悪だったけど。
『労働に慣れてきてましたものね。最後は負担も減ってましたし』
『捨てられただけだけどな。そんな事はどうでもいい、
お茶会の間ずっと観察してたんだろ、あのお嬢様の中二病発言、
どの位まで本気なんだ?』
『完全に本気ですよ。年齢的にも中二ですが精神はしっかりしています』
『マジか。これからどうなるんだろう?お前の意見を聞かせてくれ』
『今得ている情報からの予測となりますので、実際と異なる可能性が
ある事をご留意ください』
テンプレがAIらしい?断りをいれてきた。
王国の奥深くまで探りを入れてた人のデータが入ってるんだろ?
現時点で一番信用できそうだけど。
『当然の事を言わなくていいよ。参考にするだけだ』
『まず第一に王権派は全力でここ、マンチェスに攻めて来るでしょう。』
『確実なのか?まず自分達の足元、王都を固めようとかならないか。』
『王都付近は中央貴族が固めているので、
マクシミリアン王子が王都に居れば多少不安定になっても揺るがないでしょう。
それより、地方貴族がまとまり、
戦力を集めるのを阻止しようとすると思います』
『何故マンチェスに来るとわかるんだ?弱い地方貴族から
各個撃破した方が良くないか?』
『理由はいくつか。最大の理由は王孫殿下がこの町にいる事。
放置するとその権威を認めた事になりかねない。
第二にマンチェスの港と産業が絶対に必要な事。
短期ならともかく、長くなると王国の経済が崩壊してしまう。
第三にマンチェスが地方貴族派の半分以上の戦力を持っている事
枝葉を落としてもマンチェスが残れば戦力が復活する可能性がある
逆にマンチェスさえ落とせば他の貴族は従わざるを得ない。
第四に地方貴族は国境を抱えていてすぐには戦力を動かせない事
国境を抱える地方貴族を撃破したら王権派は自分で国境を守る破目になり
戦力が減ってしまいます。
国境の地方貴族は放置して戦力を集中する方が合理的です。
他にも細かい理由が考えられますが全部解説しますか?』
『分った。とにかく来るのは確実と思って良さそうだ
時期とか、戦力も予測できるか?』
『クーデターを起こしたマクシミリアン王子の性格、政治情勢
この世界の戦術常識からみて、なるべく早くしようとするでしょう。
既に動員を開始した可能性が高いと思います』
『のんびりしていられないって事か。早く逃げ支度をした方が良いか?』
『どうでしょうか。先王や官僚が大量に失われた状態でマクシミリアン王子が
指示を出したからといって、すぐに軍として機能するでしょうか』
『どういう事だ?』
『王都には直営軍が5千人、貴族やその使用人が数万いるそうですが
組織化されていません。
集まれと命じて集める事は出来ても、そのまま動けるとは思えません』
『誰が大将で誰が誰の命令を聞くかとか決めなきゃ駄目そうだな』
『手柄や失態を誰が評価するのかも決めておかないと揉めます。
もし王子親征でも数万を一人で見る事はできないので必要な事です』
『戦国時代の時代劇みたいにはいかないんだな』
『戦国時代でも準備期間は必要だったと思いますけどね。
ずっと戦い続けていたから早く準備できたのかもしれません。
今の王都にいる勢力でやったら軍でなく
烏合の衆と呼ばれる集団になりそうです。
実行は不可能ではないでしょうが、戦力をどう考えるかという問題になります』
『という事は多少時間はあるという事か。戦力的にはどうなんだ?』
『王権派側は抑えの兵を残しても2万人位は出せると思います。
途中加わりそうな貴族を含めて2万5千程度、3万人は無理だと思います
対するマンチェスの警備隊は4千程度です』
『ダメじゃん。逃げ支度しよう』
『マンチェスに味方する貴族も多少いますし、傭兵が雇えます。
海上戦力の人員を加えれば1万人位にはなります』
『それでも3対1、マンチェス側不利だね』
『そう簡単ではありませんし、王権派が急ぐ理由でもあります』
『どういう事?』
『西部高原の羊飼い達が降りてきています。
家畜を守るため魔物と戦い続けている戦闘集団です。
羊毛を通じマンチェス家と強い関係があります』
『それで、ノールド男爵を抱き込んで閉鎖しようとしたんだな』
『南部の閉鎖が出来なかった時点で失敗ですけどね
集めるのに時間をかければ1万人以上はマンチェス家に
味方するでしょう』
『時間勝負という事か。王権派は早くしたくてストレスかかりそうだな』
『そもそも計画が杜撰です。今の時期は秋まき小麦を蒔いた後です。
農村にあるのは農民達が食べる分だけでしょう。
まだ売ってなければ、収穫したばかりの大麦や燕麦があるでしょうが
王都周辺の人間は基本食べません。
兵隊に燕麦なんか食べさせたら士気が下がります』
『バルツ村じゃ常食だったぞ、燕麦とライ麦。
士気がさがるような物食わされてたのか』
『シャーフラントと違い王都周辺は豊かなんですよ。
小麦のパンを食べるのが普通です』
別にいいけど。独特の風味があって焼き立てなら美味しいし。
少し複雑な気持ちになった俺はシャーフラント人なんだろう。
『だいたい分かった。俺はどうしたらいい?逃げるか、ここに居るか
どっちが安全だろう』
『その件ですが、ここに居た方が良いような気がします。』
『何だ。奥歯に物が引っ掛かったような言い方をして』
『身の安全だけなら亜空間倉庫や黒い森のエルフを頼る方が良いですが
亜空間倉庫ではご主人様が見つけられず、マリアさんの治療ができません
黒い森に隠れる事はエルフ達を巻き込む事になります』
『なるほど。両方ともダメだな。でも俺なんか匿う位そんな大した事か?
マンチェスの中でこそ目立ったかもしれないけど、誰も俺の顔なんて
知らないだろ』
ジェニ子爵がシツコイとかか?個人的に動けるのか
『それです。さっきのお茶会で話に出てましたけど、相手のかなり上の立場
少なくとも交渉の中にエミュール兄さんが出て来ると思います』
『本当にそうなるんだ』
『難癖をつける口実なんて沢山あった方が良いからアンタの事も
きっと入ってきます。というか入るでしょう』
『という事は逃げ道は…』
『ありませんね。マンチェスに勝ってもらう他ないです』
だよね。何となく判ってたけど。
仕方ない無理しない範囲でマリーお嬢様の味方しとくか。
『お好みのキョヌーですものね』
テンプレが余計な事を言うが、あの子と話すと日本に残した妹を思い出して
そういう対象に見れない。まあその部分の成長だけは日本の妹と大差があるけど。
『妹さんが聞いたらお供え引っ込めますよ』
うるせーよ。というかお供えしてくれてるんだ。有難う。
俺は日本の両親と妹に感謝をささげた。




