111.縁談キター
朝一番にマリーお嬢様から服が届けられた。
昨日あれから頑張って直してくれたらしい。
サイズに少し余裕があるのは成長期の子供向けだからだろう。。
キュロットの乗馬服を着てみたけどズボンと違って落ち着かない。
裾?が広がってスースーするし、お尻廻りが余裕ありすぎ。
何より前が開けられない。トイレ行くときスカートだったらめくるだけですむけど、これだと膝まで降ろす必要があるぞ。
パンツ見られたり、脱がされたりする危険は多少低くなりそうだけど
デメリットもあるな。
ビラビラのドレスは却下として遊び着だという木綿の服も着てみる。
デニム生地ほどの厚みがあるのに柔らかい、触ればわかる上質な生地だ。
違和感がなく動きやすい…すっかりスカートに慣れてしまった。
クロムで買った服は洗濯するからと持って行かれた。
この世界の服は質草になる位価値がある。少々血が付いたくらいなら使い続ける。
辺境伯家程の金持ちでも子供服を大事にとっておいて、身内のお下がりにしたり
臣下に下げ渡したりしているらしいから、当然か。
この屋敷に着いてから落ち着かない、違和感がある原因がわかった。
働いてないからだ。
通訳させられたり、救出作戦やったりはして、疲れ切って倒れるように眠ったけど
掃除も洗濯も、水汲みもやってない。お客様扱いだ。
バルツ男爵邸と規模は全然違うけど、貴族の館の雰囲気に共通点があって
なんか働かなきゃいけないとプレッシャー感じてしまう。
貧乏性というのかもしれない。
でも上下水道あるから楽だろうな。
『現実逃避はそろそろ終わりませんか?呼び出しの使者を待たせすぎです』
『うるさいな。外国大使様の呼び出しなんだから身支度するのは普通だろ』
昨日インガ=エッチャを引きとると騒いでたセレローさんから呼び出されている。
なんだろう。あの人にとってはネッチャも姪だから危険な事させたとか、
自分に相談せず勝手に動いたとかの抗議だろうな。ああ気が重い。
辺境伯のお館はバルツ男爵邸どころかフルオロ伯爵邸の何倍もある。
国の迎賓館の役割までしているので外国大使が泊まっている部分だけで何室もある。
その中の一つ、応接間か謁見の部屋らしい所に通された。
この部屋だけで50畳はありそう。日本の実家の敷地くらいある。
バッチャとネッチャは既に座っていて、自分達の横に来るように合図してきた。
立派なテーブルの向かいにはセレローさんが座っている。
インガ=エッチャはいないんだな。何なんだろう。
「やっと来たか。とりあえずそこに座りたまえ。」
セレローさん、随分機嫌が悪そう。
昨日自分の姪が返り血まみれで帰ってきたんだから当然か。
「とりあえず、こんな幼い子を連れて行った理由を聞きたい。
どう考えてもまだ保護者が必要な年齢だ。」
意味がわからない。ネッチャの事を幼い子と言ってるみたいだけど
確か80歳を超えてると言ってたぞ。
「だから、私が勝手に付いていっただけだと言ってるじゃない。」
「まだ戦士として認められていない子供は黙っていなさい。
バッチャに見守られない所で戦うなど、とんでもない事だ」
ネッチャとセレロー大使が言い争っているけど、内容が、えっネッチャって
戦士じゃないの?あれで?
「私がフルオロの会議から離れられない時にエッチャの友人が危なかったのだ。
無謀な事はするなと叱っておいたから、心情は理解してやれ」
「監督放棄したバッチャの責任も大きいのですよ。
子供の将来をどう考えているんですか?大変な事なんですよ」
「まだ子供なんだし、そこまで深刻に考えなくてもよかろう」
「そんな態度、考え方でどうするんですか、
ネッチャの人生と名誉がかかってるんですよ。
わかりました。私が話を進めます。」
セレロー大使は俺の方へ向き直り、正面から言った。
「エア君と言ったな。ネッチャとの結婚は何時にする?
その前に急いで婚約発表をしないと」
????????????????????
「ちょっと待って下さい。おっしゃっている事の意味が良くわかりませんが」
「なんと白々しい。こんな幼女を傷物にしておいて責任をとらないつもりか」
「幼女とおっしゃいますが、ネッチャは80歳を過ぎていると聞いています」
「たった80歳ではないか。一人前には程遠い。まだ保護の必要な幼女だ。」
「わかりました。全然わかりませんが、エルフの年齢認識は何となくわかりました。
でも僕は人間で9歳ですよ?結婚とか婚約とかおかしいでしょう?
そもそもネッチャと僕はそういう感情ありませんよ」
「一緒に風呂に入ったらしいじゃないか。いやらしい」
「バッチャも一緒にいましたよ。そんな感情で見た事ありません」
美人でナイスバディだけどそういう対象としてはないわー。
「セレローよ。本当にそういう関係ではない。子供がじゃれ合っているだけだ。」
「この様子を見れば私もそう思います。でも世間がどう思うか。
それでなくてもエルフ女性の婚活は難しいのに…」
セレロー大使、頭を抱えてしまった。
「セレローおじさん。私、後100年は戦士の修行がしたい。
結婚はその後かな」
「セレロー大使閣下、僕がその頃まで生きている可能性はほとんどありません」
「ああもう分かった。妙な魔法使いと組んで戦ったという噂が流れているが、
その相手とはお友達だと説明させよう」
セレロー大使、噂に噂で対抗すると大概悪い方へ向きますよ。
「そんな苦しい説明しなくても9歳の人間の魔法使い、しかも女じゃ。
何の問題もなかろう」
バッチャが心底馬鹿らしいという表情で言った。
「女?」
「いろいろ面倒な事があってな。エアは戸籍の上では女性じゃ。
フルオロがそうした。誰が調べてもそうなる」
「現場にも女装で行ったと言ってたな。それは…都合が良い。
エア君、ネッチャが嫁に行くまで女性として生活してくれ
そうすれば縁談への影響が少なくてすむ」
それ、俺の一生より長いじゃないですか、お断りします。
言おうとしたけどバッチャが薄笑いで俺を見て首を振っている。
ネッチャは下を向いて大人しくしてるのかと思ったら肩が揺れてる。
「とりあえず、それで良かろう」
バッチャはゆっくりと立ち上がり、俺とネッチャを手招きした。
「この無謀な愚か者達には少し罰を与えねばならんからな。時間が惜しい」
「バッチャ、罰ってなにするの?」
「稽古に決まっておろう。少し間が開いた分厳しめにやろう」
ネッチャが絶望したような顔をし、セレロー大使が穏便にとか言ってるけど
何するんだろう。というか俺も?なんで。
「あれだけの事をして、何もないのは良くないだろう。
二度と馬鹿な事をしないよう、体に教えてやる」
えーと、遠慮したいんですけど、貰ったばかりのよそいきの服着てるし。
バッチャ、二人を平気で引きずって庭に連れてくのやめて貰っていいですか。
その日、俺とネッチャは何度も気絶し、何度も回復魔法をかけられた。
監視している屋敷の人、みんな目を逸らすんだけど、助けてプリーズ!




