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113.外伝 中央軍の出陣

本日から宰相ではなく、ドゥンケルハイト国王マクシミリアン四世になった


マクシミリアンは機嫌が悪かった。


新国王になる儀式を執り行ったが、王位を譲位する先王もいなければ


伝統の王冠も無かった。


王位についた事を祝う朝堂の貴族達も外国の賓客もおらず、


戴冠式会場は舟遊びのための離宮、王冠も間に合わせの品で、


国内貴族も半分すら集まっていなかった。





まあいいさ。戴冠式なぞ事が終わってからやり直せばいい。


王冠くらいいくらでも作りなおせる。俺は国王なのだから。


夏の舟遊び用に開放的に作られている離宮は底冷えがしたが


マクシミリアンは動じなかった。


そんな些末な事はどうでも良い。彼には時間がなかった。




表向きは新王の権威を見せつけるため。


”兵は拙速を尊ぶ”マクシミリアンはつぶやいた。


ヌー河下流に蟠踞している地方貴族たちが


兵を集める前に撃破する。


王都には中央軍兵士、中央貴族とその子弟、従者を含めれば


数万人が滞在している。これを活かさない手はない。




既に出陣の詔は出した。


大軍が進軍すれば迷っている貴族たちもこちらに付くだろう。


勝てる。彼は自信に満ちていた。





実際の理由は破綻寸前の王国財政を隠すためだった。




農産物からの税収だけではやっていけず、鉱山の生産量はジリ貧。


貴族名や鉱山名で債権を発行し、その金で財政を回してきた。


王国の財政は債券の金利を払うだけで精一杯、豊かな貴族に献金を命じ、


一息つくだけ。




どうしてこうなったか?


国が豊かになったせいとしか言いようがない。


80年前の戦争でエルフからの戦利品として膨大な金を分配された貴族たちは


豪奢な生活を楽しんでしまった。


陶磁器、宝石、大きなガラス窓、珍しい香辛料、美しい色合いの布…。


皆が競い合って購入し、自慢しあった。




マクシミリアンが知っているのは、その後の時代だった。


平和は数十年も続き、戦利品なぞ入ってくるはずもない。


農業生産は増加していたが、普通に領地経営していては贅沢はできない。


借金して生活している貴族、それどころか破産する者が続出していた。


王家は貴族たちを何らかの役職につけ、


仕事をさせて下賜金を与える事で対応していたが


数十年に渡り宰相の地位にいたマンチェス辺境伯は


必要以上の役職を認めなかった。


そのため中央貴族の不満は溜まっていった。


仕事の数、地位の数が足りない。私を私の親族を役職につけろ。




マクシミリアンが宰相になった原因だった。


父王を説得するのには苦労したが、中央貴族の圧倒的支持の前に


折れてくれた。




宰相になって驚いたのは、王国の財政が綱渡りだった事だ。


帳簿の間違いではないか?一年以上調べなおしたが不正も誤りも無かった。


そしてその仕事量も。


マンチェス辺境伯は領地経営を親族に丸投げし、一年のほとんどを


王都の政務で過ごしていたが、その理由が良くわかった。




分かった頃には財政は急降下していた。


鉱山の産出が減ってきたし、豊作続きで穀物の相場は低い。


収入は減っているのに、自分を宰相にする為尽力した貴族達には


役職を与えなければいけない。


財政を改革しようにも封建領主の既得権益に抵触してしまう。




彼が今回のクーデターを計画した最初の理由だった。


地方貴族、外国と国境を接し緊張を強いられているはずの彼らは


何故か領地経営が上手く、余裕があるようだった。


その領地を接収し王家と協力した貴族で分配する。


80年ぶりの戦利品で財政問題は解決できるだろう。




以上が表の理由だった。


裏の理由は彼の机に積み重ねられた分厚い報告書、


王国は今年のうちに財政破綻、商人に借りた金を返せなくなり


臣下に給料を払えなくなる。


近衛兵に給料を払わず中央軍を維持できるか?


金を払わず商人に品物を納めさせるのか?




悪い事は続くもので、兄の子供ティアスにリヒト帝国皇女が嫁いで来る事が


決まりそうになった。


国の格からいって、ティアスは立太子してから婚約する事になる。


兄が国王になるという事だ。




私は宰相の座を追われるだろう。


そして財政破綻の責任者として処断される事になるだろう。


殺される事は無いだろう。権力の無い公爵となりどこかの領地で暮らす。


誰も訪ねて来ない惨めな生活だ。




それで良かったかも。


そう思ったマクシミリアン、新王はその思いを振り払った。


目の前には焼けた王都、崩れた王宮が見える。


後悔してどうする。




父も兄も、それどころか親族のほとんどは消息不明になってしまった。


意図してやった事ではなく、実行部隊の暴走だが


詳細が知られたら一族皆殺しの悪名が広まってしまうだろう。


その前にカタをつけてしまわないといけない。


敵対勢力がいなければ、倫理的問題なぞ黙殺できる。


今しかなかったんだ。兄の妻はリヒト帝国貴族の娘だが


あの国は意見をまとめるのに時間がかかる、その他の国も


問題があって干渉してくる事はないだろう。




悪名は無名に優る。


マクシミリアン新王はある人物、これから自分が倒さなければいけない人物を


思い浮かべた。


80年前、反対派を粛正しつくし、大悪人と呼ばれた男フルオロ伯爵。


あの男は80年の平和をもたらした。


今では英雄視する者もいという。




自分もそうなる。


間に合わせで作った王冠をかぶり直しマクシミリアンは離宮の庭に集まった


兵士たちに手を振った。

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