108.悪い噂キター
「自分達がやった事が分かってるのか?何を考えてるんだ」
フルオロ伯爵、静かな声だけど怒鳴るより迫力があるな。
あれから俺たちは歩いてスラムから帰った。
血まみれで、武器を持って。
昨日の今日だ。エルフと子供の組合せを忘れている者はいない。
姿を見るや息をのみ、道で遊んでいる子供は家に引き込まれ
窓が閉まっていく。
相当恐れられ、憎まれ、嫌われたなこりゃ。
マンチェスの町には何重もの城壁があり沢山の門があるんだけど、
当然ながらそこで止められた。
倉庫の鍵を渡して状況を説明している間に警備の人が大勢来て
俺達は馬車で伯爵邸に連行され今に至るという訳だ。
「もう少し賢いと思っていた。たった二人で突入?無謀もいい所だ
まず俺に相談しろ」
「賢くないのも無謀なのも認めます。」
「何だ?含みのある言い方だな。言い分があるなら言ってみろ」
「命を、あの四人の命の事を考えてくれましたか?」
人質がインガ=エッチャなら命第一で行動してくれたかもしれない。
でも、四人は伯爵にとって知らない人間、頼まれて救出隊は出すだろうけど
犯人確保優先で突入しそうだ。
俺達以外が行ったら四人とも殺されてた可能性が高い。
というか俺たちが行くのがもう少し遅かったら殺されてたと思う。
伯爵は少し考えた後、つまらなそうに鼻で笑った。
「それが理由だと?それで命をかけたと?」
「大切な者を傷つけられるのは嫌なんです。
今回は少し違うかもしれないけど、やっぱり嫌です」
「馬鹿馬鹿しい。それじゃ命が幾つあっても足りんぞ。
少しは反省しろ」
「反省はします。もっと良い方法はなかったか、今も考えています。
でもあいつら人質が生きているか死んでいるか不明なら
価値は同じとか言っていました。他に方法は無かったと思ってます
この屋敷にメモを届けられる連中です。
周囲でも見張っているに違いありません。」
「メモを渡したメイドは知らない女に頼まれたそうだ。
それよりお前本当に九歳か?困った奴だ」
伯爵は頭を抱えてしまった。
「事情がどうあれ殺人だからな。一応証言があるから
お前たちの身柄は俺預かりという事で収めているが
警備の連中のメンツという事もあるんだぞ」
「それについては申し訳ありませんとしか…」
「倉庫も証拠隠滅される前に確保できたから、
お前たちのやった事は正当防衛、という事にするけど
確定するまで屋敷から出るな。絶対だぞ」
なるんじゃなく、するのね。よろしくお願いします。
「ありがとうございます。
それで、人質になっていた四人はどうなりますか?」
「わかってる。放置してたら同じ事がおこる。全員この屋敷で雇う。
幸い身寄りは居ないそうだから、四人だけで済む」
軟禁仲間か。うるさくなりそうだ。
「ご配慮感謝いたします。疲れきるまでこき使ってやって下さい。」
「お前と話してると疲れる。本当に困った奴だ。
バッチャも何とか言ってくれ」
「信義や友情の為なら命を賭すのはモイモイの生き方だが無謀はいかん。
そういう時には私を呼べ」
伯爵は頭を抱えて下を向き何か小声で言っていたが、すぐ顔を上げた。
「もう噂になってるぞ」
「噂って?」
「凶悪なモイモイの戦士と邪悪な子供の魔法使いが仲間をさらった
連中を大勢殺した、だとさ。
あの鎧のドワーフと獣人、少しは知られた連中だぞ。」
俺はネッチャと顔を見合わせた。
けっこう強かったです、はい。
「残りは?狙いとかも分かりましたか?」
「誰かさんが口を塞いでしまったから狙いは分からんが間違いなく
モイモイ含む黒い森のエルフ達を脅迫する事だな。
エルフを人質に取ったら恐ろしい事になるのに馬鹿な奴らだ。」
「どうなるんですか。」
「黒い森に住むエルフ全体の問題だ。必ず取り返す。」
バッチャが横から会話に入ってきた。取り返す際、武力は使いまくるんだな。
「お前達のやった中の一人は貴族だ。
どっちつかずだと思ってたが王権派に加わったようだ、横にいたのはその従者だ」
「殺さずに縛っておいた人は無事だったんですか」
「三人は生きていたあれを無事、と言えるなら無事だろう。
もう一人忘れてないか?頭を吹っ飛ばされていたぞ。
一体どんな魔法を使った?死んだドワーフも鎧の中がグチャグチャで
片付けに行った連中が物を食べられなくなってしまったぞ。」
M855、NATO弾です。至近距離射撃の威力は高いみたいです。
「…えーと」
「言わなくていい。聞きたくもない。とにかく騒ぎになってしまった。
もうどうやっても抑えられない。これからどうすれば良いやら」
そう言って伯爵はバカでかい溜息をついた後、あっちへ行けみたいに手を振った。
「自分の部屋に戻れ、絶対屋敷から出るな、少しは反省しろ、以上だ」
一応、お説教は終わったようなので部屋から出た。
俺の後ろに立って一言も話さなかったネッチャと少し離れた所に座っていた
バッチャも付いてきた。
「殺さずに済ませる事は出来なかったのか」
「いきなり人質を殺そうとしたんだ。残りの連中は…強すぎた」
「そうか、そう判断したなら仕方ない。自分が死んではどうしようもない」
「ごめんなさい。もう少し考えるべきだった。ネッチャにもやらせてしまった」
「気にしなくていいよ。エッチャの友達を助けるためだもん」
厨房の傍の小さい方のダイニングを覗くと、風呂から上がったらしい四人が
サイズの合っていないメイド服を着てインガ=エッチャと話していた。
「アンタが貴族で私がメイドって、気に入らない。」
「常雇い住み込みで働けって言われたけど給料いくらなんだろう。」
「危ない目に合わないように、だって。家賃払わなくていいなら超ラッキー」
この子達の超前向きなダチョウ思考が少し羨ましくなった。




