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106.戦闘キター

幸いな事に、ネッチャは弾よりも速くはなかった。


長剣を振り上げた男の胸に弾着した次の瞬間に組み付いて


得物を奪い、その横でべらべら喋っていた奴を突き刺した。




俺は次の奴を撃とうと思うのだけど人質と残りの敵との間に


入り込み激しく動き回るネッチャが照準器に入り邪魔で撃てない。




近づいて白兵戦はしたくないけど、人質を撃たない良い方法、縛られて


転がっている四人を踏みつける位の位置まで前進した。


ネッチャは長剣を振り回し三人と渡りあっている。


ラッキーな事に敵の一人は銃声に驚いて動きが止まったらしい。




ギャーギャーうるさい四人が蠢くのに巻き込まれないように注意していると


部屋の扉が開いて、最初にあった人相の悪い男が顔を出した。


ドアの開口部目掛けて銃撃する。


味方がいない方向は撃ちやすい。狙うというよりその方向に向けて


乱射、相手が崩れ落ちた。




ネッチャの援護に振り返ろうとしたら『しゃがんで!』テンプレの


警告で頭がいたくなる。


ビュンという音がして髪の毛を何かが擦った。


後ろから飛び掛かってきたらしい獣人が数歩先で勢いを殺し


こちらに向き直るのが見えた。


すかさず撃ったけど、外れた。


近すぎ、速すぎでダットサイトに捉えられない!


やられた、と思ったけど相手の方が飛びのいた。


「エア、大丈夫?」ネッチャが声をかけてきた。


「ありがとう、ネッチャは大丈夫?」


「たいした連中じゃないけど、この長剣ナマクラで火花が散るだけ。


 脇の下とか突いたんだけど効果なかった。」




残った敵は鎧で身を固めた三人と獣人一人。


鎧の三人が何やら指示を出して、四人一斉に距離を詰めてくる。




動きが鈍いぞ。きっと鎧が重いんだ。


「ネッチャ、相手が逆だ。鎧の奴は僕が相手するから、獣人をお願い!」


「わかった!」


相手が一旦下がり、10m位の距離をくれたのも助かった。


鎧の真ん中目掛け撃つ、撃つ、撃つ。


相手が次々崩れ落ちていく、ガチャガチャいう音が聞こえたような


気はする。


銃声と、それよりうるさい人質四人がギャーギャー喚く声で


怒鳴らないと何も聞こえない。




残った獣人は銃の照準をつけるのが難しい程動き回っていたが、


物理法則に縛られている獣人は魔法というチートを補助に動き回る


エルフには勝てないようだ。


単純に剣術もネッチャが上なせいもあるだろう。


ネッチャの長剣が相手の喉を深々とえぐって決着がついた。


『テンプレ、外がどうなってるかわかるか?』


『三人まだ扉の所にいます。あそこを動くなと言われてるみたいです。』


臨機応変に動く連中じゃなくて助かった。


狭い所で前後から襲われたら銃の優位性が生かせない所だった。




これからどうしよう。


転がってる敵の生死は確認した方がいいな。


扉は施錠した方がいいんだろうか。


前回の教訓から散々イメージトレーニングしたんだ。


想定と全然違ったけど、思ったより落ち着いてるぞ俺。


まだ始まったばかり、無事帰るまでが救出作戦だ。




「ギャー、血が血が。死ぬ―しんじゃう!」


「悪魔、悪魔が吠えた。魔法よ、魔法」


「ニャーニャーニャー」


相変わらずうるさいな。


疲れてんだよ。これからどうするか考えてんだよ。静かにしてくれ。


イメージトレーニングと違って本当に撃っちゃたんだよ。


誘拐犯どもも猿ぐつわくらいしとけよ、気が利かないな。




************************


ドワーフの用心棒 ロドリゴ、ディエゴ、マテオの


三兄弟はエルフキラーとして名高かった。


相手の長所、素早さが生かしにくい狭い場所に誘い込み


頑丈な鎧で相手の攻撃を防ぎ、集団で戦う。


捕まえさえすれば体力、腕力に勝るドワーフの優位は動かない。


彼らは獣人のキケと組んで、荒っぽい仕事を繰り返していた。




彼らは最初、その仕事を断った。


若い女をさらって、その上殺す?


弱い者いじめは俺たちの仕事じゃない。




そんな彼らがここに居たのは功名心からだった。


モイモイの戦士、バッチャが来るかもしれない。


もし倒せば、彼らの名は大陸中にとどろくだろう。




「もしバッチャが来たら、俺たちは裏口から逃げる。


 逃げ切るまで時間を稼いでくれさえすればいい」


軽薄そうな人間の貴族の依頼は気に食わなかったが


15m四方位で天井の低い倉庫は気に入った。


攻撃に耐えながら部屋の隅に追い込む、いつもの作戦が使える。




自信はある。


特注のプレートアーマーは5㎜もの厚さがあり、継ぎ目も念入りに加工してある。


幾多のエルフの斬撃を防ぎ、勝利をもたらしてきた。


重くて動きが鈍くなるが、狭くて逃げ場のない所で戦えば


最後は追い詰める事ができる。




仕事内容は全く気に食わない。


子供をさらってエルフどもを脅迫していう事を聞かせる?


ゲス過ぎるだろう。


しかも、人質は最初から殺す気らしい。


「死体が見つからなきゃ、人質として捕らえられてると思うだろ?


 効果は同じで捕まえておく手間も取り返される心配もない、


 賢い方法さ」


反吐が出る程のゲス野郎だが金払いはよく、モイモイのバッチャへの


興味をおさえきれなかった彼らはこの仕事を受けてしまった。




計画は最初から狂っていた。


当初エルフの娘が町場に戻った時にさらうと聞いていた。


護衛が付いて馬車で動くので手が出せなかったらしい。




「それでこれか?」


いかにもな田舎娘が四人縛られている。


「狙いのエルフの仲間だ、こいつらを餌におびき出す。


 一緒にいたガキも狙えるだろう。」


戦えないエルフと子供を狙うのか、なんと卑劣な奴だろう。


それより脅迫状なんか出したら足が付かないか?


馬鹿そうだし、さっさと縁を切った方が良さそうだ。




その二人がやって来たのはそれからすぐだった。


やる気が出なくて壁にもたれていたのだが、目当ての二人のようだ。


人間の服を着た丸腰のエルフと妙な杖を抱いた子供。


なにかモヤモヤする。


妙だ。早すぎる。どうやって来た?




雇い主、人間の貴族と従者だという、が剣を抜き


人質を殺そうとした時、それはおきた。




小さな子供が魔法を使ったのだ。


詠唱もせず、魔法陣も描かず、杖から轟音と炎が飛び出した。




何がどうなったか判らなかった。


人間の従者の背中から何か、大量の血肉が飛び出した。


あれでは助からんだろう。


丸腰のエルフは従者の剣を奪ったと思うと横の貴族を刺し貫いた。




聞いていたのと違う、人間の中で育った無力なエルフではない。


もしかしてあれがバッチャか?


慌ててフェイスガードを下げるよう弟達に合図を送る。




そのエルフの剣術は見事だった。


本当にバッチャかもしれない。


目の前に、弟たちの鎧に剣が振り下ろされ火花が散っている。


気が遠くなるような衝撃を感じるが計算通り、剣で鎧は貫けない。


三人で連携を組み部屋の隅に追い詰めるんだ!




そのエルフは逆さまになり、天井に足をつけて走った。


いままで戦ったどのエルフもそんな事はしなかった。


間違いない、あれがバッチャだ。


驚かされたが二度はない。次は討ち取ってやる。


大陸最強の名は我ら兄弟がいただく。




子供を追い詰めていたらしいキケがやってきた。


この場所を借りた地元の組織の男も魔法でやられたらしい。


鎧もなく戦うとは無謀な。


キケに周囲を動き回り牽制するよう指示をすると、


再度エルフ達の方に向かった。


子供が魔法の杖をこちらに向けたが、無駄だ。


この鎧はどんな矢でも弾く。


少々の魔法で効果があるはずがない。




…前にいたマテオが倒れた、鎧の胸部に小さな穴が開いている。


どうするべきか、次の瞬間、私は衝撃を感じた。


目の前が暗くなっていく…

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