99.外伝 インガ=エッチャの回想
インガ=エッチャは仲間に申し訳なくなるような豪華なベッドの上で
今日の出来事、思い出しきれない程いろいろあった事を考えていた。
マンドラゴラ掘りなんて怪しい仕事に手を出して、
ひどい目にあってどうしようかと思ってたら
自分とそっくりの女の子が飛びついてきて
涙を浮かべて謝ってくるばかり。
この子に悪い事をされた覚えはないんだけど。
その子は泣きながら回復魔法をかけてくれた。
これいくらするんだろう。高いんだろうなと思った。
ヘレナ達が病気になった時は一人一回銀貨10枚したっけ。
あれとお医者さん代でお金がなくなったからこんな事になったんだ。
その前にオーリャ達と何回も舞台を見に行ったのもダメだったな。
見ると私たちを痛めつけたゴロツキ達が
綺麗なエルフに向かってペコペコしている。
よく見ると傷だらけでそのエルフを
バッチャって呼んでいる。
その名前は聞いた事がある。
ルーシーの町から戦に行った大勢の人を殺して
魔王とか災厄と呼ばれてた。
そのせいかルーシーにはエルフが大嫌いな人が多くて
私はエルフである事を隠して生きてきた。
バッチャは思ったより怖くなかった。
腕が何本もあるとか口から火を吐くとかいう噂を聞いてたけど
見る限り普通のエルフだった。
ギルドのバイトが外せないはずのダーナがさっき奪われたマンドラゴラを持って
何か説明しようとしているけど興奮しているせいか訳がわからない。
それより生まれて初めてかけてもらう回復魔法が心地いい。
やっと動けるようになったので仲間達の方を見ると可愛い女の子が
回復魔法をかけていて皆の傷がみるみる塞がっていく。
ルーシーの司祭様でも出来なかった事だ。
凄い子だなと思ってよく見たらバルツ村で会ったエアだった。
可愛い服が似合っていて本当に女の子みたい。
その後は夢のようだった。
私は捨て子ではなかったらしい。
きっと誰かが迎えに来るから証拠の短剣は大事にするよう言ってくれた
司祭様の事を思い出す。
仲間達も喜んでくれている。
きっと誰か迎えにくるって孤児院で言い合ってたもんね。
私は王女様だとか、貴族様だとか、手違いで捨てられただけだとか、って。
ダーナなんてお母さんそっくりなのにね。
皆良かったねって泣いてくれた。
凶悪で知られるモイモイの子なのにずっと友達だって。
それからいろいろありすぎて、どうして良いかわからなかった。
私の名前はエッチャというらしい。
母親は生きていると信じてずっと探してくれてたんだって。
質屋に入れた短剣は恥ずかしかった。
司祭様に大事にするように言われたのに。
仲間達と別れるのは不安だったけど手続きがあるからと
坂の上に見上げるだけだった領主様の館に連れて来られて
見た事もないようなご馳走を並べられた。
怖かったけど、どれも美味しかった。
何かの間違いで取り上げられると思ったから大急ぎで食べたのに
後から次々出てきてお腹が壊れるかと思った。
そういえばあんなにお腹いっぱいになったのは初めてかもしれない。
少し仲間達に持って帰りたいと言おうとした時に叔父さんだという
外国の貴族がやって来た。
すごーい。子供の頃寝る前にしてた話みたい、位しか感想がわかない。
私、誰なんだろう。
これからどうしたい?今まで大丈夫だった?何か欲しいものはあるか?
わかんない。あんまりいろいろありすぎて。
80年間、雑用と子守りしかした事がないんだよ。
エルフだとバレたらいじめられるからバレないようにしてたんだよ。
そんな私に希望は、とか将来どうしたいとか聞かれても困るよ。
双子の姉妹らしいネッチャは一緒に戦士になろうと誘ってくるけど
怖い話しか聞いた事のないバッチャは噂と違ってとっても優しく、
ゆっくり考えれば良いと言ってくれた。
通訳をしてくれているエアも私を安心させようとしてくれる。
死んじゃおうかと思った事が沢山あったけど生きてて良かった。
こんなに大勢の人が喜んで、助けてくれている。
司祭様に言われたとおりだ、希望を捨ててはいけなかったんだ。
バッチャがお嫁に行った先の青い森で600年間
ドワーフを撃退し続けてたけど森の魔物を狩りつくしてしまって
仕方なく黒い森に戻った。ドワーフに負けた訳ではないのに
そういう噂が広まって納得がいかない、そういう話を聞いていた時、
エアが眠りそうになってきた。
続きを聞きたかったけど小さいのに頑張ってくれている
エアを休ませるため今日は終わりという事になった。
仲間たちに手紙は着いたかな。
明日は手紙に書いた通り貰った料理を持って帰るからね。
食いしん坊のダーナやスターニャが喜ぶ姿が思い浮かんだ。




