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お披露目

 一台の車が道路を走っている。

 運転席には炎代譲治が、助手席には娘である祐奈が座っている。

 今日はD社社員以外に、複数の著名人と顔を合わせる事になるかもしれないので、二人とも相応の格好をしている。

 譲治はスーツ姿、祐奈は制服姿である。

 D社が開発中の新作ゲームがほぼ完成し、後は細かい調整だけ、と炎代親子は聞いた。

 なので、どんな作品に仕上がっているか見てみたい、という要望をD社の椎尾格樹宛てに出した。

 要望は通った。他の著名人スタッフからも同様な要望があったので、格樹は新作ゲームのお披露目を行う事にした。

 お披露目は土曜日に行われる。高校生である祐奈は、平日に学校の授業があるので、それに配慮したのかもしれない。

 わざわざ土曜日を選んでくださって申し訳ない、と譲治は思ったが、今の開発陣にとって、曜日なんてどうでもいい事だった。



 車はD社に到着した。

 譲治は守衛に要件を伝えてから、以前と同じ要領で車を駐車場に駐めた。

 車から出て、D社のエントランスに向かっている最中に、炎代親子は、固まって歩いている男性達のグループに出くわした。

「おお、譲治さん。おはようございます」

 男性達のリーダー格と思われる四十代くらいの男が、譲治に挨拶した。

 男は譲治の事を普段、下の名前で呼んでいるようだ。

「これはこれは、音有さん。おはようございます」

 譲治は挨拶を返した。

「今日も、お嬢さんと一緒ですか?」

「ええ」

 楽曲や効果音の作成を担うO社の社長である音有と、楽曲作成を担う炎代親子は、時折D社に来て、参考のために開発中のゲーム画面を見させてもらっていたので、その時に何度か顔を合わせた事がある。

 合流した彼らは、D社の中に入っていった。



 D社四階にある会議室。

 二つの会議机が、長辺同士をくっつけた状態で、奥の方に置かれている。

 その机の上には、ゲームの実機とディスプレイ、スピーカーがある。これらは、企画開発部オフィスから持ってきたものだ。

 会議室内には椎尾門太社長と企画開発部及び営業部の正社員全員に加え、契約社員の堀後、常駐しているN社の正社員全員、シナリオライターの飯蛸、作家の筒抜、焼畑、漫画家の烏峰とアシスタント数名、O社社長の音有と社員数名、そして炎代親子がいる。

 飯蛸や炎代達のような外部の著名人スタッフは、企画開発部オフィスにて、何度か開発中の画面を見させてもらっている。

 だが、今日は外部から来た人間が多い事と、落ち着いてお披露目をしたいという事で、会議室を使う事になった。


 格樹がゲーム機を前に着席している。

 彼はディスプレイとゲーム機、スピーカーの電源を入れた。ディスプレイにゲーム機のロゴが表示される。

 ゲームのタイトル画面が表示された後、彼がゲームパッドのボタンを押すと、メニュー画面に移った。

 ピアノをメインとした落ち着いた雰囲気のBGMが流れてくる。

「これ、お嬢さんが作った曲ですよね」

 音有が祐奈に話し掛けた。

「ええ、そうですよ」

 祐奈は微笑みながら答えた。

「いい曲です」

「ありがとうございます」

 格樹は最初のシナリオを選んだ。主人公である冒険者をゲームパッドで操作してゲームを進めていく。

 中世ヨーロッパ風の舞台は町中から草原、廃墟、地下洞窟へと移っていき、やがて、ボスであるストーンゴーレム――石でできた巨大な人型ロボット――のいる部屋に辿り着く。

 ディストーションのかかったエレキギターによる激しいBGMが流れてくる。

「これ、譲治さんの曲ですよね」

 音有が譲治に尋ねた。

「作ったのは私なんですけど、娘に打ち込んでもらいました。当時の私は、パソコンを満足に使う事ができませんでしたので」

「へえ……そうですか。先程のピアノ曲といい、お嬢さんも侮れませんね」

 攻防戦を繰り広げた結果、格樹が操作する冒険者は、ストーンゴーレムを倒した。

 今回は、ストーンゴーレムが蛸踊りするような事は無かった。

 ストーンゴーレムから大量の金塊や金貨等の金製品が出てきて、ファンファーレが鳴った。

 その直後、構内のスピーカーからチャイムが流れてきた。

「みなさん、お昼になりました。これから午後一時までは昼休みと致しますので、それまでは、ご自由にお過ごしください。食事については、社内の休憩所か弊社近くの食堂をご利用ください。弊社近くには、食堂の他にコンビニもございます」

 格樹がそう言うと、室内に集まっていた者達は、食事しにいくために、外に出ていった。



 昼休み後、会議室内に再び人が集まる。

 格樹はゲームパッドを手に取り、ゲームを再開して進めていく。

 このゲームのシナリオはバラエティに富んでいて、様々な世界でシナリオが展開するようになっている。

 バイクに乗りながら刀を振るい敵を倒す男、よろいに身を包んだ騎士を殴り飛ばして壁にめり込ませる悪役令嬢、悪霊相手に掃除用具で戦う巫女等……様々なキャラクターや場面が、ギャラリーの目に飛び込んでくる。

 ――プレイヤーキャラのグラフィックはいい感じなのだが、それ以外は雑だな。時間が足りなかったのか?

 烏峰は格樹がプレイするゲームの画面を見て疑問に思ったが、口にはしなかった。

 ゲーム開発に携わった事がある烏峰は、現場の苦労を知っている。

 室内にいるスタッフ達の青白くやつれた姿を見て、これ以上の苦労はさせたくないと思ったのだ。



 午後七時近くになって、ディスプレイに今までとは異なる画面が表示された。

 黒い背景に今までのプレイから抜粋したと思われる場面が表示され、白い文字で構成された人名が下から上に登っていく。

 エンディングに移ったのだ。スタッフロールが流れている。

「思ったよりも早く終わるのね」

 シックな服に身を包んだ中年女性がつぶやいた。作家の焼畑である。

「用意されているシナリオを全てプレイしなくても、ある条件を満たせば、エンディングに移るようになっています」

 格樹が答えると、焼畑は「なるほど、わかりました」と言った。納得したようだ。

 BGMとして、オーバードライブのかかったエレキギターと、シンセサイザーによる、力強くも優しい曲が流れてきている。

「この曲、お父さんが何日か前に作った曲でしょ」

「ああ、そうだ。ギリギリ間に合ったようだな」

「流石ですな、譲治さん。素晴らしい曲です」

「いやいや、音波狂研のみなさんこそ、曲が場面にマッチしていて見事でしたよ」

 談笑する炎代親子と音有をよそに、烏峰はいぶかしげな表情をしながら、スタッフロールを見ている。

 スタッフロールに作曲者の名前が表示され始める。

 音有奏也を筆頭としたO社のスタッフ達と、炎代譲治の名前が表示され、上に登っていく。

 ――あれ!? わたしの名前が無い!?

 祐奈は我が目を疑った。

 楽曲をいくつも作り、それらを提供して、しかも採用されているのに、名前が表示されないのだ。

 作曲者の名前が表示された後は、効果音担当者の名前が表示され、その後に営業の名前が続いた。

 最後まで、炎代祐奈という名前は、表示されなかった。

 祐奈の口から、「うそ……信じられない」という言葉が、漏れた。

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