教師の沙汰
あれから死刑宣告を待つ囚人の様な時間が過ぎていった。休み時間になると、多くの視線が集まるのを感じる。もう教室中に僕の話は広まったのだろう。授業が始まれば先生たちから何か言われるんじゃないかとビクつく。
そんな居心地の悪い時間は放課後まで続き、結局先生からの呼び出しがないままだった。
生殺し状態がこんなにも辛いとは。
久保形くんもアレからは何も言ってこない。このまま帰っていいのか。とてもそんな雰囲気はないのだが。
僕は日課である部室へと向かう。比奈森さんには心配してついてきてくれそうになったが、僕の方で断った。
今の僕に関わることは、彼女にとっても危険だ。もし僕と仲が良いとなれば、同じくカーストの最底辺に追いやられる可能性がある。
僕は1人、今日の出来事を整理する。
佐益さんをストーキングしていた御騰くんは、誰かからメールを貰って動いていただけだった。
そして、そのメールは僕のスマホのメアドから送られていたという。
僕のスマホに送られてきていた佐伯さんのメールは、何故か削除アプリが起動して消えてしまう。
あんなアプリなんて入れたことも無いのに。
久保形くん達の前で証拠隠滅を図ったとして、その心象は一気に悪化。先生にもそう報告されているのだろう。
ならば何で僕は呼び出されないんだろうか。
結論の出ない自問をしていると、部室のドアが開く。ノックが無いことを考えると比奈森さんではないな。
ゆっくりと振り返ると、そこには涙を流す高島が。
「ど、どうしたんだ!?」
「ず、ずまなびっ」
僕にすがりつくようにして謝る高島は、ぽつぽつと説明を始めた。
先生達は僕自身ではなく、電情研の会長である高島から先に話を聞くことにしたようだ。
今回のスマホを使った一連の出来事は、電情研としてやった事なのかと問い詰められた。
もちろん、電情研はそんな部活ではない。どちらかというとそれを阻止する側。今回の件に関しても、部活動として調査していたと胸を張って答えたそうだ。
しかし、それはスマホの仕組みに詳しいという事だろうと詰められ、調査できる、手口が分かる、それを使ってみたくなったんじゃないかと。
高島が頑なに否定すると、ならば部活ではなく、僕自身としてそうした事をやったんじゃないかと。
高島はそれも否定してくれたらしい。しかし、そこで先生は一歩詰め寄って、高島に誘うように言葉を掛けてきた。
電情研が部活としてやった事にもできるんだぞ、と。
事実を隠蔽するために口裏を合わせているのか。それとも僕の暴走の結果か。
どちらが高島にとって望ましいのかなと。
「わ、我輩は、ぶ、部活の為に、ど、同志を……」
「わかった、わかったよ。かえって良かったさ。僕のせいで部活まで潰されて、そのまま処分も受けるより、僕1人が罪に問われて方がマシだ」
そう言いながら頭の中は真っ白に塗りつぶされている。先生達はもう僕を黒として処分を決める段階に入っていた。
僕が何を言ったところで覆ることはないのか。
「は、ははっ。じゃあ、僕は部室に居ない方がいいね。帰るよ」
「ど、同志よ。我輩は諦めない。ちゃんと証拠を揃えて疑いを晴らしてみせる」
「ああ、期待してるよ。それじゃっ」
滂沱の涙を流す高島のおかけで、僕まで泣き出すのは避けられた。僕は暗澹たる想いで家へと帰った。
「おかえり」
「ただ……いま」
家に帰るといつも夜勤でいない母が迎えてくれた。それは僕に起こっていることを先生が伝えたということだろう。
「何かやったのかい?」
「僕は、何も」
「そうよね。わかってる。ならどうするんだい?」
「どうするって……」
「このままだと停学だってよ。明日、朝一で職員室に行きなさいって」
「そ、そう」
「チャンスよね」
「へ?」
「多分、一週間くらいらしいから、タップリ調べられるじゃない。アンタ、得意なんでしょ?」
「え、でも、僕じゃ」
「諦めるのかい?」
「……や、やってみるよ」
「うん、信じてるからね」
僕のことを抱き寄せて、頭をポンポンと叩かれる。幼い頃に慰められた記憶と混ざり合い、涙腺が緩んでしまった。
悔しさと嬉しさと、何とも言えない感情のままにしばらく泣き崩れていた。




