一致するメアド
HRから一限目の授業が始まる。
間に生徒の移動はないから、情報の伝達には制限があるはず。とはいえ休み時間になれば、僕についての話は広まっていくだろう。
特に佐益さん、多邑さんはクラスでもトップカーストに所属する面々。
そこに疑いを持たれたら、僕のクラス内での立ち位置なんて突き落とされるだけだ。
最後の希望となるのは久保形くんへの釈明。僕の言い分もしっかりと聞いてくれると言ってくれた。
ならば彼に疑われないように、しっかりとした答弁を行えるようにしないといけない。
ただ証拠となりうるスマホのデータは初期化されてしまった。
混信メールがいつから始まったか、端末に何らかのアプリが組み込まれていないか。
そうした情報も一緒になくなってしまった。
反面、僕が犯人とするための証拠もない。今あるのは僕が多邑さんにメールを見せたという状況くらい。
ならば明確に僕を犯人と特定できる証拠はないはずだ。
何より僕はやってない。
単なる一被害者だ。
「なるほど。勝手にメールが送られてきて、誰のものかもわからなかったと」
「うん、そうなんだ」
「そして具体的な場所が記された帰宅ルート変更のメールで、送信者が佐益さんと分かった」
「そうなるよ」
休み時間になり、早速僕に対する意見聴取が行われた。
「君は確か電子情報研究会という部活に所属しているよね」
「え、あ、ああ」
「なら普通の学生より、こうしたことに知識があるんじゃないか?」
「そ、それは、そうかも、しれないけど。けどっ、そんな、メールを傍受とか、クラッキングするような技術なんてないよ!」
「ハッカーの低年齢化が進んでるらしいね。中学生くらいでも大きな騒動を起こしたり」
「た、確かに、そんなニュースはあったけど、それが僕が犯人だという証拠にはならないだろっ」
「まあ、そうだね。僕は確認したいだけだから、少し落ち着こうか」
「ご、ごめん」
思わず声を荒げてしまったのを、久保形くんがなだめてくる。ムキになっては、心象が悪くなる、落ち着かないと。
「御騰くん、ちょっと良いかな?」
「ん? ああ」
佐益さんや多邑さんと一緒にいた御騰くんが呼ばれる。
「君に届いたメールを見せて貰えるかな?」
「ああ、構わないよ」
御騰くんが端末を操作して、メールを表示する。それを見た久保形くんは、僕のスマホを操作した。
「もう一度聞くけど、西籐くんは御騰くんにメールは送ってないんたよね?」
「そ、そうだよ。そもそも、御騰くんのメアドも知らないし」
「なるほど……」
そう言って久保形くんは僕の前に御騰くんの端末を置く。そのメールの送信者を指差した。
そこには見覚えのある文字列がある。
「え!?」
そして久保形くんは僕のスマホを並べた。そこには同じ文字列が並んでいた。
それは端末情報に記載されたメールアドレス。
「初期化されたとしても、端末に登録されたメールアドレスまでは消えないみたいだね」
「ち、違う、僕じゃない、僕はメールなんて」
「うん、僕は得られた情報を先生に伝えるだけだ。僕には君が嘘を言っているようには見えない。その事もちゃんと伝えておくよ」
久保形くんはそう言って席を立つ。その姿を見送る事しかできなかった。
「お前が俺にメールしてたのかよ」
残ったのは御騰くんだ。座ったままの僕を見下ろし、睨みつけてくる。
「ち、違うっ」
「でもお前のメールアドレスだったんだよな」
「そうかもしれないけど、違うんだっ」
「ま、俺にはわからないけどな。感謝はしてるぜ、お前のおかげで気まずかった佐益さんと話せるようになったからな」
「……」
「ただ、これ以上何かするようなら、容赦はしないからなっ」
最後にバンと机を強く叩いてから去っていく。その音に教室中の注目を集めてしまった。
弁明する事もできず、僕は黙って現状を受け入れるしかない。
何がどうなっているのか。それを把握するには、情報が必要だった。




