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自主休校

 翌日、職員室に登校したら言い渡されたのは『自主休校』のお達し。正確には、一週間後に反省文を提出したら、停学ではなく自主休校扱いにしてやるという『恩情』だった。

 実際に僕を罰する証拠は無く、停学処分者を出すのは教育委員会への報告が面倒で、内々に処理したいとか思惑があるのかもしれない。

 どちらにせよ、僕には一週間の時間が与えられた。



 家に帰るとやる事は調査。本格的にクラッキングとは何かを調べ始めた。

 まずは古いスマホを取り出し、学校で落としてきたアプリを解析する。

 学内のみのwifiに接続する為のツールは、どこぞのシステム開発会社に注文したアプリ。それをアンダーグラウンドなサイトで入手した逆アセンブリにかける。

 ろくな暗号化も掛かっていないアプリは、すぐにコードへと変換された。

 しかし、書かれているコードを理解するには知識が足りない。javaやc#といったweb言語の知識を今から勉強していたら、一週間では終わらない。

 僕は必要になりそうな部分を検索する。


「192.168.0.1って、デフォルト設定じゃないか。それにパスワードがpasswordとか、どんだけ適当なんだ」


 校内wifi設定の杜撰さに愕然としながら、他の必要な情報も拾っていく。macアドレスにwepキーまでがコードの中に埋め込まれている。

 これさえあれば、専用アプリが無くても外部からwifiにアクセスできるはず。



「そしてこれがフィルター機能か」


 校内でやり取りされるメッセージの中で、特定のキーワードが使われていると、別のアドレスに転送されるシステムだ。

 いじめや死ね、自殺や殴るなどそれっぽい言葉が登録されていた。

 そして転送先のアドレスは校内の職員向けに何件か登録されているようだ。



「高島が言ってたのは、ほぼ正解だったな」


 校内用のエシュロンがこのアプリに仕込まれていた。特定のワードを調べるために、メールの内容は一度審査を受けている。

 問題ワードがあれば、宛先とは別の場所へと送られるのだ。


「問題は、このメールを誰かにコピーできるのかどうか」


 調べていくと特定ワードが使われていないメールも、一時的に別の場所にバックアップされている痕跡があった。

 校内のサーバーなので、自宅にいる状態では確認はできないが、メールが丸々残されているとなれば、佐益さんのメールを盗み見る事もできるかもしれない。



「自宅から学校のサーバーには入れないよな……ん? バックドアって何だっけ」


 特定の端末に仕掛けて外部から操作できるウイルスか。これを誰か生徒に仕掛ければ、自宅から学内のwifiに繋げるかも。

 俺はすぐさま高島へとメールを送る。



 昼休みになると高島から返答があり、続けて送ったウイルスに自ら感染してくれた。

 おかげで高島のスマホを自宅から操作する事ができるようになる。高島が驚く顔もカメラを通じて見れてしまう。

 流石にバックドアとなると大抵がセキュリティソフトで止めて貰えるらしいが、世の中には無防備なままにスマホを使っている人も多いらしい。

 こうして操作やカメラが奪われている事にも、気づいていないのだろう。



 何はともあれ、高島のスマホをキーに、学内のサーバーへとアクセスする。

 侵入ってほどでもなく、校内を司るwifiのルーターに接続。passwordでログインすると、バックアップの場所が明らかになった。

 後はそこから佐益さんのメールを探してみる。例えば「東村ラーメン」……見つけた。

 見覚えのある文面が、つらつらと並んでいる。その送信相手、多邑さんのメール内容も確認できてしまった。


 学生に振り分けられた番号で、それらのメールは管理されていて、バックアップからは適当にコピー&ペーストで内容を複写できる。

 校内メールを送るのには、また別のツールが必要だったが、学生番号で高島に向けて送信すると、程なく着信。



『お、おい、この内容』


 スマホを見て呟く声が、バックドアを通して聞こえる。何もかもが筒抜けだ。

 メールを送ることも、勝手に操作することも、自宅にいながら遠距離でできてしまう。

 そして生徒番号はサーバーに名簿と共に保管されていて、それさえあればメールアドレスを知らない相手にもメールを送れてしまう。


『犯行の再現は可能』


 俺は高島へとメールを送る。そこには没収されたはずのスマホのメールアドレスが記載されていた。

 送信者の偽装など、大層な知識がなくても簡単にやれた。あの時はその事を知らなかったから焦ったが、学生レベルでもその気になって調べたら、犯行は可能だったのだ。



『これで無実が証明できるな』

『いや、まだまだだ。これは僕にもできるって証明にしかならない。問題は誰がやったかだ』


 下手に可能だとする知識だけを伝えたら、やっぱりお前が犯人かと言われるだけだ。

 僕の無実を証明するには、このシステムを使った人間を割り出さないといけない。

 しかし、痕跡を隠す、他人がやったことにする、プロクシなんて手法はアンダーグラウンドの基礎知識。使うのは簡単だが、逆に辿るのは至難。

 警察組織ですら誤認逮捕してしまうほど、手口は巧妙に隠蔽される。



「くそっこの先、ほんのすぐ側だと思うんだ。ここまで来たのにっ」


 木を隠すには森の中。プロクシは他人から他人に移りながらサーバーを経由することで、誰がアクセスしているかを隠匿する。

 木を見つけても、その木が本物なのか、誰かの隠れ蓑なのか、僕には判断できなかった。



『一日でここまで来たんだ。真実までもすぐ辿り着くさ』


 高島からのメールにはそう記されていたが、実際に調べた僕にはその先こそが樹海だと理解できていた。

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