第五十八花「やもりの魔」
ーー空中
空気を這いながら、やもりはただただ悦に入っていた。
いや、やもりの脳にある一つの意識だけがと言った方が正しいだろう。
先ほどまで自分の方が圧倒的に格上だと思わせておいてから、本当は自分の方が弱かったと思わせることはこんなにも楽しいのか。
(ああ〜……悦、悦!)
やもりの思考の主は、まだ快楽に溺れている。
(やっぱ塵を残しておいて正解だった!こんな使い道があるとは!アドバイスくれたあのガキ、やるじゃねぇか!)
なぜ、こんな存在が生まれてしまったのか。
人間?それとも魔?
やもりの思考の主は、元はNo.25と同じ組織の組員であった。
しかし、彼は優秀ではなかった。
訓練では常に教官に叱られ、優秀な者には虐げられる生活を送っていた。
ーーーいつか全員見返す。
その思いだけを生きる目的とし、全てに耐えていた。
しかし、神は振り向かない。
ある日、いつものように訓練場に行くと、いきなり教官が名指しで自身を呼んだ。
「五等訓練兵、53!前へ出ろ!」
いつものことかと思い、普段通りに前に出た。
しかし、告げられたのは思ってもみないことだった。
「貴様はこれからモルモットだ。異論は認めない。」
「……は?」
理解が追いつかない。
つまりそれは、もう用無しということ。
「何……言ってるん、すか?俺がモル……」
「どうぞ」
教官がそう言うと、どこからともなく二つの人影が現れ、すぐに自分の意識を刈り取った。
目が覚めると、目の前には子どもが一人座っていた。
「あれ?起きた?思ってたよりも早かったね。他はまだだよ」
「……ほか?」
その時、自分の体の異変を感じる。
下半身の感覚が消えて、何かに繋がれている、そんな感覚。
恐る恐る下を見る。
「う、うわぁぁ!」
自身の腰から下が爬虫類の皮膚に繋がっている。
そして、周りには自分と同じ状態の他の人の姿があった。
恐ろしいことに、全てが一つの巨大な爬虫類に繋がれている。
「おい!どういうことだ!」
目の前の子どもに問いかける。
「ん?ああ、後で全員起きてから説明するから待っててね〜」
そして、「あ、ラングイスに呼ばれてたの忘れてた」と言いながら何処かへ行ってしまった。
どうすることもできず、ただ待つことしかできなかった。
途中で起きて自分と同じような反応をする声を聞かされるのにも飽きた頃、子どもは戻ってきた。
「あ、ほとんど起きたね。じゃあ、説明しようかな」
そう言うと、周りから怒声が聞こえてきた。
「おい、なんなんだ!ここから早く出せ!」
「気持ち悪いのよ!」
「お前か!こんなことしたのは!」
他の人たちが騒ぎ立てる。
「黙れよ、モルモット。実験動物が騒ぐな」
静寂。
たったそれだけで全員が黙った。
先ほどの口調とは全く異なるその話し方は、まるで子どものように思えなかった。
そして同時に、格の違いも見せつけられた。
これには、どう抗っても負けると。
「よし!じゃあ、説明しまーす」
元の口調に戻り、そう軽く告げた。
「えー、今から君たちには殺し合いをしてもらいます!」




