第五十九花「全ては意識から」
全てのモルモットの思考が停止する。
誰も理解が追いついていない。
「あ、今の言い方だと分かりにくかったかな……えっとねー」
そうして顎に手を置きながら考える素振りを見せる。
「言い直すと、君たちには「意識の奪い合い」をしてもらうんだよ」
意識の奪い合い?ますますわからない。
「君たちを今からそのトカゲさんに取り込ませるから、その中で主導権の奪い合い?とでも言えばいいのかな……理解した?」
……は?今、取り込むって言ったか?
しかし、誰も口を出せない。それは言葉通りの意味で、それ以上でもそれ以下でもないからだ。
その時、一人が質問をした。
「えっと、その……もしその主導権を取れず、敗北したら俺は絶対死ぬんですか?」
子どもにそう問いかける。
俺は思っていた。当たり前だろと。
しかし、聞こえてきたのは
「うーん、わかんない」
「え?」
俺は思わず声を出してしまうほどに予想外だった。
「これは実験なんだよ?何が起こるか最後までわからないのが実験のいいところ!最初から結果のわかってる作業なんて他にやらせるよ」
狂っている。なぜこんな子どもが、非人道的な実験を楽しそうに出来るのか。
「そろそろ始めていいかな?時間も限られるしさ」
誰も反論などできない。
自分の体が、さらに深くまでいくのが分かる。
「じゃあね〜健闘を祈るよ」
ゆっくりと薄れていく意識。
この裏の世界に入ってしまった後悔も出来ぬまま、死ぬのか……。
そこは真っ暗だった。
自身の存在の輪郭が曖昧で、なんとも奇妙な感覚。
具体的に意識の奪い合いとはどのようにやるのか検討もつかない。
その時、
「俺が生き残るんだ!」
背後から強い殺気と共に姿を現した。
それは、先ほど質問していた一人の男だった。
首に噛みつかれる。
「ぐわぁ!」
暴れるが解けない。なんて力だ。二等兵ほどの実力があるんじゃないか?
しかし、俺だってこのまま終わるわけにはいかない。
「これくらいで……舐めんじゃねぇ!」
逆こちらは頭に噛み付く。
それが予想外を突いたのか、男は口を外し、叫ぶ。
「いてぇ!」
そのまま力を入れ続ける。
そうすると男は、絶望を含みながら言った。
「俺は!もう何十人も喰った!なのに……なんで、なんでこんな奴に力で負けてんだよ!」
そこでようやく理解した。
意識の奪い合いとは、相手の意識を喰うこと。
予想はついていた。もう自分の体はなくなっていて、これは意識だけの存在なんだと。
「思いが強さに直結する今で!俺の生きたいって思いの強さは、こいつ以下なのか!?」
さすが、何十人の意識も喰ってきただけある。このデスゲームのいみについてよく理解している。
しかし、どう見ても俺よりこいつの方が意思が強そうだ。
「死ね、死ね、死ね、死ね、雑魚がぁ!」
その時、自身の奥底に眠ってるドス黒いものが顔を覗かせる。
言われ続けた罵倒の言葉が脳裏を巡る。
このトカゲの主導権を取ったら、復讐できるのではないかと。
そう考えると、もう何も考えずに、実行できた。
「うわぁぁ!化け物ぉ!」
俺の輪郭は溶け、巨大なヤモリへと変貌した。
俺は男を頭から丸呑みにした。その時の俺の姿は、もはや人間ではなかった。
そのまま、一人ずつ喰っていった。
逃げ惑う者、抵抗する者、それら全ては等しく無力だった。
もう何人喰ったのか分からなくなった頃、唐突に光が差した。
目を開ける。見え方が異なる。
しかし、目の前にはあの子どもがいることはわかった。
「おめでとう!君は勝ったんだよ!これからよろしく!」
そう言いながら大きな鏡を持ってきた。
そこに映っていたのは、人間ではなかった。




