第五十五花「真柄」
目の前にいるのは大太刀を持った老人。
先ほどは危なかった。沈を助けられたのは本当にギリギリだった。
色と同レベルと言われる二人を相手取ってあれだけの傷で済んでる……かなりの強者と見ていい。
……実際のところ、華と沈は色よりかは少し弱いと思っている。
本人達には申し訳ないが、日本の色とは異能の「質」が違う。
だからと言って、責めるつもりはない。むしろこれだけの相手に時間を稼いでくれただけで上出来以上だ。他の護衛なら瞬殺されてていてもおかしくない。
ゆっくりと歩みを進める。
「先に名乗らせてもらっておこう!強者よ、ワシの名は真柄 刃郎!人生でお主に出会えたこと、誇りに思う!」
「真柄……あぁ、あの時のやつの子孫か。……よく似ている」
まだどちらも動かない。
一歩。さらに一歩。
そして、間合いの一歩手前まで来たところで真柄が大太刀を振るった。
届かない……はずだったが、風圧が斬撃となって襲う。
私も刀を取り出し、対応する。
ズバァァッ!
その風圧を正面から斬り、左右に分散させる。
次の瞬間、真柄はもう目の前にいた。
「これは躱せん!」
大太刀を振るっているとは思えないスピードで、刃が迫る。
ガギィィィンと嫌な音が辺りに響く。
私は「碧」を展開し、身を防ぐ。
そして、
「斬」
剣の魔の時と同様に技を発動する。
しかし、真柄はその天才的な直感で既に後ろに下がっていた。
故に、四方八方への斬撃を躱す。
しかし、全てを躱し切れるわけがない。
真柄の体から血が流れる。
「ふぅぅぅぅ……。こりゃ厳しいわい」
あくまでも先ほどまでの態度は崩さない。
大したものだ。これ程の強者、本当に今まで何処にいたんだか。
そうだ、聞かなければいけないことがあった。
「……君は、黒の一員かい?」
「……ぬ?なんじゃ、黒とは。ワシはただ、アルバイトじゃよ。最近は物価が上がってのう……それに、聞けば強者と戦えると。そんなワシにとって最高の仕事は断る理由もないわい」
……ん?黒では…ない。しかし、大元は黒で間違いないだろう。
さて、一体どうしたものか。この様子だと、何も知らないだろう。
「そうか。なら……もう用はない」
以前の私なら、助けようという気持ちが芽生えていたかもしれない。
彼は何も知らないのだから。
しかし、今はそんな気持ちも浮かばない。
「矢」
異能を使う。
今度は「斬」の刃が集まり、人の形を為した。
手には、弓を持っている。
「打て」
一気に三本、それから矢が放たれた。
その矢は、淡い紫を放ちながら真柄へと迫る。
一本目が到着。
真柄が大太刀を振り、折ろうとする。
しかし、矢は目の前で急に進路を変え、真柄の肩を貫いた。
二本目が到着。
先ほどの矢から学び、極限まで見切りをつける。
しかしー
「……ッ!」
肩を抉られた影響で大太刀を振るうのが一瞬遅れる。
そして、矢は大太刀をすり抜ける。
しかし、真柄もそう甘くはない。
ギリギリで体勢を低くし、矢を逃れる。
三本目が到着。
体勢が悪い。
刹那の判断。
真柄は大太刀を犠牲にする。
大太刀を投げ、矢が進路方向を変える前に真正面から打ち砕いた。
全てを耐え切った、ように見えた。
「本命はまだだよ」
最後は私が迫っている。
真柄にはもう大太刀がない。
「ふぅ……全然、届かなかったのう……」
防御もせずに、真柄は刀を受け入れる。
私が振った刃は、臓腑に届いていた。明らかな致命傷。
真柄が、その場に座る。
「ワシの人生は…ここまでか。悔いはない」
流れ出る血を気にせずに話し出す。
「紫よ、圧巻だ。上には上がいるのう」
その口調は、まるで子どものようで、とても楽しそうだった。
「ところで紫よ、先ほどワシの祖先を知っているような口ぶりだったな」
「うん……まぁ」
「どうじゃった?ワシは祖先を超えられていたかのう?」
記憶が蘇る。
本気で挑まれた記憶が。
「……超えてるよ」
そう告げると、真柄は嬉しそうに笑った。
「カッカッカ!それは嬉しいわい!なんせワシは、先祖の手記を見て、この道を歩み始めたのだからな!」
……そうなのか。あいつ、手記とか残していたのか。
「さて……そろそろ眠たくなってきたわい……紫よ、感謝する。最後にその言葉を聞けたから、満足じゃ」
そして、座ったまま眠るように息を引き取った。
あぁ、やっぱり私は普通にはなれない。
今まで少し苦戦していたのだって、自分のエゴなんだって思い知らされる。
あぁ、私はまた見失ってしまうのか。
自分を、そして生きる目的を。




