第五十四花「最後まで」
先ほど斬った二人のところへと戻る。
土を被せ、弔う。
殺したことに後悔はない。ただ…もしこの人達に異能が無ければ、普通の人として生活していたのではないかと思う。
まあ、異能を持っていたかどうかは使わせる前に斬ったから分からないが。
「……行かないと」
自責に囚われていたが、ふと我に返り他のみんなを思い出す。
もしかしたら、もう全滅しているかもしれないが……
雨の中を移動する。どうやら大分離れてしまっていたようだ。
そして移動中、ふと水たまりに映る自分の顔を見た。
「……忘れてた」
今の私の左目の周りには、異能と同じ幾何学模様が刻まれていた。
そして、目が死んでいるのが自分でもわかる。
目の周りを拭うが、模様は取れない。
普段と同じ目をしようとするが、うまくいかない。
「何をやってる?そんなことはどうでもいいだろう?」
頭の中で「私」の声が響く。
そうだ。一刻も早く戻らなくては。
ーー華視点
「っ……はぁ…はぁ」
遂に動かなくなった足。
そしてその場に膝をついてしまった。
沈の姿を探す。
服を自身が吐いた血で染めながら、慣れない近接戦を真柄と繰り広げている。
「女の方は終わりか……お主も、もう限界じゃな」
真柄が少し寂しそうにそう言う。
「まだだ!俺は倒れていない!」
沈が叫ぶ。しかし、誰がどう見ても勝敗は明らかだった。
「ここまでやるとは思わなかったぞい……これで終わりじゃ」
真柄の持つ大太刀が沈に迫る。
沈がバックステップで避けようとするが……間に合わない。
大太刀が、沈を真っ二つに斬った。
その光景に、私は声も出なかった。
時間がゆっくりと流れるように見える。
頭の中の思考だけが加速する。
どうすれば……。沈を早く回復の異能が使える者の元に……。どうやって真柄を掻い潜って沈を運ぶ?動かない足を使って?
その時、真っ二つになった沈の体が
ーー消えた。
「真柄ぁ!慢心したお前の負けだ!」
真柄の後ろに迫った沈が叫ぶ。
この極限の場で、これほど冷静に最後まで勝ちを取りに行くことができる。
それが中国トップの異能者、沈 無影。
しかし沈も限界。これが、最後のチャンス。
弓を引く。
真柄は振り返ったばかり。
「影裏」
矢が、真柄の額に迫る。
至近距離で放たれた矢。
避けれるはずがない。
沈、そして華、どちらも勝利を確信した。
ーーしかし
「ふん!」
真柄が顔を少し傾ける。
そして矢は片目を通り、頭を貫通するかと思われた。
「……本当に、化け物だ」
それだけ言って、沈はその場に倒れた。
そして真柄を貫通したと思われた矢は、先だけ眼球を貫き、
ーー止まっていた。
「……見事、見事、見事見事!」
真柄は歓喜の声を上げる。
「最後の最後で、片目を持っていった!若僧!本当にやるのぅ!」
矢を引き抜きながらそう告げる。
真柄は、瞼を閉じるその筋肉で、沈の矢を止めたのだ。
華もそれを直感で理解した。しかし、頭では理解できない。
「殺すのが惜しいわい!じゃが、命を賭した勝負じゃ」
真柄が大太刀を振り上げる。
そして、無慈悲にも振り下ろされた。
華は今さら遅い後悔をする。
私がもっと強ければ……。
沈と私は、ライバルでもあった。
近距離の華と遠距離の沈。どちらが強いかで、度々国内が騒ぐほどだった。
そんな私も沈をしっかりとライバル視し、そして尊敬していた。
異能の優劣の話などあまりしたくはないが、私の異能よりも沈の異能の方が優れてるのは明らかだった。
でも、私は努力を惜しまなかった。だからこそ、比べられるまでにはなったのだ。
しかし、本質では分かっていた。足を引っ張るのは私だと。
異能は才がほぼ全てを占める。そして努力など、土台が低ければ、追いつくことなど出来ないのだ。もちろん沈も努力しているのだから。
回想を抜け、現実に戻る。
雨のせいか、土煙がすぐに晴れた。
そこに、沈の姿は無かった。
「華…だよね?後頼むよ」
「え?え?」
急に話しかけられたと思ったら、横に沈を置いて行き、真柄へと歩みを進める。
紫だった。
大分突っ掛かった割に、初会話があれとは情けなさも感じてくる。
でも、後は託すしかなかった。
「……紫、じゃな。その圧倒的な気配……なるほどのぅ、ラングイスが言ってたのは本当だったのぅ」
真柄の額に冷や汗が流れる。
ーーそれは雨で誰にも分からなかったが。




