第四十八花「魔だ序章」
一、ニ、三、四……八。
不規則に迫り来る剣をいなしながら、問いかける。
「さて、本体はどれ?」
何もない空間に向かって放たれた言葉は、そのまま虚空に散った。
私の周りには他の護衛はいない。
ーー少し前
藍とアレクサンダーを向かわせた後、私はまだ残っている護衛と共に戦うつもりだった。
しかし、数十秒後にそこに立っていたのは私だけだった。
(やられた……)
一本だと思い込んでいた剣は、そんなことはなかった。
その存在に気を取られていて、本当に隠れている剣に気がつかなかったのだ。
一瞬にして奇襲をかけられる。透明な剣など、避けられるはずがない。
そして、一人残った私に集中砲火。
でも、都合が良かった。全員、致命傷は避けている。
このままだったら櫛川が戻ってくるだろう。後は彼に任せればいい。
そんな感じで今に至る。
今目の前の八本の剣も、それで全てかわからない。
そんな時。
後ろから殺気。
(これは剣じゃない)
剣には殺気がないのだ。であれば新手か、仲間か。
そして前からは剣が迫ってきている。
上は……いや、不利になるな。なら……。
私は地面に刀を差し込む。
「塵花」
地面が陥没。土は花弁のように辺りを舞いながら風に飛ばされていく。
私諸共落ちる予定だった。
しかし、剣は空中で静止した。
私と、後ろの殺気だけが落ちていく。
「なるほど……人間じゃないな。一度に二つの異能など、使えないからね。そうでしょ?」
後ろを振り返り、殺気を放っている人間に目を向ける。
そこには二人いた。いかにも野蛮な感じの二人が。
おそらく、剣の仲間ではない。漁夫の利でも狙っていたのだろう。
……しかし、三流だ。そこまで警戒する必要はなかったのかもしれない。
何やら言っているが、言葉がわからない。
アレクサンダーの異能がどれだけ便利で有用か身に染みてわかった。
「ごめんだけど……君たちに構っている暇は無いよ。命のやり取りだ。分かってるね?」
言葉は通じないが、私が何を言ったのか理解したかのように、一瞬で気を引き締めて得物を構えた。
どちらも落ちている状況。下に着くまでは何もできないと思っているだろう。
だけど、残念。
「願いに応えて、ゆかり」
刀の花の模様が、一瞬光る。
「伸蛇蔓」
刀振るう瞬間、刀身が伸び、間合いを完全に潰す。
初見で見切れるはずがない。
しなるように変化する刀身はいとも簡単に防御をすり抜け、二人を横に裂いた。
そして、そのまま伸びた刀身をさらに伸ばし、鞭のように上へしならせる。
刀身は一本の木に巻きつき、そのまま私を持ち上げ、地表へと引き上げた。
穴の底には、二つの死体が転がっている。
「……後で弔いにいくから」
それだけ呟き、再び前を見据える。
「……嘘でしょ」
私の前にいたのは剣が集まり、人の形をした何かだった。
その存在は、静かに私を見つめている。
「君……意識あるよね。魔のくせに」




