第四十一花「夢」
電車の外には、景色が広がっている。
ーー◼️◼️◼️の。
私は、ただ座ったまま眺める。どんな気持ちなのかと聞かれても、わからない。
景色が変わる。
宇宙だ。
星が煌めく。
しばらくすると、青い星が見えてきた。
そして、その星から離れていく一つの飛行体。
景色が変わる。
今度は真っ暗。
時々気泡が電車の窓に張り付く。海の中だ。
景色が変わる。
今度は陸地だった。
植物だけが生い茂っている。
景色が変わる。
様々な生物が、本能のまま生きている。
今では見かけない恐竜が、蔓延っている。
そのまま電車は時を進み続けた。
あまりにも長い時間を見ているはずなのに、不思議と短く感じられる。
巨大な隕石が落ち、氷が星を支配し、
そしてさらに時間は進み、
ーー人類が、誕生した。
最初に電車が停まったのは、おそらく縄文時代。
一人、乗ってきた。
さらに時が進むにつれ、ちらほらと乗ってくる。
しかし全員、六十年ほどで、降りてしまう。
私だけが、ずっと乗っている。
もう、何人見送ったかわからない。
人が年を取って、降りていく姿を見るのはなんとも苦しかった。
そしてーー戦国時代。
一人の女性が乗ってくる。
私は思わず声を上げていた。
「……ゆかり」
記憶が、次々に蘇ってくる。
しかし彼女は、すぐ降りてしまった。
「……あ」
去り際に私に一本の刀を遺して。
そのまま時は流れていき、ついに現代。
私はこのまま一生、見送り続けなければならないのか。
「……紫様ー……紫様ー」
何か私を呼ぶ声が聞こえる。
私は重い瞼を開けた。
「ずいぶんと熟睡されていましたね。着きましたよ」
目の前には、櫛川の姿。
そうか、もう着いたのか。
「起こしてくれてありがとう。……いてて。ちょっと腰が」
そう言うと櫛川は少し笑った。
「なんだか眠る前よりお年寄りに見えます。……おっと、これは失礼」
寝ぼけている私に向かって何やら失礼な言葉が聞こえてきた気がしたが、まあ見逃してやろう。
「……どうぞ」
櫛川にいきなりハンカチを渡された。
「いや、気づいていると思っていたのですが、どうやらそうではなかったようなので…」
え?
「涙、拭いてください」
そう言われて頬に触れる。
泣いていた。久しぶりに涙を流した気がする。
「なにか悪夢でも見ましたか?」
ハンカチを受け取り、涙を拭いていると、櫛川が聞いてきた。
「うーん……秘密」
夢の内容を話すわけにはいかない。少なくとも今は、まだ。
「そうですか。何かあれば相談に乗りますよ」
紳士。今まで何人の女性が落とされてきたのだろうか。
そんなことを考えていると、通信が入った。
「紫、聞こえますか。藍です。そろそろ出てきてください」
おっと、今は任務中だった。気を引き締めないと。
「では、いきましょうか」
その声と共に、スイスの地へと降り立った。
ーー四カ国首脳会談。怒涛の三日間が幕を開けた。
ーーーーーーー
同じ頃、一つの小さな影がスイスの地へと足を踏み入れた。
「いやー、空気が美味しいね!日本からはるばる来てよかった〜」
無邪気な少年に見える。でもそこにはなんとも言えない不気味さがあった。
「わざわざありがとうね。君が実験で成功させた「渾鬼」とやらは持ってきてくれたかい?」
「ばっちしさ!」
「今回はあの「紫」とやらがいるからね。あの刀は厄介だよ……ま、油断は禁物さ」
「母様?母様がいる!?それは楽しみ!」
無邪気な声が、響く。
そして、二つの影は闇に溶けていった。




