第三十九花「願い」
「痛みを…感じない…」
崩れゆく自分の体を見つめながら、驚いたように彼…No.25は声を上げた。
そして私の方を向き、静かに話し出した。
「俺の異能は、「間遊」。少し言葉にしずらいが…「一秒間の自分を分けることができる能力」と言ったところだな」
概ね、私の予想通りだ。例えば、「一秒の半分を攻撃に使い、半分を安全な場所に避難させておく」といったことだ。あの四体の攻撃は、自分を五個に分けていたのだろう。
「…まぁ、この異能はタネが割れれば同格、格上には通用しない。全て実体はあるが、本体は一体だ。隠れている俺を見つけられたら、一気に不利になる」
そこだ。私のわからないところ。なぜ私は、異能についてわかるまでに彼の本体を見抜けなかったのか。
それに答えてくれるように彼は話を続けた。
「これはラッキーとしか言いようがないんだが…どうやら人ってのは目の前に見えているものが脳を支配するらしい。俺には認識阻害なんてしてないのに、誰も気づかない。…一人だけいたな」
そう言って、彼は少し遠い目をした。
「大丈夫。君の復讐は、私が引き継ぐから」
私は彼の目をまっすぐ見て言った。
「頼むよ」
もう、彼は片腕がほとんど消えかけていた。
「さて……もうちょっとやらなければいけねぇことが残ってるな」
そう言って、通信機らしき物に向かって、声を投げた。
「おい、どうせ見てたんだろ」
その彼の声には、憎しみが含まれていた。
「お疲れ様〜!いやー、いい戦いだったよ。好きな野球選手がホームランを打った時くらい、興奮させられたよ」
あまりにも能天気で、空気を壊す声だった。
「誰?」
私はそう問いかける。彼の態度で、おおかた予想はついているが。
「おや?その声は…先ほど彼の復讐を受け継いだ「紫」さん!いやー…お声いただき恐縮ですね!僕は、この組織のボスをやっているものです。どうぞお見知りおきを」
これが…。私は、その声を覚える。情報は、なんでも重要だ。
「おい、俺はもういく。話を聞け」
その時、No.25が割り込んできた。
「ボスに向かってその態度は良くないと思うけど…はぁ、どうぞ続けて?」
「俺たち十分やったろ。だいぶ情報は引き出した」
「そうだね。ご苦労様」
「だったら処刑は無しでいいだろ」
その時、櫛川のそばにいた彼の側近が、声を上げる。
「待ってください!私たちは死ぬ覚悟が…」
「黙れ」
彼は、側近を睨みつける。
そして、視線を戻し、続けた。
「いいだろ。どうせ処刑すんなら、全員解放しろ」
その声は、強かった。そして、通信機を待つ。一瞬の沈黙の後、
「うーん…別にいいよ?そもそも任務失敗したら処刑って言い出したの僕じゃないし。後は好きにしていいよ」
予想外の反応だった。まるで、興味がないように見える。
「言ったな…。ふぅ、もう大丈夫だ。そういや特攻隊は呼び戻しているから安心してくれ」
そう言って私を見る。
ん?いつ連絡したんだろう?
そう思っていると、見透かしたように彼は言った。
「俺の分身に蹂躙されてる時だよ」
……。否定したいが、否定できない。ちょっとむかつく。
「ふぁ〜…そろそろ切るよー。忙しいし」
「もう用はねぇ」
「冷たいなー」
そして、通信機が沈黙した。
「紫」
彼にそう呼ばれた。
「胸のポケットに入っているもの…それ、出しといてくれ」
もう自分では出せない。彼はもう腕がない。
私は彼に近づき、胸のポケットから二つのものを取り出した。
一つは手紙だった。切手が貼られてある。
もう一つは、文字が殴り書きされているメモのようなものだった。
一番上に、「情報」と書かれてある。私向けだろう。
「わかった」
私はそれだけ言い、それらを自分の懐にしまった。
「あいつらは、もう自由だ。でも…道を示して欲しい。後は頼んだ」
そう言って、側近らを見る。
「わかった。……それにしても、頼みすぎじゃない?」
私は少し、ジト目で彼を見た。
彼は少し笑った後、
「おまえは、「色」だろ?」
そう言い、散っていった。




