第三十七花「才の違い」
ーーテロリスト視点
私は、常にギリギリだった。
本当に、「七華総監の側近」は強い。
打つ手が……ない。
ただ、そう思わされた。
相手は武器すら持っていない。ただの拳、それに蹂躙されている。
もし彼が刃物なんか持っていたら、今頃私達は刺されて死んでいるに違いない。
私ともう一人…二人を相手取っているのに余裕そうだ。
「もう一人の方…優秀な異能ですね。あの男ではなく、こちらが「認識阻害」をされていたんですね」
私にそう言ってきた。
「……そうですよ。彼は優秀です」
私はそう言いながら、先ほどよりも力んでいるのを自覚する。
「あなたは、異能持ちでは…ありませんね」
少し気でも遣ったのだろうか。少し言いにくそうにそう、言った。
「…そうですよ。私は持っていません。ただ、人よりも身体能力が高いだけです」
そう…私は異能を持っていない。ただ身体能力が高い、それだけ。……それだけ。
これは私の予想でしかないのだが、もともと異能と、異能を使うための「力」があって、その「力」だけが発現してしまったのが私のケースなのだと思っている。実際、私みたいなのは他にもいる。
「……それにしては強いですよ。誇っていいレベルです」
まだ一撃も入れられていない相手から言われても、嫌味にしか聞こえない。
「思ってても言わなくていい時があるんですよ、側近さん」
そういうと、少し目を見開いてから、
「…これは軽率でしたね。謝罪します」
顔は見せてない。声で察したのだろう。私がどう思っているかを。
彼は完璧だ。敵である私たちにも敬意をもって話している。
全てが負けている気がした。彼を見ているだけで、心が痛い。
「さて…そろそろ、あちらも終わりそうですね」
そう言って、横を見る。私もその方向を見た。
そこには、一撃を入れられたNo.25の姿があった。
「どうしますか?このまま続けてもあまり意味がないように思います。私としては降参してくれるとありがたいのですが…」
……なるほど、彼は私たちを捕虜とするつもりだろう。
しかし、残念ながらそれはできない。私たちは。
ああ、やはり私たちは「捨て駒」だ。
今はもう、なんとも思わない。
「……では、こうしましょう。私は今から攻撃しません。異能も使いません。なので二人で合わせて攻撃してきてください。私がそれに耐えたら、降参する。……どうですか?」
ああ、彼は異能すら使わずに私たちを止められるのか。
異能がない私を、異能なしで止めることで、要求を飲むと考えたのだろう。
……どうせ、最後だ。……乗ろう。
それに、万が一だが、勝機があるかもしれない。
もう一人……No.111は、物や人にも「認識阻害」をかけられる。
特攻隊を仕掛けるために私に使った時以外、使っていない。
彼は…先ほど言ったことを守るだろう。異能を使わないと。
だったら、利用するしかない。
「わかりました。……後悔しても遅いですよ」
そう言って姿勢を低くし、相手を捉える。
その姿勢は片腕を後ろに回してる。
そして、指文字で後ろにいるNo.111に合図をする。
「さあ、どうぞ」
そう言われた瞬間、私に異能がかかる。
最初と同じように、距離を詰める。
刃が届く
ことは、なかった。
彼は、異能を使わなかった。
私の刃が達する瞬間、腕が掴まれ、地面に叩きつけられる。
その衝撃で、仮面も割れた。
「…おや。仮面、すいません。……可愛らしい顔をされていますね」
私の年が、思っていたよりも若いと思ったのだろうか。
「そうくると思っていましたよ。特攻隊を仕掛けた時のこと、忘れてません」
ああ、全てお見通しだったのか。
「私の予想勝ちです」
そう言って、私をそのままゆっくりと地面に寝かせた。
私も、吹っ切れた。後悔はない。
「降参です」
気づけばそう、呟いていた。




