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第三十二花「被弾」

ーー遡ること少し前。

藍の言葉により、それぞれが配置についた。

そして私、櫛川、華はーー飛行機の上に立っていた。

「では、私は沈と共にここに残り飛行機の護衛をします。三人は櫛川の「瞬転」で向こうの機体に行き、制圧してください」

藍の配役に文句はない。問題は華とうまくコミュニケーション取れるかだが…まあなんとかなるだろう。

では、どうやって行くのか。櫛川の「瞬転」は行ったことのある場所に転移できる異能。

向こうの機体には行ったことがないじゃないかと思っただろう。

これには「瞬転」についてもう少し詳しく説明する必要がある。

詳細に言うと、「瞬転」は櫛川が行ったことの「座標」を媒介とし、そこに転移するというものだ。そう、転移先が空でもできるにはできるのだ。

向こうの機体は私たちが通ってきたルートを辿っているので、うまく乗り換えられる。

問題として、櫛川は空の座標がわからないが、今は私がいるのでそれが可能だ。

「瞬転」する際は障害物が少ない方が疲れないらしいので飛行機の上に来たが、風が強すぎてあまり声が聞こえない。

飛行機は絶えず移動しているので、座標を伝えたらすぐに移動しなければならない。

しかも伝えるまでのラグも計算しないといけないからとても大変だった。

大変だった。大変だったんだよ。

ーーそう、少し私が座標を間違えたのだ。

というわけで、三人仲良く天井裏の狭い空間に転移し、身動きが取れなかったわけだ。

華が天井を蹴破って下に落ちたが、いきなり結構強いやつが奇襲かけてきたので危なかった。ナイフの刃は折れたが、一瞬でも遅れていたら一撃もらってただろう。

少し心音が大きくなりながら、こういう時は虚勢を張るのが一番だと思い、少しかっこつけてしまった。

「ご名答だよ。さっきのかっこ悪い登場は無かったことでよろしくね、テロリストさん?」


ーーそして今に至る。

少しの静寂が流れる。

「……二人は大丈夫?」

何があったかはわからないが、櫛川が何かしてしまったのだろう。

今は敵地ど真ん中なので少し後にしてもらいたい。

まあ、二人もプロだ。そう問いかけると一瞬で表情を変えた。華も雰囲気で察してくれたのだろう。

私は目の前に立つ男を見る。

少し気だるそうに見えるが、目は狩人のそれだ。油断を誘うように振る舞っているが、実際に気を抜くと、一瞬で間合いを詰められるだろう。

「おうおう、怖いねぇ…そんな見透かされるような目で見つめて」

そう言って準備運動でもするかのように腕を回す。

「いやー……私も見張っとかないと急に攻撃されそうで怖いよ」

いつ始まってもおかしくない空気が流れる。

「それにしても…国のトップ張る奴は違うなぁ。まさか乗り込んでくるとは思いもしなかった。おかげでこっちの計画が潰れちまったよ」

そう言って男は肩をすくめる。

「それは残念だっ…」

そこまで言いかけたところで後ろの存在に気づく。

先ほどまではそこにいなかった。男の横に立っていたはずだ。

黒の仮面を被っている彼(彼女?)は通信機らしきものを手にしている。

まさかーーそう思った時には遅かった。

「特攻隊、突撃開始せよ!」

通信機に向かって声高々に告げる。

それに気を取られたのと同時に、目の前に「何か」が迫っていた。

なんとも言えない気持ち悪さを感じ、咄嗟に後ろへ跳んだ。

しかしーー

……ポタ。

足元を見る。赤い液体が、そこに一滴落ちていた。

頬に触れる。

ーー切られていた。

「……おっ。今度は当たったなぁ」

私が先ほどいた所には、あの男が立っていた。

だが、妙だ。私の目は男がそこにいると言っているのに、脳がそれを拒否している。

「考えていた作戦は無くなっちまった…。でもよ、かえって良かったかもしれねぇな」

ゆっくりとこちらに歩いてくる。

「俺らは護衛を殺す必要なんてない。大統領の首だけでいいんだ。わざわざ守りを薄くしてくれて感謝だ」

その時、特攻隊と思しき機体が、横の窓から見えた。

そのまま前に進んでいく。

「…ふっ」

私は笑った。

男はこちらへの歩みを止め、怪訝そうな顔でこちらを見た。

「藍も舐められたもんだね…。安心していいよ、テロリストさん。特攻隊が飛行機に届くことはないから」

「そんなことより」

私も一歩前に出る。

「そろそろ始めよっか?準備運動も済んだみたいだし」

私はそう言い、距離を一瞬で詰める。

そして刀を振るった。

まずは相手の異能を観察しなければならない。

手応えは…ない。

「一筋縄ではいかねぇよ。最後の悪あがきだ。出し惜しみはしない」


戦闘開始。



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