第8話 個人情報の取り扱いにはご注意を
冷静に考えると、自分の家の車(姉のだけど)に、クラスメイトの女の子が乗っているなんて、猛烈に恥ずかしいな。
「飛ばすぞ」
ギュッとハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
ぶぉぉぉと唸る軽自動車。そのスピードは30 km/h。安全第一。
「おい優良ドライバー。吉田の家を聞けよ」
「吉田ぁ? なんだ、その、私にやたら告ってきそうな男の名は」
「弥恵の大好きなシズクたんだよ」
「ちょっと……その呼び方……」
後部座席の方を見ると、吉田が自分の名前を呼ばれたせいか、顔を赤くして縮こまっていた。
「はっ!? 私の最推しのシズクたんが吉田、だと!? いつから!?」
「シズクたんが生まれた時からだろうよ」
「なんと!? くっ、私としたことが……私的脳内吉田設定を告って来る奴から最推しにアプデしないとな」
早口の低音クールビューティボイスでなにを言ってんだ、この成人女性は。
「すまないシズクたん。私としたことが……殺してくれ」
「ええっと、今、死んでしまったら困ります」
そりゃ運転中に死なれなたら困るわ。
「推しが私如きに救いの手を──死ねる」
「生きてください」
「はい!! 生きて一生推します!!」
我が姉ながらやばいな、こいつ。
「して、シズクたん。家はどこだ?」
「あ、ええっと、家じゃなくて、近くのコンビニで……」
「むむっ。そうか、限界オタクに家を教えるなど笑止。そう易々と教えるわけもないか」
自覚はあるんだよね、この姉。
「いえ、そうではなく、その……おじいちゃんとおばあちゃんがお仕事でいなくて……」
おじいちゃんとおばあちゃん?
吉田の発言に少しばかり引っ掛かりを覚える。
普通、中学生の口から最初に出る家族の不在は両親のはずだ、よな。なのにアイツは当然のように祖父母の名前を出した。
そういや、吉田と親の話ってしたことないな。まぁ普通、両親の話なんて、あいそれとしない、か。
「なるほど。家の人が留守か……では、私達と共に来るか?」
「は?」
弥恵の提案で吉田への引っ掛かりが消えた。
「おい、弥恵、なに言ってんだよ」
「ええっと、良いんですか?」
「おい、吉田、なに言ってんだよ」
「もちろんだとも。セツきゅんの野球姿はかぅぁぁくぉいいぞぉ」
「そうなんですね。セツきゅんの野球姿見てみたいです」
俺がシズクたんと呼んだお返しなのか。プラスして付いて来るなんてどんな嫌がらせだ。
♢
弥恵の運転で30〜40分運転した山の中。そこに俺の所属する、リトルシニアの練習場がある。
公式試合の会場にもなる場所なため、しっかりとしたスタジアム。プロ野球の試合でもたまぁに使用される場所だ。
駐車場に車を停めると、吉田と弥恵はそのまま保護者用の内野席の方へと向かって行った。
俺はそのまま選手用のロッカー室で練習着に着替えた。
「瀬綱ぁ!!」
ボンっと背中を叩かれて振り向くと、俺より背は低いが、肩幅が広い男子が、「がっはっはっ」と笑って立っていた。
「奇遇だなぁ」
「海星……奇遇もなにも、同じAチームなんだから練習時間同じだろ」
「あっ! それもそっか!! じゃあ運命ってやつだ!!」
「必然ってやつだよ」
「やべぇ。また国語力が上がっちまった。野球の腕もゴリゴリ上がるのに、国語力も上がったなら、俺はどうなっちまうんだ!?」
「本が読める」
「やっば、眼鏡かけなきゃ!!」
総持寺海星はいつもこんな感じ。小、中は違うけど、リトルからの付き合いで仲良くしてもらっている。
「ふっ。眼鏡をかける人が賢いというイメージとは、なんとも古い考えだな」
俺と海星の身長の真ん中辺りのタッパの奴が、嘲笑いながらロッカー室に入って来た。
「うぃ、迅平」
体が大きく、クールな印象の富田迅平とも、小、中は違うけど、リトルからの付き合いで仲良くしてもらっている。
「うす、瀬綱。すまんな。またこのバカが悪絡みして」
「んだとぉ? 瀬綱は俺と絡めて嬉しいって思ってんよ。なぁ、瀬綱」
「んなわけあるか、くそ海星がっ」
「誰がくそだっ、くそ迅平がっ」
「くそ迅平って、語呂悪くない?」
いや、別に語呂は悪くないだろ。
「あああ!! ほんとだああ!! くそ海星の方が語呂がいいいいい!!」
なんか海星の奴が勝手に敗北した宣言そのままひざまついてしまう。
「よって、お前は二日間くそ海星だっ」
「敗者に権利はなし、受け入れよう」
受け入れるんだ。
富田迅平と総持寺海星は幼馴染だ。だから二人とも、とーっても仲良し(笑)
「ま、悪絡みでもなんでも、二人が絡んでくれるだけでありがたいよ」
「「あん? どういうこと?」」




