第5話 凹んだあとの心地良い場所。ちなみにバリバリじゃなくてベリベリだからそこ重要
放課後になってスマホを職員室に取りに行くと、北山先生が心配した顔でお出迎え。
「瀬綱、お前やっぱり友達となにかあったんじゃないか?」と、これまた心配そうな声で質問されてしまった。
「友達とはなにもありませんよ。うまくやれてます」
強がりでもなんでもない返事を一言だけしてやって職員室を出た。
これは本当に強がりでもなんでもない。
この学校に友達がいないだけだ。
自分で言ってて悲しくなるし、体育のバスケを思い出して泣きそうになるのを我慢し、スマホを見る。
『正門にいるね』
吉田から初めて送られたLOINは事務的な内容。だけど、なんだか無性に安心した。
俺は拒絶されるだけの人間じゃないんだと言ってもらえているみたいで、嬉しかった。
返す必要性もない。ただ正門に行けば良い。だけど、吉田からのLOINが嬉しかった俺はすぐさま返事を返す。
『すぐに行く』
宣言通り、職員室から正門まで秒で行ってやる。
放課後になって少しだけ時間が流れている。部活は始まったばかりで、正門に向かう生徒は俺だけ。
早足で正門に到着したんだけど──
「吉田……?」
正門に吉田の姿はなかった。
辺りをキョロキョロと見渡したが、いない。
「え、なんで……」
もしかして帰った? 俺なんかと一緒は嫌?
体育館で有河に言われた言葉が脳裏を過る。
『調子乗んなよ』
調子乗った? 俺が? いつ? わかんねぇよ。
途方に暮れるってのを正に体験中のことだった。
「わっ」
トンっと、背中を軽く押されてしまう。
その声が聞こえた途端、張り詰めていた緊張が解けて、ほんの少しだけ涙腺が緩んでしまった。
「あ、やばっ、ごめん。びっくりした?」
「こんなんでびっくりするかよっ」
慌てて手で目元を払い、泣きそうだったのを隠す。女子の前で涙を見せるなんて、来年高校生になる身分として絶対になしだ。
「てか、どこにいたんだ?」
「ふっふっふっ」
吉田は俺の誤魔化しに気づいてか、気づかずか、自慢げに胸を張った。
改めて見ると、放課後の吉田は少し雰囲気が違っているように思えた。
髪がきれいに整えられている。
セーラー服のはずなのに、どこか周りとは違う着こなしに見えてしまう。
どっかの街で貼られているポスターから飛び出してきたみたいに見える。
モデルってのは末恐ろしいな。
「谷本の姿が見えたから、こう、シュパっと後ろに回り込み、そーろりと後を付けたのだよ」
「そーろりって独特な表現だな、おい。全然気付かなかったわ」
「谷本、背も伸びたけど、後ろから見たら肩幅もすっごく広くなっててさ。完全に隠れられちゃうから、驚かすの余裕だったよ」
「そりゃ中一の時に散々バカにしてた時には、夢にも思わなかったろうな」
「だ、だから、バカにしてたわけじゃないよ」
必死に否定してくる吉田を見て、ふっと胸のトゲが抜けていくのがわかった。
体育の時間、コートの真ん中で誰からもパスが来なかったあの生き地獄。だけど今、目の前で自分の言葉に一喜一憂してくれている。これがどれほどにありがたいことか、身に染みる。
「ま、なんにせよ、今は中一の時に吉田に絡まれて良かったって思えるよ」
「え?」
こちらの深層心理が少し漏れてしまったみたいで、吉田は上目遣いのまま、パチクリと目を丸めた。
「いしし。もしかして、私のこと好きなの?」
「女子ってのは男子より早く大人になると思っていたが、吉田は身長だけ大人になったんだな、可哀想に」
「むかー。それは谷本でしょ」
「俺は昔から精神年齢が熟成されてるのだよ」
「誰が熟成されてるって? バリバリ財布のご身分で」
「おいごら。ベリベリ財布だろうがっ」
「そこぉ?」
あはは! と笑いながら、俺たちの足は自然と星馬に向かって行った。
校門を出て、駅前へ続く大通りを並んで歩く。
すれ違う他校の高校生や、買い物途中の主婦たちが、チラチラと俺たちの方を見ては「え、あの子……」「背、高っ」と小さくざわついているのがわかった。
学校の連中みたいに腫れ物を触るような目じゃない。純粋な、羨望と好奇の視線。
学校じゃあんなに居心地が悪かったけど、吉田と二人で並んでいる時だけは、なんだか誇らしいものに思えてくるから不思議だ。
今は、この中身のない、だけど二人だけの会話が、めちゃくちゃに心地よかった。




