第4話 俺と吉田は似ているんだな
普通、LO INを交換したその日は連絡するくない? なにをもって普通ってのはさておいてさ。
そりゃ現役モデルで忙しいのはわかるが、本人確認のための、『あ』でもなんでも送るのは礼儀みたいなもんじゃないの?
こちとら向こうさんが送って来ないから、意固地になって送らずにいてやったさ。
──はい。うそです。ただヘタレを発動させただけです。
だってよぉ。現役モデルに文章送るとか、無理ゲーだろ。いくら巨人の吉田といえど、その肩書きが邪魔をして、難なく送ることなんてできっかよ。
つらつらと、LOINを送れなかった理由を、誰に言い訳してんのか。
脳内言い訳大会を開催させながら、三年一組の教室へ到着。
クラス替えをして日は浅いが、もう中三なわけで、グループってのはあっという間に完成されている。
「おはっすー」
小学校からの仲の男子グループに朝の挨拶をすると、会話がピタッと止まる。
時間が凍りついたかのように沈黙が流れ、ようやく向こうの一人、上原が口を動かした。
「お、おはようございます……」
俺は嫌いな上司かなにかかな。そりゃ俺が嫌いなコーチにする挨拶だわ。
つまりまぁ、こいつらは俺のことが嫌いってわけだ。
──俺、なんか嫌われることでもしたのかな。覚えはない。
別に俺は嫌われても平気だし……。とか、自分自身にウソをついて、自分の席に座る。
俺みたいな嫌われ者が学校に来る意味とかあんのかな。
「おはよ。谷本くん」
席に座ると、クラスのマドンナてき存在の井駒が朝の挨拶をしてくる。
「ああ、おはよ」
こいつとも小学生は同じだが、散々俺のことを馬鹿にしてくれたってのに、中二あたりから、やたら絡んで来やがる。
「谷本の奴、井駒と付き合ってんのかな」
「変わったもんな、あいつ」
「野球の日本代表だっけか。良い女と付き合って、俺らのこと見下してんだよ」
「仕方ねぇよ。住む世界が違うんだから」
聞こえてんだよ。陰口叩くなら文字通り陰でコソコソ叩けや。
つか、俺は何も変わってないし、誰かを見下したことなんてない。住む世界は一緒だろ。
──小学校の頃、みんなで一緒にゲームやオモチャで遊んでたのに……なんで、こんな……。
「──でね。◯◯で……」
井駒がやたらめったら話しかけて来るが、そんなもん頭に入ってこん。
「さおー、おはー」
「あ、みぃ。おはー。じゃあね、谷本くん」
「あ、ああ」
他の女子に挨拶され、ようやくと行ってくれた。
朝からなんの話をされたのかまったくわからんが、まぁ、他愛もないこったろ。
しかし井駒の奴、俺に散々話して、女子グループでもめちゃくちゃ喋ってんな。
──あれ? てか、あのグループって……。
チラリと窓際の一番後ろの席を見ると、吉田がポケーっと窓の外を眺めていた。
♢
つまらん授業をやり過ごしていると、体育が始まった。
体育会系の俺としては体育はボーナスタイムよ。机でジッとしているより何倍も良い。
体育館に集められた男女40名。今日は女子体育の担当の小倉先生が休みだから、男子体育担当の北山先生が男女まとめて面倒をみてくれるらしい。
「なんか担任が体育見てくれるって、小学校みたいだな」
ふと思ったことを呟くと、「え、あ」と上原が返してくれる。
「そ、そうですね」
「……」
なんで敬語なんだか……。それ以上、絡んで来るなオーラを出されてしまい、独り言も抑えておいた。
「よーし、今日はバスケでもするかー。男女分かれてやるぞー」
北山先生の言う通りに体育館を男女半分こして、バスケの試合が行われた。
「チームは好きな者同士──名前順の奇数と偶数に分かれてから、そこで均等にするかっ」
あ、空気読んだ。
この時代に好きな者同士で組ませるのんてナンセンス。俺みたいに省かれる奴が現れるからな。
だからって俺を見てくんな、くそ北山めっ。
そんなわけで、チームは偶数チームと奇数チームに分かれた。
もちろん、それでピッタリチームができるはずもなく、チーム力を公平にするために、調整が行われて、男子4チームが完成。女子も4チームが完成する。
試合するチームと、観戦するチームに分かれて試合開始ってわけで、「谷本っ」とボールが勝手にやってくる。
嫌われてはいるが、試合に負けたくないっていう感じかね。ま、俺はタッパがあるから、レイアップで、ホイッとな。
「谷本くーん! かっこいいー!」
女子の方から井駒の声が聞こえてくると、それと同時に、「ほんとかっこいいね」なんて声もチラホラと。
内心で照れて、ここで手を触れたなら、俺は学校のアイドルとして降臨できたのだろうか。
しかし、そんなことをしたら、男子連中から目の敵にされてしまう。
そんな葛藤の中、女子の隅っこの方で吉田が、パチパチと手を叩いてくれていた。
元バスケ部の吉田が褒めてくれたのが、なんとなく嬉しくって、つい手を振ってしまう。
きゃあああぁぁぁ!!
それを勘違いした女子達が黄色い声を上げ出した。
「調子乗んなよ」
ボソリと、耳元で学校のドンみたいな男子、有河に言われてしまった。
ゾッとするほどのローテンション。敵意丸出しの態度。
そこからの5分間は、生き地獄。
有河だけじゃない。同じチームの他の奴等も、あからさまに俺を無視し始めた。
どれだけ俺がフリーになろうが、どれだけゴール下で手を挙げようが、誰も俺を見ようとしない。まるで俺の体が透明人間にでもなってしまったかのように、視線すら合わない。
ボールは俺の頭上を、あるいはすぐ横を、わざとらしく通り過ぎていく。
──パスが、来ない。
試合中だっていうのに、俺の周りだけがぽっかりと静止しているみたいだった。
ただただ、無意味にコートの端から端へ走らされるだけの木偶の坊。
「おい、こっち!」と声を張り上げようとして、喉の奥がキュッと詰まって言葉が出なかった。
惨めだった。嫌われてるのも、敬遠されてるのも分かってたつもりだったけど、いざこうやって目の前で『お前は別の世界の人間だ』と境界線を引かれると、胸の奥がズキズキと痛む。
コートの真ん中で独りぼっち。
早く、この時間が終わってほしかった。
♢
まったく、嫌になるね、男子の嫉妬ってのは。
ま、別に良いけど、ね。良いけども……。
凹むは凹むよな。あからさまに嫌われてるってのは……。
体育座りで膝小僧に顔を埋めて、うじうじっと──。
「うはぁ、やべぇ、吉田のスタイルえぐすぎ」
「おい、ジャンプした時、めっちゃ揺れたぞ」
男子の下衆な会話か顔をあげると、丁度レイアップシュートを決めているところだった。
綺麗だ。まるで天使の羽でも生えたかのように軽いジャンプ。
シュートを決めた吉田は、嬉しそうに「いしし」と笑って、自分のチームの女子たちを振り返る。
──だが。
「な、ないしゅー……吉田さん」
「……あ、うん。ありがと」
チームの女子たちは、どこか引きつった笑みで、一歩引いた位置から拍手を送っていた。
ハイタッチをするわけでもなく、まるで見えない壁があるかのように、吉田の周りだけぽっかりと空間が空いている。
吉田ってめっちゃ人気者ってイメージなんだが……
──あ。
その時、独りぼっちでコートに立つ吉田と、壁際で体育座りをする俺の目が、不意に真っ正面からぶつかった。
その不安そうに揺れる瞳を見て、俺と吉田は似ているんだと思った。




