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せつなのダイヤモンド  作者: すずと


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30/31

第30話 かたくなった心をほぐしてくれる。また借りができちまった

 有河の件から数日。三年一組の教室は相変わらずグループに分かれ、ザワザワとしている。


 もう少ししたら夏休みということもあり、浮かれているんだろう。


 その中心に有河はおらず、当の本人は机に伏せって寝ている。


「ぷっ。寝てんぜ」


「散々偉そうにしてたのにな」


 数日前まで取り巻きだった連中は、有河を見て笑っていた。


 そりゃまぁ、あんだけ偉そうにしていたにも関わらず、みんなの前で、わんわんと惨めに泣いたら、こんな結果になる。


 あいつが俺へと散々やったことを考えると、可哀想だとか、声をかけてあげるだとか、そんなことは微塵も思えない。


 ただ、それを見て気持ちの良いものとも思えない。


 俺ができるのは、あんな下衆な連中と関わらないことだ。


 同じように陰口を叩かないこと。そして、関わって来たのなら、あらゆる手を使って対処することだ。こちらに害がないのなら踏み出す意味もない。


 今のところ、俺への害なんてものはない。


 そもそも、有河が俺に嫉妬してたってだけで、あいつらからすると俺に攻撃する意味なんてなにもないもんな。むしろ俺に関わったらややこしいだけでマイナスだろ。


 吉田も俺と同じ感情だと思う。


 あれから井駒たちが関わって来る気配はないし、これからも関わってはこないだろう。


 というか、こちらには心強い大人たちがいるわけだし、あんなことがあって、また報復まがいなことはしてこんだろ。


 ぼっちエンド。


 これがハッピーエンドというわけではないが、最善の解決だったとは思える。


 ♢


「日本代表、おめでとう」


 昼休みになり、吉田との恒例のキャッチボールはできずにいた。それでも吉田とこうやって昼休みに中庭に集まった。


 ま、お互いにぼっちだからな。傷の舐め合いってやつだ。


 そんな傷の舐め合いだろうがなんだろうが、先日、日本代表の内定をもらったから吉田に報告。早速と祝福のお言葉を貰えることに。


「ありがとう。吉田のグローブのおかげだよ」


 あの時、有河にグローブを捨てられ、途方に暮れていた俺にグローブをくれた吉田。それは物理的にも、精神的にも助けられたことだ。そのグローブで、自己最速の145km/hを出したんだから、吉田には頭が上がらない。


「うむ。このまま私のグローブを世界一にしてくれたまえ」


 むっふん、なんて到底モデルが出す様なもんじゃない鼻息を出してんだが。


「なにキャラ?」


「師匠だよ」


 吉田の師匠キャラ、鼻息荒いんだ。


「ははぁ。お師匠様から授かりしグローブを、絶対に世界一にしてみせまするぅ」


「いししっ。谷本の弟子キャラ下手ぁ」


「どの部分が下手なのか教えてくれ。仕上げてくる」


「いや、そこ乗ってくんの?」


 あはは。なんて笑い合ったあとに吉田が、「でも」と少し困った顔をする。


「このままじゃ昼休みにキャッチボールできないね」


 吉田にとっても、昼休みがキャッチボールをするものだという認識は素直に嬉しかった。


「それもそうだな。やっぱり返そうか?」


「だめだめ。それは谷本を世界一に導く私のグローブなんだから、くれるとしたら世界一になってからなのだよ」


 そう言ってくれるのはありがたい。なんとなく、吉田からもらったグローブだから145km/hが出た気もするし。


「吉田にはなにからなにまで貰ってるなぁ……」


「それは違う」


 何気なく呟いた言葉を吉田が一刀両断する。そして、真剣な眼差しでこちらを見てくる。


「それはこっちのセリフだから。なにからなにまで貰ってるのは私、だから」


 そんなことはないと思うが、ここで否定するのも水掛け論の始まり。それは終わりなき遠慮の押し付け合い。


「お互い持ちつ持たれつってやつだな」


「うん」


 選んだ言葉は吉田の正解だったのか。嬉しそうに頷いてくれた。


「だったらさ、今度一緒にグローブ見に行こう」


 持ちつ持たれつと言ったのだから、グローブを貰った俺が吉田にグローブをプレゼントするのは当然だ。グローブじゃなくても良いんだけど。


「わっ。日本代表の人に見繕ってもらえるなんて贅沢ぅ」


「そんな立派なもんじゃないけど……いついける?」


「いつにしよっか。んー、でも谷本がいけるのって月曜日と火曜日だけだよね? 放課後になると時間ないもんなぁ……」


「あー、ええっと……」


 吉田は俺の予定を把握しているため、なんの嫌味も含めていない質問。それに対して、少し複雑な思いを抱きながら頭を掻く。


「最後の大会でもう負けちまったんだよ。だからもう練習もない」


「ええ!? 谷本が打たれちゃったの!?」


「いや、俺はその日、日本代表の最終選考で試合に出れなかったんだ」


「あ……そうなんだ……被っちゃってたんだね……」


「それで、碧が責任感じてさ……あいつ殻に閉じこもっちまった。なんの責任も感じなくて良いのに……」


 そう。だから俺は──。


「碧のためにも日本を世界一に導くんだ……」


 ポツリとこぼした言葉と、ギュッと握る拳。その拳に吉田が優しく手を重ねてくれる。


「大丈夫。谷本なら絶対に世界一になれるよ」


「吉田……」


「なんせ、私のグローブがあるもんね」


 ふんすー!! なんて鼻息が更に勢いを増す。そんなモデル様の鼻息が肌に当たり、「ははっ」と力が抜けた。


「鼻息、荒っ」


「むぅ……ふんっ、ふんぬっ!!」


「おい、やめろや!!」


「やめ、ふんぬ!!」


「きゃはは!!」


 碧の涙を世界で晴らす。


 そんな決意で固くなっちまっていた心を、ふっと吉田がほぐしてくれた。


 また借りができちまったなぁ。


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