第21話 お約束の密室なのに!!
チームは日本選手権の予選を、俺と碧の二枚看板で順当に勝ち上がっていっている。日本選手権は毎週土曜日だから進行が遅いんだよな。だから5月から予選をスタートさせているんだろうけど。
それにしても、自分の速球がみるみる上がっていく。短期間で142km/hから144km/hに。
これ、もしかすると、中学の間に150km/h目指せるんじゃないだろうか……。
これも吉田の影響なのかな。
あの時の吉田のプロとしての顔が鮮明に思い出せる。
あいつがプロのモデルとして頑張っている。同じような境遇で、学校で側にいてくれて、お互いの心の支えになっている。だからこそ、こっちも負けじと成長する。
「あ、瀬綱、すまん。このコーンをしまっておいてくれ」
「へーい」
三時間目の体育が終了し、北山先生から雑用を押し付けられてしまった。
ま、三角コーンを体育倉庫にしまうくらいはするさ。
「うぃー」
吉田の声と共に、どんっと後ろから肩でぶつかられた。
「いててー。あんちゃん、どこ見て歩いてんだい。コーンが私のコーンの部分に当たっちまったぜ」
どこだよ、お前のコーンの部分。
吉田が変な絡み方をしてきやがった。プロとしてのモデルの顔はどこへたら。学校じゃ、本当に普通の女子中学生だな。いや、普通の女子中学生の絡み方ではないけども。
「チンピラかっ」
トンっと頭をチョップしてやると、「いったー」とかわいらしい声を出して頭を抑えた。
「今のは本当に痛かったー。罰として、星馬のコーヒーを要求する」
「ガチのチンピラじゃねぇかよ」
「いししー。手伝うよー」
相変わらず変な笑い方をする吉田がコーンを運ぶのを手伝ってくれる。
「てか体育、ぼっちだからつまんなかったー」
もう学校でぼっちということを認めている吉田が、冗談混じりで言ってくる。
「俺もー。目立ったら、コソコソ言われるし。かといって何もしなかってもコソコソ言われる」
「ねー。ま、中学のうちは仕方ないよねー。早く高校生になりたーい」
そう言いながら吉田と体育倉庫のドアを開け、コーンを適当なところに置いた。
「高校生といえば、吉田は進路決めたのか?」
「うーん……まだ……」
「おいおい。大丈夫なのかよ。言うてもうすぐ7月だぞ」
「まだ6月下旬だもん」
「屁理屈だなぁ」
そんなことを言いながら体育館倉庫を出ようとすると、「ん?」と声が漏れる。
なんだ? なんで開かないんだ?
「どうしたの?」
「扉が、開かな、い」
「うそだー」
吉田も来て、扉を開けようとするが、やっぱり開かない。
うそだろ。こんな古典的な展開が急に来るとか聞いてないぞ。いや、予め来ると言われても困るが。
んー、んー、と扉を開けようとしても開かないことがわかり、吉田はマットレスの上に座った。
「谷本は進路決めたの? 華真からスカウト来た?」
「話、戻すんかよっ」
「だってどうしようもないじゃん。流石に嫌われ者の二人でも、北ティーが気付くでしょ」
「その言葉に納得してしまう自分が悔しいよ」
ま、実際に嫌われ者なわけだし、それは覆すことのできない事実だ。
「それに、谷本と一緒に閉じ込められて良かった」
「え……」
「やっぱり話し相手は欲しいでしょ。谷本以外に学校で話し相手いないし」
「そーゆーことね」
密室に一緒に閉じ込められて嬉しいってわけじゃないわな、流石に。
「それで、どうなの?」
吉田の質問は、華真からスカウトが来たかどうかってことだろう。
「実は……来たんだよな」
そう。日本選手権の予選で出した144km/h。それはスカウト陣に莫大なインパクトを与えたみたいだ。全国の名門高校からのスカウトが俺のところに来てくれた。その中に、俺の行きたい高校である東北の華真高校もあった。
でも──俺は……ただ遠くへ行ければいいと思っていただけだ。こんな地元にいたくはない。
だけど、なぜだろう。
華真の名前が入った名刺を見た時、真っ先に脳裏を過ったのは──この隣にいる吉田の姿だった。
「そっか……。谷本は進路決めちゃったか」
「いや……確定じゃないけどな」
「そうなの? 行きたい高校からスカウトが来たら即決めじゃない?」
「東北だしな。遠すぎるから親とも相談しないといけないし」
遠すぎる、か。 口にしてみて、自分で自分の本音に気づきそうになり、慌てて言葉を上書きする。
「まぁ、行きたい高校からスカウトが来たのは素直に嬉しいな」
「だね。実力を認めてもらったってことだもんね。おめでとう。これはあれだ。お祝いしないと」
「でた。吉田のなんでも祝い」
「なんでも祝いじゃないよー」
「でもごめん。今日は無理だ」
「知ってる。金曜日だもんね。練習日でしょ。それに明日は土曜日だし、試合だっけ?」
吉田は今、俺のチームが毎週土曜日に最後の日本選手権があることを知っている。ウチのチームでもないのに、保護者から聞いたってさ。ますます吉田の立ち位置が謎めいていくな。チームのマスコットてきなノリ、みたいな。
「明日、最終選考の日なんだよ」
そう。明日の土曜日は、代表選抜の最終選考の日だ。
「えええ!? シニアの試合と被ってんじゃん!! 谷本いなくて大丈夫なの!?」
「大丈夫。なにも心配ない。碧がいるし」
「あー、碧ちゃんならなんの心配もないね」
「お前、碧とまともに喋ったことないのに、どこから来るんだよ、その自信」
「高槻コーチと芹佳さんとなら沢山お喋りしたよ」
Vっとピースサインを送ってきやがる。そういうことじゃねぇよ。てか、碧のおとうさんをコーチ呼びしてやがる。
吉田と野球の話をしていると、ガララと体育館倉庫の扉が開いた。
「すまん!! 大丈夫か、二人共!! 悪かったな!!」
血相を変えた北山先生が飛び込んでくる。その言い方から、俺と吉田が体育倉庫に閉じ込められたこと知っていたみたいだな。
ん? 体育倉庫?
──しまった……。
女の子と密室なのに、野球の話で終わっちまった。




