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せつなのダイヤモンド  作者: すずと


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20/28

第20話 MAX142km/hから144km/hへ──バフの効果がえぐすぎる

 監督の伝言という名のお節介を終え、ベンチに戻ると、監督は満足そうな顔をしていた。


「しゃああ!! いくぜ、おらああ!!」


 自軍の攻撃は3番レフト海星からだ。右投げ右打ちの海星が、ダイナミックなフォームで相手ピッチャーを威圧している。


「安心したよ」


 隣に座る迅平が独り言のように言ってくる。


「なにが?」


「いや、なに。瀬綱は学校でハブられていると聞いたからな。心配していたが、仲良さそうな人がいると聞いてな」


「ああ。吉田は……吉田だけは学校で仲良くしてくれる、ありがたい人だよ」


「本来なら俺たちが瀬綱と同じ学校に転校するべきなんだがな」


「どんな本来だよっ。でも、そう言ってくれて、本当に嬉しいわ」


「……できれば高校でも共に野球がしたかったのだが、そうもいかないだろう」


 そう言われて即答できなかった。


 俺だって本当はこいつらとずっと野球がしたい。だけど、俺は高みを目指したい。もっと、もっと野球が上手くなって、甲子園に出て、プロになって──。


「迅平は進路決めてんの?」


 自分の本音を言うのが怖くなって、話を逸らした。答えにくい質問だったことを迅平も自覚しているみたいで、俺への質問に答えてくれる。


「俺は……俺たちにはスカウトは来ないだろうからな。その辺はわきまえて、みんなで学力を合わせてどっかの公立校に進もうと思う」


 みんなってのは、幼馴染三人ってことだろう。


「公立校で伸び伸び野球をやるさ」


「──羨ましい」


「え?」


「あ……」


 つい漏らしてしまった俺の声に、迅平は少しだけ驚いた顔をした。でも、すぐにいつも通りの顔になる。


「高校は違ったとしても、俺たちが仲間なのに違いはない。だから、瀬綱が羨ましがることなどないさ」


「迅平……」


 そうやって言ってくれる迅平は、どこまでも良い奴だと改めて実感させられた。


 ♢


 そんな迅平はあっさり三振で終わったってのは置いておき、回は7回。所謂、ラッキー7だが、リトルシニアでは最終回。


 ここまで0行進で抑える、絶好調の碧。ただ、その顔には疲労が見えた。ワンアウトを取った次のバッターに、右中間を破るスリーベースヒットを打たれてしまい、続くバッターにはスクイズを意識しすぎてフォアボール。


「ここまで、だな──瀬綱」


「投げるんですか?」


「ああ。碧のためにも刹那で終わらせてこい。瀬綱なだけに」


「監督。毎回それ言いますけど、面白くないからやめてください」


「ごめん」


 人の名前でダジャレを言ったあと、監督がタイムを取る。俺はベンチから駆け足で内野陣が集まっているマウンドへ向かう。


「あーあ、ピッチャー交代か」


 俺の顔を見て碧がやるせない顔をしてみせた。


「碧ちゃん、今日、めちゃくちゃ凄かったよ。捕っててすげー楽しかった」


「サンキュ」


 正捕手の関谷がキャッチャーミットを碧に突き出すと、ポンっと碧はグローブを合わせた。


「あとは任せた、セツ」


 そう言いながらボールを俺のグローブに預けてくれる碧。


「任された」


「もう、一瞬で終わらせてよ。せつなのダイヤモンドを披露して、私を気持ち良く勝利投手にしてよね」


「碧、お前もか……」


 どいつもこいつも人の名前で遊びやがって。


「谷本さん。いつも通りで良いですか?」


「だな。いつも通りで……」


 そんな相談にもならない会話をして、内野陣がそれぞれ守備位置につく。


 いつも通り、か。


 投球練習をしながら、チラリと一塁側スタンドを見ると、吉田が宣言通りにガッツリと見てくるのがわかる。


 今朝のプロの顔を見た俺の胸の内からは、なんともいえない闘志の炎というか、やる気がみるみるとみなぎってきる。


「わりぃな。いつも通りにはできねぇみたいだ」


 マウンドに立ち、鋭い視線をバッターへ向ける。


 今朝、あのファインダーの向こうで、一人で戦っていた吉田のあの一瞬の煌めき。


 ──負けてられっかよ。


 胸の奥で、静かに、だけど爆発的な熱量を持った炎が吹き上がった。


 ランナーを背負い、セットポジションから、左足を鋭く踏み込んだ。


 大きくしなる剛腕。


 指先から放たれた白球が、空気を切り裂く爆音を立ててキャッチャーミットへと吸い込まれる。


 ──ズバンッ!!!


 バッターはバットをピクリとも動かせず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「ストライック!!!」


 球審の乾いたコールと同時に、バックネットに映し出されたスピードガンが、とんでもない数値を弾き出す。


 144km/h


 ざわり、と球場全体がどよめきに包まれた。


 一塁側スタンドで、息を呑んでマウンドを見つめる吉田の姿が見えた。


 どうだ、吉田。


 これが、俺の戦場だ。


 一度きりの一瞬《せつな》に、すべてを懸けて輝く。


 この『せつなのダイヤモンド』の中心に立つのは──俺だ。


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