↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せつなのダイヤモンド  作者: すずと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/27

第2話 ロックの罪滅ぼしはジュースで良いってさ。所詮は中学生ってね

 俺は中学の軟式野球部には所属せず、外部の硬式野球チームであるリトルシニアに所属している。


 子供なのか老人なのかわからない名前のリトルシニア。そもそもなんでそんな名前なのか。


「そういや、なんでリトルシニアなんだ?」


 正門までの道を歩き、周りに誰もいないことを良い事に、結構でかめの独り言を一つ。


 今まで興味もなかったけど、一度興味を持ったら調べる主義の俺は、学ランのポケットからスマホを取り出した。


 パスワードを打ち込んで──弾かれる。


 パスワードを打ち込んで──弾かれる。


「んぁ」


 どうやら俺の指の動きにスマホが付いて来ていないらしい。


 最新ガジェットも俺の前では恐れおののくらしい。罪深き男よ、俺は──。


 パスワードを打ち込んで──弾かれる。


「んでだよっ!」


 周りに誰もいないことを良い事に莫大な文句をスマホに言い放つ。


 そこで気が付く。


 スマホのカバーがバスケットボールになってやがる。


 いや、俺もバスケは好きだよ。だけど、いきなり自分のスマホカバーがバスケットボールになっているのは困る。俺のスマホカバーはナイキだ。


「北山め。間違えて自分のを渡して来やがったな」


 つか、野球部の顧問なのにバスケのカバーって……本当はバスケ部の顧問がしたかったのか?


 正門から振り返り校舎を眺める。


「はぁ……」


 一瞬、戻るのがだるくてそのまま帰ってやろうかとも思ったけど、俺もろくに見ず受け取ったのが悪いと反省し、職員室へ戻った。


 ♢


 だりぃ、だりぃと心の中で文句を言いつつ、職員室に入ろうとしたところで、勝手にドアが開いた。


「あ、谷本」


 目の前に吉田雫が現れた。


 そんな吉田は俺の顔を見るなり、安堵した表情となる。


「良かったぁ、会えて」


「え? そんなに身長が伸びた俺に会いたかった?」


 もちろん冗談で言ってやると、吉田の頬が少々赤くなる。


「ち、違うよ! 別に、谷本なんかに会いたいとか、ないから!」


「わーってるっての。必死に否定すんなよ、悲しくなんだろ」


「あ、あ、えと、いや、冗談っていうか……てか、あれ、会いたかったのは、それ!」


 俺の手に持っているスマートフォンを指差してくるもんだから、「これ?」と彼女の目の前に持っていき、尋ねる。


「それ、私のなの」


「あ、ね」


 勝手に北山のだと思っていたが、どうやら吉田のスマートフォンだったらしい。


 こいつも学校に許可を貰ってスマートフォンを持って来ている口か。ま、モデルの仕事関係で必要なんだろうな。


「先生が間違えて谷本に渡したみたい。はい、これ。谷本のだよね」


 そう言いながら、ナイキのスマホカバーのスマートフォンを手渡してくれる。間違いなく俺のスマートフォンだ。


「俺のだな。ほんじゃこれ。俺の手汗でべっとりになっちまったけど」


「汚いなぁ」


 そう言いながらも、別に嫌悪感丸出しな顔をしないで受け取ってくれる吉田は、その場でスマートフォンを操作した。


「あ! パスワードロックかかってる!」


「まじでごめん。自分のだと思って、何回も間違えちゃった」


「もー。あと15分って……何回間違えたの?」


「さぁ……8回くらい?」


「そんだけ間違えて気付かないとか、豆の子じゃん」


「昔のいじり方すんなっ。見ろよ、身長180センチの恵まれた体型を」


 バアアンとトップモデルを意識したポージングをしてみせると、「ふっ」と鼻で笑われた。


「いくら恵まれた体型だとしても、ポージングがなってないよ──こうっ」


 言うが早いか、吉田がすっと背筋を伸ばす。


 ──ゾクッとした。


 不思議な巨人ちゃんってイメージの吉田雫が、一瞬で、カメラの向こう側にいるプロのモデルの顔になった。


 夕暮れの廊下なのに、そこだけスタジオのライトが当たっているかのような、圧倒的な存在感。まるでスターのように遠い存在に思える。


「どう? どう!?」


 ポーズを解いた途端、吉田に戻り、なんだかホッとした。


 そんな彼女は、ドヤ顔で顔を近づけてくる。


「凄いのかどうかはわからん」


「えー、この凄さがわかんないかー」


「けどさ」


 あまりの綺麗さに一瞬、目を逸らしそうになるのを堪えて、俺は言った。


「格好いいのは、よくわかったわ」


「──っ」


 予想外のストレートを食らった吉田は小さく跳ね、みるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。


「わ、私のポージングをただで見れるなんて、すーっごく光栄なことなんだからねっ!」


「まじかー。野球で言うとどれくらい?」


「野球……!? え、ええっと……三振ゲッツーくらい!?」


「野球素人から三振ゲッツーが出るとは思いもしなかったわ。どこで覚えたんだよ」


「ふふん。こう見えても私、おじいちゃんの影響で近鉄ファンだからね」


「お前の年齢から近鉄の名が出るとは思いもしなかったよ。野球やってる俺でさえ、その球団は歴史の教科書レベルだぞ」


「そんなことはどうでもいいよ! それより私のロック、どう責任取ってくれるの?」


「確かにどうでもいいな」


 しかし、どうしたものか。


 お詫び……お詫び……。


「ジュースでも良い?」


 所詮中学生。女子へのお詫びなど思いつく余地もなし。


「おっけー! ジュース♪ ジュース♪♪」


 しかし吉田は思いのほか、食いついてくれる。


 ジュースで罪滅ぼしになるのなら、なんともまぁ安上がりなこって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。