↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せつなのダイヤモンド  作者: すずと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/28

第18話 相互バフてきな存在。ま、俺、今日ベンチなんですけども

 高槻家の人達に送られてやって来たいつもの練習場。いつもの駐車場。だけど、今日が公式戦ってだけで、なんだか空気がピリッとしている気がする。


「──ん?」


 そこに見慣れない車が何台か止まっていた。そりゃここが試合会場だから、他チームの車とかあるだろうけど……試合は三時間後だ。相手さんが来るには早すぎる気がする。


「じゃあな碧、セツ。俺等スタンドにいっから」


「またねー」


 ふりふりと手を振ってくれる二人にお辞儀して、俺たちは球場内へ入って行く。いつものロッカー室で着替え。もちろん、ロッカーは男女別。


 今日は公式戦のため、試合用のユニフォームに着替えて一塁側ベンチに向かうと──。


「おはようございます。谷本さん」


「へ?」


 一塁側ベンチで出迎えてくれたのは、吉田のマネージャーである安藤さんだった。今日もスーツ姿で、早朝の朝だったのに、ビシッとした大人の女性を醸し出している。


「いや、え?」


 驚きの様子を隠しきれない俺を見て、安藤さんは、「はぁ、あの子、また……」とため息を吐いた。


「実は、スポーツブランドのタイアップ、ここの球場を早朝からお借りしてのロケだったんですよ」


「それでこの前、『また土曜日に』って言ったんですか」


「雫から聞いていると思ったのですが」


 あいつ、変なサプライズ用意しやがって。


「……どうです? ウチの雫の仕事ぶりは」


 尋ねられ、マウンドに立つモデルの吉田雫を見る。


 そこには、有名スポーツブランドのウェアを纏ってポージングを取る吉田の姿があった。


 でもそれはいつもの吉田ではない。


 大きく笑ったり。目を細めたり。時には艶容な表情をみしたり……。到底、同級生とは思えない仕事ぶりだ。


「ジトー……」


 いつの間にか碧が隣に来て、マウンドに立つ吉田のことをジト目で見ていた。


「あの子、セツのクラスメイトの子だよね? なんでマウンドで撮影なんかしてるのよ」


「すみません。球場をお借りしての撮影で、選手の方にはご迷惑かけます」


 安藤さんが碧に頭を下げると、碧は慌てて手を振った。


「い、いえ、迷惑とかではなく、て、ですね……」


「ま! なんてかわいらしい人。ユニフォーム姿もチャーミング! まさにモデル映えするわっ! 私、オフィス・ダイヤモンドでマネージャーをしている安藤藍と申します。ささ、名刺をどうぞ」


「え、え、あ、あ、ど、どうも」


 名刺を貰った碧は顔を赤くして浮かれている。


「ど、どどど、どうしようセツ! 私、モデルにスカウトされた!」


「へい、そこのスカウトさん」


「そいつは美少女の皮を被ったゴリラだぞ」


 モデルにスカウトされて浮かれている碧へのダブルパンチをくらわせる海星と迅平。碧はギロリと二人を睨につけた。


「あ・ん・た・らああああああ」


 そのまま耳を掴んで、二人を引っ張っていく。


「あででででで!!」


「いだいいだいいだいいいいい!」


「こっちに来い!! 処刑だ!!」


 あの巨体を引っ張れる時点でゴリラだよなぁ、碧。って言ったら俺の耳も持っていかれるから黙っておこう。


「あの顔であのパワー……逸材だわ……」


 安藤さんは本気で碧をスカウトしようとしているらしい。ま、野球一筋の碧がスカウトに乗るとは思えないがね。


「あ、それで谷本さん。どう? 雫の仕事ぶり」


 ようやくと質問に戻されて、どう答えたものか。


 いつもの吉田はそこにはいない。


 レンズの向こうの、目に見えない強敵とバチバチに火花を散らしているような──そんな圧倒的なプロの気迫。


「──闘志がわきます」


「へ?」


 予想だにしなかった答えだったみたいで、安藤さんは目を丸くしていた。


「こう、吉田の仕事を見てると、『俺もやってやる』って気になるっていうか……勇気を貰えるっていうか。引っ張ってもらえるような気分になって、今すぐにマウンドに立って、強打者たちと戦いたいって気持ちになります。……あ、すみません、口下手で変なこと言って」


 苦笑いする俺を見て、安藤さんは柔らかく、どこか嬉しそうに目を細めた。


「いえ、とても素敵な回答。私はてっきり、『綺麗』とか、『かっこいい』とかそんな言葉が来ると思ったから……同じように、自分の人生を懸けて戦う立場だからこそ、響くものがあるのかもね」


 その時、カシャ、とひと際大きなシャッター音が響き、カメラマンが「オッケー! 15分休憩!」と声を張り上げた。


 ふう、と息を吐いて肩の力を抜いた吉田が、吸い寄せられるように一塁側ベンチ──こちらを振り返る。


 まだ仕事モードの熱を孕んだ強い瞳と、俺の視線が、真っ直ぐに交差した。


 吉田は俺がそこにいることに気づくと、イタズラが成功したかのような笑みでこちらに手を振ってくる。すると、スタッフさんにちょっぴり怒られていた。


「谷本さん。この後、大事な試合なんですよね? 観て行っても良い? というか、雫が見たいってうるさいのよね」


「もちろんですよ。ただ、俺は投げるかどうか微妙ですけどね」


「そうなんだ」


「さっき安藤さんが名刺を渡した子──高槻碧が先発ですよ」


「ま!! あの子が投げるの!? これは要チェックね!!」


 どうやら安藤さんは碧のことが気に入ったみたいだな。吉田と二人して仕事終わりに残る気だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。