第17話 公式戦の朝の車内。結婚したら速球が上がるとかパ〇プロかな?
「セツ!! 来たよ!!」
俺の家の玄関にやって来たのは、ユニフォーム姿の碧だ。
今日は土曜日。中三の俺たちには最後の日本選手権予選の日。試合会場は俺たちが練習している球場。
父さんと母さんは仕事らしくておらず、弥恵は二日酔い。しゃーないからチャリで行こうかと思ったら、碧のところが送ってくれるらしい。
「瀬綱。忘れ物はないですか? お弁当は持ちました? 水筒は? 高槻さんのところにご迷惑にならないようにしてくださいね。なんだったら私も行きましょうか?」
「おのれはおかんかっ」
玄関で俺にやたらめったら母性を出してくるのは、妹の美玖。
「でも、お弁当作ったの私ですし、実質おかんでは?」
「おめーはかわいい妹だよっ」
「ヴィジュが良いのは当然です。やれやれですね」
なにを当然のようにナルシストぶっかまして呆れてんだよ、こいつは。新しいタイプの反抗期なんか?
「あはは。ミック。行ってくるね」
「行ってらっしゃい、アオちゃん」
「なんで碧には普通に小学生スマイルなんだよ」
そんな俺のツッコミが虚しく響いて、俺と碧は家の前に止まってあるワンボックスカーの後部座先に乗り込んだ。碧の家の車だ。
「うぃ、セツ」
運転席にはサングラスをした身体の大きな男性が手を挙げて挨拶してくれる。
「おはようございます、コーチ」
碧の父親はリトル時代に俺のチームのコーチをしてくれていた人だ。今はもうコーチじゃないけど、この呼び方は抜けない。
「おはよう、セツくん」
「おはようございます、芹佳さん」
助手席には碧の母親である高槻芹佳さんが座っていた。相変わらず年齢不詳のかわいい人だけど、おばさんって呼ぶと殺される。海星が殺されそうになっているのを目撃して以来、絶対にその言葉は禁句だ。
「さっ、レッツゴー!!」
朝からテンションの高い碧の掛け声で、車は発進した。
碧はいつもテンションが高い方だが、今日は特に高い。それっていうのも、今日の試合で先発を任されたからだろう。Aチームで先発っていうのは、相当の実力じゃないと任せられない。
「碧。今日は完全試合狙ってけ」
だからコーチも嬉しそうに調子の良い事を言ってのける。
「あははー、絶対無理ー」
「でも後ろにはセツくんがいるんだし、ガンガン攻めるべきだよ、碧ちゃん」
おっとりボイスでガンガンいこうぜを選択させる芹佳さん。
すると隣に座っていたチラリとこちらを見る。
「でもそうだね。ピンチになったらセツに火消しを頼むことにする」
「だはは。セツが後ろにいる安心感、パネェなぁ!!」
「ねー」
家族仲の良い、碧の家の車の中は大体テンションが高い。この人達、ぜったい元ウェーイ族だよなぁ、なんて思っていると、バックミラー越しにサングラスのコーチと目が合う。
「セツは日本代表の選考、最終までいったんだよな?」
「ちょっと、おとうさん。なにを当然のこと言ってんの。セツくんが落ちるはずないでしょ」
「そうだよパパ。セツが落ちるって言ったら、持ち球のフォークくらいだよ」
「だよな!! だっはっはっ!!」
コーチが豪快に笑ったあと、また質問が飛んでくる。
「142km/h出したんだって? えぐない?」
「えぐいですね。自分でもびっくりですよ」
「中学生で142km/hなんて、化け物が過ぎるだろ」
「コーチの指導のおかげですよ」
「ちょ、おまっ、照れるだろ……あ、さてはセツ、お前、俺に気に入られて碧に手を出すつもりだな。そんな簡単に娘はやるっ!!」
「やるんかいっ」
「ちょっとおとうさん。セツくんが義理の息子とか最高じゃないの。ね、碧ちゃん」
「だよねぇ。こんな本格派の旦那がいたら、私の速球も上がりそう」
どういうこと? 碧ちゃん、野球脳が過ぎない? ま、碧は恋愛とかあんまり興味なさそうだから、そんな話を振られても意味ないってか。




