第14話 後戻りはできないきみとの絆は更に深まる
「おめでと、谷本っ」
俺と吉田は放課後になり、星馬にやって来た。
昼休みの宣言通りに、日本代表の一次選抜を合格したお祝いってことで、また奢ってもらえることに。
流石に悪いと思って財布を出そうとしたら、「ぷっ。ごめん、まだバリバリ財布は慣れない」なんて言われたから、「ベリベリだっ」って返しておいたさ。
そんなこと言ってくるから、ここは遠慮なく奢ってもらうことにした。
コンッと容器で乾杯をすると、二人してチューチューと星野のフラペチーノを飲む。
「んんん〜〜〜おいしぃ〜〜生き返る〜〜」
フラペチーノを飲む吉田は、昼休みのことなんてなかったみたいに幸せそうな顔をしている。
だが、それもすぐになくなり、複雑そうな顔付きに変わってしまう。
「……もう、元通りにはならなくなっちゃったな」
ポツリと寂しそうにこぼす吉田の言葉に、「え?」と聞き返してしまう。
「あ、ごめんね。せっかくのお祝いなのに、ネガっぽいこと呟いて。気にしないで」
「……気になるから言ってくれ」
そう言うと、飲んでいた容器をテーブルに置いて、静かに胸の内を語ってくれる。
「井駒さんと──さゆと……みんなと、あの頃みたいな関係には戻れないんだなって……あ、もちろん、もうハブられてるし、仲良くするつもりもないんだけど……今日のことで、それが確定したっていうか……なんていうか……」
たはは、なんて作り笑いを浮かべる吉田は、迷子みたいな顔で続けてくれる。
「めっちゃ仲良かったなぁ。毎日みんな一緒にいて。部活違うけど待ち合わせして。寄り道して。笑って。恋ばなして。ずっと。ずっとこんな時間が続けば良いって……」
でも……でも──
「私がモデルの仕事始めたら、段々、喋ってくれなくなって……そのうち無視されて……」
ポタポタと吉田の瞳から涙が流れる。
「モデルの仕事がだめなのかな……って。バスケ部やめたのがだめだったのかなって……モデルじゃなきゃ、元に戻るのかなって……バスケ好きだし、戻ろうかな、とか、色々考えたけど……モデルの仕事、やめたくなくて……」
「吉田……その……ごめん。出しゃばって……」
ぐしゃぐしゃになりながら泣く吉田に、謝りを入れることしかできない。
「なん、で谷本、が謝る、の……」
「だってさ、俺、無関係なのに関係者みたいに出しゃばって、悪目立ちして、問題になって……吉田とマネージャーさんに迷惑かけて……」
「そんなこと言わないで!!」
吉田は、泣きながらこちらを見つめて来る。
「無関係とか言わないでよ……谷本は……今回の件も……これからも、私と関係あるって言ってよ……じゃないと、私……私、は……」
消え入りそうな声。それはどういう意味なのか、聞くまでもない。
俺だって同じ気持ちだ。もし、これから先、なにか問題があった時、吉田には関係者になって欲しい。
それほどまでに、俺と吉田には大きな絆ができていた。
「ごめん。二度と無関係なんて言わない」
そう宣言すると、にぱぁっと嬉しそうな顔をして、チューチューと泣き笑いを浮かべてくれる。
「ていうかね、谷本、ありがとう」
手や腕で溢れ出る涙を拭くと、泣きながら、ニコッと笑ってくれる。
「谷本が私のためにあんなに怒ってくれて嬉しかった」
「……礼を言うのはこっちだ。右手の話、すごく心にささった」
俺の右手は世界で戦うためのもの。
心に残る言葉っていうのは、誰が言ったかというのも大事だ。
吉田が言ってくれたからこそ、俺はこの言葉を忘れることはないのだろう。
「ぐす……ぅん……ってか、あれだね」
吉田は強引に目元を腕でこすって、強制的に涙を止めた。
目が真っ赤になりながらも、少しばかり無理に笑う。
「せっかくのお祝いなのに、ごめんね。ほら、お祝いしよう。もう一回、乾杯」
「そうだな。もう、この話は終わったことだし」
そうやって容器を突き出してくる吉田に乗っかり、俺も容器を突き出して二度目の乾杯。
「そういえばさ、あと何回試験があるの?」
吉田の質問は、日本代表になるための試験の話だろう。
「次が最終選考」
「あ、そうなんだ。二回か」
「意外と少ないだろ。多分、一次選考で300人くらいから、40人くらいに絞られるんじゃないかな」
「やばぁ……てか、一次選考突破しただけで、めちゃくちゃ凄いことなんだね」
「いや、まぁ、流石に今年は、ね。142km/h出りゃ、そりゃ……」
「高速道路だね」
「一発免取だろ」
「数字だけ聞いたら大きいけど、それってどれくらい凄いの?」
真っ赤にした目で、純粋に聞いてくる。
なんとも答え辛いな。
「まぁ、まぁ、とか?」
あんまり自慢するのもなんだ。吉田も142km/hがどんなもんかわかんないだろうから、適当に相槌を打っておく。
「最終選考ってどこでやるの? 私、見に行きたい」
「一般の観覧はできんな。保護者とかしか無理だろうな。それに多分、関東だから新幹線だし」
「そっかぁ。別に新幹線代なら出せるけど……そっかぁ」
残念そうに、そっかぁ、を連発させている。こいつに犬耳でもあったら垂れてるだろう。
「また決まったら教えてね」
「ああ。すぐに教えるよ」
「約束だからね」
吉田が小指を突き出してきて、俺たちは星馬の席で小さく指切りを交わした。
かつて仲が良かった友達を失った吉田。それは俺も同じ。だからこそ、俺たちの関係は誰にも壊せないなにか特別なものになった気がする。




