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脂肪転移の魔術師 完全なハズレスキルが最強の錬金術スキルでした  作者: レモンティー


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第四話:最初の顧客

王都の中でも、ひときわ豪奢な区画。

白い石壁に囲まれた邸宅の前で、マリクは足を止めた。

「……ここか」

「うん。間違いないよ」

隣でリオが小さく頷く。

彼女が情報を集めてきたのだ。

――太りすぎを気にしている貴族の女性。

――だが、どの医者にも改善できなかった。

まさに、“狙いどころ”だった。

「門前払いされないかな……」

リオが少し不安そうに言う。

「されるだろうな」

マリクはあっさり答えた。

「え?」

「だから、“普通に”行く」

意味深な言葉に、リオは首をかしげる。

そして――

数分後。

「お引き取りください」

当然のように門番に断られた。

「ですよねー……」

リオが苦笑する。

だが、マリクは引かなかった。

「一度だけでいい。会わせてくれ」

「そのような怪しい者を――」

「“痩せさせられる”と言ってもか?」

門番の眉が、わずかに動いた。

「……何?」

「薬も運動もいらない。今日中に結果を出す」

はっきりと言い切る。

沈黙。

やがて、門番はため息をついた。

「……責任は持てんぞ」

「構わない」

扉が開く。

それが、すべての始まりだった。


応接室。

重厚な椅子に腰掛けていたのは、一人の女性。

年の頃は三十前後。

装飾は豪華だが――その体は、明らかに“肥満”だった。

「……あなたが?」

低い声。

疑いと苛立ちが混じっている。

「はい」

マリクは一歩前に出た。

「“体を変えられる”と聞いて来ました」

女性は鼻で笑う。

「何人も同じことを言ってきたわ」

「結果は?」

「見ての通りよ」

その言葉には、自嘲が含まれていた。

「では、証明します」

マリクは迷わず言う。

「今、この場で」

「……は?」

部屋の空気が変わる。

「一切の準備なし。時間も不要。結果だけを出す」

静かに、しかし断言する。

女性はじっとマリクを見た。

そして――

「……いいわ」

小さく呟く。

「失敗したら?」

「報酬は不要です」

「成功したら?」

「相応の対価を」

しばしの沈黙。

やがて女性は立ち上がった。

「面白いじゃない」

その目に、初めて“期待”が宿る。

「やりなさい」


マリクは女性の前に立つ。

大きく息を吸う。

(重要なのは、“減らす”だけじゃない)

余分な脂肪を削る。

それだけでは不十分。

“どこに、どう再配置するか”。

それが結果を決める。

(バランス……ライン……)

頭の中で、理想の体型を組み立てる。

無理のない範囲で。

自然に。

そして――魅力的に。

「少し、触れます」

「……ええ」

了承を得る。

マリクは肩に手を置いた。

意識を集中する。

“移す”。

その一言に、すべてを込める。

――流れる。

余分だったものが、整理されていく。

重かった部分が軽くなり、

足りなかった部分が満たされる。

時間にして、ほんの数秒。

だが――

「……え?」

女性の声が、震えた。

鏡の前に立つ。

そこに映っていたのは――

別人だった。

無駄のない、引き締まった体。

均整の取れたライン。

そして、女性らしい柔らかさを残した立体感。

いわゆる巨乳だ。

「……嘘……」

手が震える。

腹部はすっきりと落ち、

全体はスレンダーに整えられている。

それでいて、不自然さは一切ない。

「……軽い……」

一歩、踏み出す。

動きがまるで違う。

「こんな……こんなことが……」

言葉にならない。

鏡を見つめたまま、動けなくなる。

マリクは静かに言った。

「“余分”を、“価値”に変えました」

女性は振り返る。

その目には、先ほどとは別の感情があった。

驚愕。

そして――欲望。

「……いくら?」

即答だった。

マリクはわずかに口元を上げる。

「満足いただけたなら、それ相応に」

女性は笑った。

「安く済ませる気はないわ」

指を鳴らす。

控えていた使用人が動く。

「金貨を用意しなさい」

リオが思わず息を呑む。

袋が差し出される。

重みが、違う。

「……これでいいかしら?」

マリクは中を確認し――

静かに頷いた。

「十分です」

女性は満足そうに微笑む。

「また来なさい」

それは命令ではなく――依頼だった。


邸宅を出た後。

「……やばくない?」

リオが小声で言う。

「ああ」

マリクは袋を軽く持ち上げた。

「やばいな」

重い。

現実が、変わった重さだ。

「これ……一回でだよね?」

「一回でだ」

二人は顔を見合わせる。

そして――

同時に笑った。

「勝ったな」

「ああ」

完全に、流れを掴んだ。

このスキルは、ハズレじゃない。

“市場そのものを持っている”能力だ。

このとき、マリクは確信する。

自分はもう――

“仕事を探す側”ではない。

“仕事を生み出す側”に回ったのだと。

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