金持ちのヘボ賭博は国を潤す
賭け事。
すなわち、博打である。
そして、言うまでもないことであるが、この博打は一時的な勝ちはあっても、最終的に帳簿がプラスということはほぼなく、別の世界では、古今東西、酒と博打で身を持ち崩した者は多い。
それはこの世界でも同じ。
そして、その地獄の入口に立っているのは、勇者一行のひとりで、ブリターニャ王国の公爵の爵位を持つブランこと、ブラン・マロリージャである。
実際のところ、ブランは多くの国の賭博場で無一文になっている。
ただし、彼が最後の一歩を踏み出さないのは、有り金だけで遊ぶということを決めているからである。
「これだけ負けたのだ。次は勝つ順番」
これが賭博場に向かう時に口ぐせとなっている。
もちろん、その言葉が正しかったことは一度もない。
ちなみに、兄弟ではあるが、マロはケチの代名詞アリスト・ブリターニャ以上に金にシビアでこのような場所で金を落とすことはない。
その代わりというわけではないだろうが、このような場所に一緒に向かうのはほぼ確実にファーブ。
むろん、ファーブがここでも勇者らしく勝利を収めるなどということはなく、ふたり揃って有り金全部置いてくることになる。
そして、連敗続きのふたりの分まで勝ちを手に入れてくるが意外にもそのようなものに無縁そうなフィーネだった。
アリターナの某所で三日連続して負けて帰ってきたブランとファーブとともに出かけたフィーネが大金の入った革袋を抱えて戻ってきたことをはじめ、それこそ負けなしの記録を続けていた。
ブランによれば、フィーネは魔法でイカサマをしているということなのだが、マロによれば、勝因は魔法ではなく色仕掛けとのこと。
この説のどちらが正しいのかは、同じ魔術師で小銭集めが趣味であるアリストが付き合い以外では賭博場に出入りしなかったことからもあきらか。
そういうことで、今日の勝利を信じて滞在先の賭博場に通っていたブランであるが、ある日を境に賭博場へ向かう足が止まる。
言うまでもない。
爵位の授与とラフギール公国の代表者への就任である。
正確には、さすがに公国の代表で爵位持ちの者が怪しげな賭博場に出入りするのはよろしくないということで、兄嫁で公国の宰相エマ・フォアグレンによって賭博場の立ち入りを禁止される。
大きな戦いもなくなり、さらに大好きな賭け事もできなくなってストレスが溜まってきたブランにとっておきの提案をしたのがフィーネだった。
それは、いわゆる公営ギャンブル。
国が賭博場をつくり運営する。
そうであれば、国の代表が出入りしても問題はない。
フィーネの甘いひとことにブランは大喜びするものの、そこからが一苦労、いや、十苦労くらいになる。
なにしろ、剣を振り回す以外に能がないブランにそのようなことができるはずがない。
それでもどこかに類似のものがあれば、なんとかなったかもしれないのだが、この世界にはその見本となるような公営の賭博場は存在しない。
それに一番近かったのは、大海賊のひとり「強欲の大海賊トゥルム」の長アレクサンドル・トゥルムの根拠地アンバリア島にある「すべてを失う場所」、「アディーグラッドにやってきた者は命と船以外のすべてを置いていく」とも呼ばれるアディーグラッド。
もちろん、ここを参考にできれば作業は多少は進んだのであろうが、残念ながら、そこは海賊のうちでもそれなりの者でなければ踏み入れられない場所。
当然彼らと対極にあるような存在である勇者一行のひとりではそれは叶わない。
残念ながら、計画は始まる前に頓挫となりかけたところで、ブランに手を貸したのはフィーネから相談を受けたグワラニーだった。
「公営の賭博場?」
フィーネに相談の概要を説明されたグワラニーは苦笑する。
「まあ、不相応な肩書のおかげで遊びにいかれなくなったブランが出入りするためという不純な動機がなのですが」
「なるほど……」
「ですが、そういうことであればお忍びでいかせてやればいいでしょう。ラフギールにだって一軒や二軒あるでしょう。賭博場くらい」
「あるにはありますが、厳しい監視がついているので難しいようですよ。いるでしょう。非常に厳しい短髪美人が」
「ああ。なるほど」
フィーネの言葉にグワラニーの笑みは深みを増す。
短髪美人。
女性は髪を伸ばすものというのがしきたりのようになっているこの世界で短髪の女性はそう多くない。
そして、固有名詞のように「短髪美人」といえば、そのフォルムから「美少年」と言った方がふさわしいあるひとりに特定される。
「たしかに正義の権化のような兄貴の嫁さんはそのようなものを許すとは思えませんね」
「しかも、夫であるマロだけではなくファーブもブランも宰相様に頭が上がらないのです。情けないことに」
「なるほど」
「わかりました。と言いたいところなのですが、私はこの世界の賭博について全く知りません。実際におこなうものについてはあなたにお任せしてもよろしいですか?」
「承りました。お任せあれ」
ちなみにこの世界の賭博場のほぼすべての賭博はサイコロを使ったもの。
ただし、別の世界にある島国の者が思い浮かべるサイコロ賭博というよりその隣国でおこなわれているものに近く、この世界では「アステール」と呼ばれている。
別の世界と同じ一から六の数字が振られた立方体のサイコロを使うのだが、サイコロは六つ使用する。
そして、賭博場での遊び方としては、金を支払って賭け札を買い、賭けていくことになる。
賭けの対象として一般的なのは、奇数か偶数、出た目の合計数、六つのサイコロ出た目をすべて当てるという三種類。
当然最後のものがほぼ当てるのは不可能なのだが、その分当たった場合の配当は四万六千倍と高く、合計の当てるものの配当は三十倍、奇数か偶数を当てるものの配当は二倍となる。
さらに賭博場によっては、さらに細かな賭けの対象が用意されている。
先に進む前に少しだけ状況説明を加えておこう。
ラフギールの例も挙げるまでもなく、人間ではどの国も賭博場は違法行為として取り締まりの対象になっている。
その一方で、魔族の国では、帝国に変わってから許可制ではあるものの、賭博場の開設が認められていた。
むろん、これは王国時代でも事実上黙認されていた流れを引き継いでいる。
「どうせ禁止しても隠れてやるのです。そうであれば、許可制にして賭博場の開設を認めてやれば、のちのち制限を加える際にも簡単にできます」
これがグワラニーにそれを提案した法務担当の軍官の代表グスタヴォ・アウメイダの言葉となる。
ちなみに、この提案をしたアウメイダは、帝国がまだ王国だったころ、イペトスートにあった裏賭博場のひとつで奇跡のような一手を引き当て大儲けしている。
とにかく、フィーネがラフギールに公共の賭博場をつくる計画をグワラニーに持ち掛けたのは魔族の国の事情を知っていたからであり、アリストやマロほどではないにしても金には相当シビアであり賭博行為には無縁であったグワラニーがあっさりとその要請を受けたのはそのような背景があったからだった。
「つまり、この世界のラスベガスを目指すのですね?ラフギールは」
「いいですね。それは。とりあえず、公営の賭博場の名はラスベガスとしましょうか。もっとも、ラフギールの住人はブランのような金の使い方ができる者はそうはいません。ラスベガスの主な客は守銭奴商人と海賊たち、それに魔族でしょうが」
「まあ、それによって取り立てて産業がないラフギールの財政が少しでも楽になるのであれば協力することはやぶさかではありまんが、そうなると……」
「そのための大きな関門は、宰相様の認可ということになりますね」
「そのとおり。そして、自身はそのようなものに無縁である彼女は賭博を非常に嫌っています」
「わかります」
そこまで話をしたところで、グワラニーは悟った。
フィーネの意図を。
「つまり、ラフギールの宰相を説得せよということですか」
それからまもなく、帝国からラフギール公国へ会談の申し入れがやってくる。
むろん、形式上は申し入れであるのだが、その会談の日付まで示されているのだから事実上の通知である。
そして、指定されたその日。
グワラニーはデルフィンとともやってくる。
護衛というには多すぎる兵たちとともに。
さらに今回は軍官たちも同行する。
そのひとりがグスタヴォ・アウメイダ。
法務担当の彼がそこに加わったのは、むろん訪問の目的に関係する。
一方、グワラニーたちを待ち受ける公国の関係者は国のトップであるファーブ、それから宰相であり事実上公国のすべてを取り仕切るフォアグレンから姓をマロリージャに代わったエマと彼女の配下である文官団。
そこにエマの夫であるマロとブランの兄弟にフィーネも同席する。
そして、いよいよ始まる。
グワラニーとエマのバトルが。
……やりにくい。
笑顔の裏側でグワラニーは呟く。
……そもそも賭博は悪。
……まあ、必要悪ともいえるが、少なくても善ではない。
……その悪を取り締まろうとする国に、外部の者がそれを認めろというのだ。
……アヘン戦争のようだ。
……そういうことで努力はするが、最終的に判断するのは宰相と元首様だ。
「一応、書面で今日の議題について知らせてあるわけなのですが……」
「皇帝陛下。それについて確認しますが。公国が賭博を公認するかどうかは完全に国内の問題。さらに、帝国には一切の関りがないこと。私はそう考えますが間違っていますか?」
「全く正しい。そして、これをおこなうかどうかは帝国の利益には影響を与えません」
「ですから、今回はこちらの話をどう処理するかはそちらで決めるべきであろうし、それによって何らかの処分があるということでもありません」
「そのうえでの提案ということでお聞きください」
実を言えば、グワラニーはエマに勝てる自信はあった。
そもそもの実力が違ううえに、彼女が取り仕切るラフギール公国の弱点を掴んでいたからだ。
ただし、チェルトーザやアリストとやり合った時のように国の不沈がかかる問題ではない今回の議案は、勝てばいいというものではない。
相手が納得するかが問題なのである。
……では、いくか。
エマが柔軟な思考の持ち主であることを期待しながらグワラニーが口を開く。
「確認しておきますが……」
「ラフギール公国は現在賭博をおこなうことは?」
「もちろん禁止しています」
「それをおこなった者。特に賭博場を主催した者は?」
「もちろん賭博行為は取り締まりの対象であり、賭博場の主催者はもちろん、賭博行為をおこなった者も厳罰に処しています」
「なるほど」
エマの言葉を聞き終えたグワラニーは、まずブラン、次にこの国のトップの者に視線を送る。
「もちろん、個人間の小さな賭けまで取り締まりはしていませんが、賭博場での賭博行為は処分の対象です」
「それを踏まえてお伺いします」
「取り締まりをおこなっている。それで賭博行為はなくなりましたか?」
「残念ながら」
「なくならない?では、今後どうするつもりなのですか?」
「取り締まりを強化したうえ、その罪も重くしていきたいと考えています」
「それで賭博行為は消えると思いますか」
「消します」
強い意志を感じるエマの言葉だった。
……けんもほろろだな。これは。
……こうなったら止むを得ない。もう一歩踏み込むか。
「公国の宰相の決意は理解しました」
「そして、この賭博場の剣は完全な内政問題。他国から口出しされるゆわれもないというのもその通り」
「その上でお話させてもらえれば、実は、隣国のブリターニャは国の再建資金窮しています。そして、その軍資金捻出のため、公営の賭博場建設を準備しています」
「ですが、ブリターニャに関していえば、国も窮していますが、その国民も窮しています。賭博場をつくるにしても金のない国民を相手にしていては当然金は集まらない」
「そうなれば、客は外国人。すなわち、ブリターニャにやってくる商人。そこに海賊が彼らの主な客になることでしょう。ですが、ブリターニャはさらに一歩踏み込み、公国との国境近くにも賭博場をつくる予定になっています。つまり、その賭博場の主客に公国の国民。理由はわかりませんが、法律で禁止されているにもかかわらず賭博をするくらい賭博好きの公国の国民がそれを知ったらどう動くかは火を見るよりも明らか」
「そして、その結果はといえば、公国の金がブリターニャに流れていきます」
「それもこれも、宰相が賭博を取り締まり、賭博場建設に反対したからということになります」
「まあ、それはブリターニャのホリー女王から資金調達の案がないかと頼まれたために私が用意したもので、女王にはまだ伝えていないものです」
「私としてはラフギール公国が自前で賭博場を運営するのであれば、国境沿い賭博場をつくる案はやめるということにしようかと思っていたのですが、どうやら構わないようですね」
「尋ねます」
「あなたは私たちの国に賭博場をつくり、人間を堕落させるつもりではないでしょうね」
……おそらく彼女は小さい頃見ていたのだろう。仕事もせず酒と賭け事に熱中する大人を。
……生真面目な彼女にはそれが許せなかったということであろう。
……そうでなければここまで拒絶することはないだろう。
「一応言っておけば、帝国内にも賭博場はあります。しかも、そこは国が運営するものではなく、許可を受けたものが運営しています」
「あなたが賭博を毛嫌いしているのは理解できますし、それで堕落した者が数多くいることも知っています」
「ですが。残念ですが、酒や賭博はどれだけ規制しても消えることがありません。そうであれば、それを認めたうえで程よく管理する方がいい。これが帝国の方針」
「そして、その運営の主体を国がおこなうものだけを認めるというのがブリターニャ」
「それに賭博をやった者がすべて堕落しているということであれば、私が知っているかぎり、勇者一行五人のうち、ひとりを除けば全員堕落していたことになります」
「私としては、そのような輩に魔族軍が散々蹴散らされたとは思いたくありませんね」
「お節介を承知して言わせてもらえれば、賭博や酒は、やるかどうかではなく、節度があるかないかで判断すべきだと思います。勇者一行がそれを証明していると思います」
「とりあえず、今日はお話だけをさせてもらいました。公国直営の賭博場を開設するかの回答は後日ということで」
ここまで言われてはエマとしても賭博場建設を考慮しなければならない。
なにしろ、どれだけ取り締まっても賭博行為は消えない。
もちろん、賭博行為を重罪として今以上に厳しく取り締まれば、表面上賭博そのものは減るだろう。
だが、それによって賭博がさらに暗闇の中でおこなわれるようになる。
いや。
それよりも、庶民のささやかな楽しみを奪う国への反感が沸き上がり、できたばかりの公国は潰れかねない。
それだけは避けなければならない。
「……わかりました。その件については前向きに検討します。ですが……」
「それにはひとつ問題があります」
「それをつくるための資金です」
むろん、個人の資金を借り受けるという手もなくはない。
だが、そうなると、出来上がった賭博場の利益の幾ばくかはその者にいくことになる。
公営である以上、それは避けなければならないが、自前でそれを建てるほどラフギール公国の財政も豊かではないのだ。
特にブランのように自身が賭博好きの者の資金は絶対に入れられない。
「なるほど。それは理解できます」
「不正の温床。または不正を疑われる原因になりますから」
「本来であれば、関係者及び公国の政務に関わっている者の賭博場出入りを禁止すべきなのでしょうが、さすがにそれは厳しい」
……いや。
……それでは、堂々と賭博場に出入りでしたいという弟剣士君の夢が叶わず、これを始める意味がなくなってしまう。
……となれば……。
「では、我々が建設資金を提供しましょう」
「もちろん資金回収の道筋と確実に資金の返済をおこなうという確約を示していただいたうえで」
「こうすれば、施設を管理する側も気前よく客に金を払っていられなくなります。ついでにいえば、公的な賭博場の建設とそれ以外の場所での賭博行為の取り締まりを平行しておこなえば、管理もしやすくなります。これは我が国で実証済み。もちろん、収入も増えます。そして……」
「逃げ場を用意したうえで追い込みをかける。いや。追い込みをかける前に必ず逃げ場を用意する。これは多くの場面で有効ですので是非ご活用ください」
むろん、最後のひとことは、正しくはあるが、窮屈でもある白と黒だけしかないエマの思考にもう少し柔軟性を持つようにというアドバイスである。
結局、エマはグワラニーの提案を受け入れる。
もちろん不本意ではあるが。
だが、皮肉なことにこの決定がラフギール公国に大いなる富をもたらす。
その主役はラフギール公国発祥のふたつの賭博ディスコスとクレーロスである。
ディスコス。
これはこの世界のルーレットである。
ラスベガスでそれを楽しんだらしいフィーネからアイデアが提供されたそれは、ポケットが六十四個あることと一台のルーレットに四人の客が遊べることを除けばルールはほぼ別の世界のルールを踏襲している。
さらにいえば、アステールともほぼルールは同じ。
当然のようにこれまでコッソリとアステールに興じていた博打打ちは新しい賭博にこぞって飛びつく。
そして、このディスコスには通常版のイソスのほかに、ポケットが三十二個の代わりに賭けの対象が数字のみで客とディラーのタイマン勝負というアゴニが用意された。
むろん、自称ギャンブラーが好むのは後者。
一攫千金を夢見て次々と大金を投じ、そして失っていく。
だが、それは公国にとって望ましいこと。
そして、もうひとつのクレーロスは、別の世界に存在する宝くじ。
こちらは市内の多くに販売所があり、運試しと称し、小遣いでクジ券を購入する者が多かったのだが、ある時女性が特賞を引き開けたことから女性たちに爆発的な人気となる。
そして、ここで眠っていたエマの商才が目覚める。
各国に対して、このふたつの賭博はラフギール公国の専有物であり、自国でこれをおこなう場合はラフギールに然るべき手数料を支払うように要求する。
もちろん、帝国はこの措置を免除するという条件で帝国の承認をつけて。
むろん、ラフギールの成功を見た各国は渋々手数料を支払い、ラフギール公国の大いなる収入となる。
そして、後にエマは公国の地位を決定的なものとした偉大な女性として歴史に名を刻むことになるのである。
さて、念願の公設の賭博場が完成し、堂々とそこに出入りできることになったラフギール公国の宰相エマの義理の弟ブラン。
それまでの鬱憤を晴らすかのように猛烈な勢いで賭けに興じる。
だが、本人の希望と自信に反し、結果はいつもと同じ。
つまり、惨敗。
ブランは、「俺が勝てないようにファーブの馬鹿が権力を使って仕込みをしているに違いない」と騒ぎ立てるものの、ファーブにとっては全くの濡れ衣。
そこで、負けは自分の勝負師としての実力がないことを証明してやることになり、「勝負の厳しさを教えてやるついでに俺とブランの実力の差を見せてやる」と息巻いてブランに同行するものの、ふたりとも枕を並べて討ち死に。
有り金全部置いていくという大敗に頭に血が上ったファーブは四連勤したものの、すべて大敗。
自分もブランと同類であることを証明することになる。
これについて、賭けに加わることがなかった三剣士のひとりマロの言葉が残っている。
「俺の知る限り、ブランはもちろん、ファーブも賭博場から大金を持ち帰ったことはない。フィーネの一件もあるので、俺はあの時、賭博場の誰かが細工していると思っていたのだが、どうやらあれは間違いだったようだ。あれはふたりの完全な実力だった」
だが、ブランの奇跡のような連敗に加え、公国のトップも悲しくなるくらいの大敗を喫したこの一件は、公国の賭博場の信用を高めるという点では、大いに貢献していたといえるだろう。
なにしろ他国では関係者が大勝ちする例が頻繁に目撃され、信用という点ではイマイチだったのに対し、ラフギール公国の賭博場は建国の功労者が大金を毟り取られているのだから。
「まあ、本人たちは大好きな賭けができ、公国が彼らの負けのおかげで信用を得られ商売繁盛しているのだ。これほど成功した一石二鳥の例はないだろう」
その状況を聞いたグワラニーはこっそりと呟く、薄く笑う。
そして、「一石二鳥」と同じ意味を指し示すこのような言葉が公国からこの世界全土に広がっていくことになるのはこの後すぐのこととなる。
「公爵たちのヘボ賭博、国を潤す」




