エマ・フォアグレン
魔族と人間との戦いが最終盤。
男尊女卑の思想が蔓延るこの世界で突出した活躍を見せた七人の女性。
後に「七人の女傑」と称された者たちである。
彼女なしで魔族の勝利はなかったであろう、帝国誕生と同時にグワラニーの正妃となる歴史上最高の魔術師とされるデルフィン・コルペリーア。
勇者一行のひとりで、歴史上最も敵を葬ったとされ、デルフィンと同じく最高ランクの魔術師のひとりであるフィーネ・デ・フィラリオ。
新ブリターニャ王国の祖で、この世界で最初の女王となったホリー・ブリターニャ。
七人の女性のなかでもその活躍は頭一つ抜け、多くの資料で七人のなかで功績という点では筆頭とされることが多い、「国母」の肩書を持つアリシア・タルファ。
ホリー・ブリターニャよりも早く、この世界の歴史上最初の女性国主となったアドニア商会のトップで「アグリニオンの女傑」アドリア・カラブリタ。
海を支配する八大海賊のひとつで、最も好戦的とされる「麗しの大海賊」の長ジェセリア・ユラ。
そして、最後のひとりが今回のエピソードの主役エマ・フォアグレンとなる。
一見すると、魔族と人間との戦いが終わるまでのエマは他の六人と比べた場合、その功は目立たない。
いや、功績がないと言った方がいいだろう。
それにもかかわらず、なぜ彼女が六人とともにその名が歴史に刻まれることになったのか?
それは、彼女がラフギール公国建国からわずか二年で引退を表明した父の跡を引き継ぐようにファーブから指名され公国の第二代宰相となったからだ。
ラフギール公国はその名のとおり、公爵である勇者ファーブがその頂点にいる。
だが、実際の国政は宰相を中心におこなうのだから、宰相とは非常に重要な役職である。
そして、宰相を置くどの国においてもその地位に就くのはすべて男性であったのだから、女性がその地位に就く、そのこと自体でも十分に評価されることではあったのだが、むろん彼女が七人の目に選ばれたのはその地位に就いた、そのことだけが評価されたものではない。
いや。
公国は彼女がその地位に就いてから急激な成長を遂げた、その指導力こそ評価ポイントと言えるだろう。
ただし、彼女にとっての優先順でいけば宰相の仕事はあくまで二番目。
そして、国を動かす宰相よりも優先順位が上なものが何かといえば……。
むろん、マロの妻。
と言っても、この世界の良妻を示すときに使われる言葉である「甲斐甲斐しい」というより、勇者一行のひとりである夫マロをこき使っていると言った方がふたりの新婚生活を説明するのにふさわしい言葉と言えるだろう。
もっとも。こうなることはふたりを知るすべての者にとっては結婚前から想像できたものであり、特別驚くことではなかった。
ラフギール公国のトップである勇者ファーブの言葉。
「結婚したばかりの頃は、エマは勇者一行のひとりで三公爵のひとりであるマロの妻だった」
「だが、今はその立場は逆転し、マロはラフギール公国の宰相エマのうだつが上がらない夫である。まあ、これは正当な評価である」
そして、マロの弟ブランも同様の言葉を残している。
「まあ、剣を振るうこと以外は取柄がない兄貴が、エマの尻に敷かれることになるのは最初からわかっていた。だが、実際はそれ以上。あれでは兄貴はエマの下僕だ」
もっとも、マロにも言い分はある。
「エマにその才がある。そして、宰相に地位に就いてからの功績も素晴らしい。だから、エマを讃える言葉はあって当然だと思う。だが、そこになぜ俺の名が出てくるのだ。しかも、どれもこれもろくなものではない」
「まったく、ファーブはロクなことをしない。そんな暇があったら国の長としての仕事をしろと俺は言いたい」
「そして、ブラン。俺がエマの下僕ならおまえも同じ。いや、それ以下だ」
そして、最後にエマ本人の言葉である。
「もちろん宰相の地位に就いているのだから、それに見合う働きはしますが、それによってマロとの生活に支障が出るならすぐにこの職を辞します」
「なぜなら、私にとっての至高の地位、それはマロの奥さんであることなのだから」
そう。
これが彼女エマ・フォアグレンなのである。




