英雄譚で語られる勇者の物語
勇者一行。
名目上のリーダーで「勇者」という肩書が与えられたファーブはラフギール公国の初代元首となる。
そして、その仲間であるマロとブランも相応の評価を受ける。
もちろん「銀色の髪の魔女」ことフィーネ・デ・フィラリオも。
当然のように勇者と仲間たちの旅は、すぐにこの世界の吟遊詩人の語る一番人気の英雄譚となる。
だが、吟遊詩人が語る勇者の一行の物語には、実質的リーダーでスポンサーでもあったアリスト・ブリターニャは登場しない。
正確には吟遊詩人が語る英雄譚でのアリストは最後に登場する悪の首隗、いわゆるラスボス扱いとなる。
実在する世界においても、アリストは正義の対極にある者として扱われ、彼を討った功績でファーブたちはブリターニャ公爵の地位を手に入れ、さらにラフギール公国建国の際には元首とその助言者として歴史に名を刻んでいる。
確かにグワラニーの何重にも重ねられた策略を見抜けなかった自身の判断ミスから多くの国民を死に追いやったことが発端となりアリストは精神の変調をきたし、「アルフレッド・ブリターニャの再来」になりかけたのは事実であるし、それ以前にフランベーニュを崩壊させるため、「アルフレッド・ブリターニャの再来」と名乗っていたのも事実。
更に、もしファーブの剣がアリストの身体を貫いていなかったら、この世界全体を巻き込む大惨事になっていたのは疑いようもない。
そう言う意味から死の直前のアリストの状況は「悪の権化」と言ってもいいものであったし、アリストの暴走を止めたファーブの功績は勇者の名にふさわしいものだったと言えるだろう。
だが、その一方で、勇者ファーブは最後の一瞬までアリストと行動にしていたのも紛れもない事実。
それはラフギールの住人たち、新ブリターニャ王国の女王ホリー・ブリターニャ、そして、魔族の者たちの言葉によって簡単に証することができる。
少々捻くれた言い方をすれば、正義の使徒が悪の首隗と旅をしていたということになり、それを吟遊詩人はどう説明するのかは歴史を俯瞰的に見ることができる者にとって非常に興味深いことといえるだろう。
では、実際に彼ら吟遊詩人がこの捻じれた関係をどのように語ったのか?
その話は大きく分けて二つに分岐する。
ひとつ。
勇者一行にはアリストが存在しなかったというもの。
つまり、ファーブたち三人の剣士と女性魔術師フィーネだけが勇者一行として話となる。
実は、吟遊詩人たちと彼らの客たちが好む勇ましい戦闘シーンのほぼすべてでアリストは防御魔法の展開に徹していたため、登場しないと言っていい。
つまり、アリストがいなくても勇者の活躍を語ることは十分に可能なのである。
そして、物語としては勇者一行が魔族の国の王都イペトスートを落とした後におこなわれた最終決戦でこの争いを起こした元凶であるアリストを討ち大団円を迎えるわけである。
分岐されるもうひとつは、勇者一行は五人であるのだが、五人目の男は覆面を被った謎多き魔術師であり、ラスボスであるアリスト・ブリターニャとの戦い後、姿を消したというものである。
さらに五人目である謎の魔術師はアリストと差し違いに死亡するという派出型も存在する。
そして、客の中では謎の五人目が加わる後者の方が人気があったため、多くの吟遊詩人はこちらの話を語ることが多かった。
もちろん、どれだけ取り繕っても彼らが口にする物語は真実とは違うものとなるのだが、所詮彼らが語る英雄譚は事実半分、創作半分の世界。
特別な問題にはならないのである。
さらに言えば、勇者一行の正体がはっきりしたのは最終盤。
それ以前の勇者の戦いぶりを知っている魔族からほとんど発表がないため、歴史学者の知識も実際には吟遊詩人のそれと変わらぬもの。
そして、公的にファーブたちがアリストとともに行動していたことが唯一確認できる、ブリターニャの王都サイレンセストから魔族討伐に出発したことを知る者はほぼすべてサイレンセストとともに消えているため、彼らの物語に異論を唱える者は殆どいない。
こうして生まれた虚偽に塗れた英雄譚は今日もどこかの酒場で語られるのである。




