後日談 ある夜の睦言
ディートハルトが帰ってきた時の夜は、いつも激しい。
有紗は彼しか知らないから、他の人と比べた時にどうなのかわからないけど、離れている期間を埋めるように一晩のうちに何度も求められる。
だけど基礎体力が違うから、大抵有紗が先にへばる。
(ディート様のえっち。変態)
でも、とても気持ち良かった。
恋愛感情を自覚してからの好意は、蕩けるように幸せな気分になる。
「アリサ、後ろ向きになって」
事後の余韻に浸っていたら、くるりと体をひっくり返され、後ろから抱きつかれた。
「後ろから抱っこするの、好きですよね」
「長時間引っ付くなら後ろからの方がいい。向かい合うと息がくすぐったい」
たくさん触れ合って満足したのか、ディートハルトの触れ方に性的な意図は感じられなかった。
愛し合った後の、この優しい時間が一番好きかもしれない。
逞しい腕にすっぽりと包み込まれて、背中に感じる人肌の感触が気持ちいい。
でも、少しだけ有紗には気になることがあった。
やけに下腹部を撫でられる事が多い気がするのだ。
(赤ちゃん、欲しいのかな……)
理由を聞くのは少し怖い。
肯定されたら、有紗は別の人を妃に迎えるように勧めなければいけない。
考えるだけで悲しくて涙が出てきた。
「え……、アリサ、泣いてる……?」
ディートハルトは目敏すぎる。どうして気付くのだろう。
「目にゴミが入りました」
「本当に? 俺が気に障る事をしたんじゃなくて……?」
彼は、半身を起こすと有紗の顔を覗き込んできた。
「アリサ、理由を教えて」
「だから、目にゴミが入ったんです」
「嘘だ」
ディートハルトは、有紗の頬に手を添えた。
「ちゃんと教えて。アリサの不安は全部知りたい」
「…………」
「アリサ、お願い」
有紗はディートハルトの落ち込んだような顔に弱い。
「いつもお腹に触るから……」
渋々と自白すると、彼は眉をひそめた。そんな彼に向かって、下腹部を手で示す。
「した後、いつもここに触りますよね? 理由が気になって」
「……俺のがそこにあると思って」
ディートハルトは恥ずかしいのか、有紗から目をそらした。
「本当にそれだけですか?」
「それ以外に理由はない」
「だったらいいです。私の勘違いでした」
「勘違いって?」
「……子供が欲しいのかなって」
有紗の発言に、ディートハルトは明らかに動揺した。
「……考えた事は、ちょっとだけある」
(やっぱり)
小声での告白に、有紗は目を閉じた。
「体を重ねる時、できたらいいのにって思う。性行為は生殖行為でもあるから、本能的に考えてしまうのかもしれない。それに、アリサとの子供は絶対可愛い」
ディートハルトは有紗を抱き寄せた。
「種の違いはどうにもできない。だから子供はいらない。俺が欲しいのはアリサとの子供であって、別の女との子供じゃない。物理的にどうにもならないなら、二人だけでいたい」
有紗の体に回された手に力がこもった。
「もし種の違いを克服できたとしても、絶対に安全に生まれてくる保証がないならいらない。俺の魔力を引き継いだ子供ができたせいでアリサの体に負担がかかったり、命が危なくなるようなら、俺は胎児を切り捨ててアリサを選ぶ」
(一緒だ……)
有紗も、欲しいのはディートハルトとの子供だけだ。授からないのなら二人だけで生きていきたい。
子供と自分、二者択一の場面が来た時は……。今の有紗は自分が一番可愛いから、子供より自分の命を優先してくれと頼むと思う。だけどこればかりは、実際に自分が直面してみないとわからない。
(でも、そんな事、考えなくてもいいかな……)
とても残念だけど、授かる可能性はまずないのだから。
「……後悔しても知りませんから」
有紗は小声でつぶやくと、ディートハルトの胸に顔を寄せた。




