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「あなたは・・・第一王子、ヒースクリフ・フェイ・ティアレイン。そうなんでしょう・・・?」
この国の王子はただ1人。けれどその唯一の王子がヒースクリフを第一王子と呼んだ。
(先代の聖女様の息子・・?)
戸惑う私たちとは対照的にヒースクリフはどこか冷めた様子だった。
「今までどこに・・・生きていたなら、なぜ姿を現さなかったのですか?」
「・・・・魔塔に協力しているお前なら、わかっているんじゃないか?」
「っ!」
ルーカスはぐっと眉を寄せると俯いて押し黙った。
「止めないのか?俺が何をするつもりか想像がつくだろう?それとも、お前の母親が俺たちにしたことを知らないか?・・・まぁ、無理もないか。あのときお前はまだ生まれたばかりだったからな」
「・・・私は・・王族として母上が過ちを犯しているなら法のもとに処罰を下すつもりです。たとえそれが死をもって償うべきものならそれに従います」
「王族として模範的な回答だな。」
ヒースクリフは冷え切った目でルーカスを見る。まるでつまらない回答だとでもいうように。
「・・・まぁ、いい。あいつに復讐するためには、お前の存在が必要だからな」
「1つ、聞かせてください。」
「何だ?」
「聖女様は・・・先代の聖女様はどうなったのですか?」
ルーカスの問いかけにヒースクリフは
「殺された。王妃の手でな」
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昔、仲睦まじい王と王妃の間には子供がいなかった。ある時、王は側妃を迎えることを宣言した。それがこの国に多大な貢献をしていた平民の聖女だった。側妃を迎え入れてすぐに聖女は懐妊し、男児を出産した。第一王子が5歳になる前にようやく王妃が懐妊し聖女と同じく男児を出産した。側妃である聖女と第一王子の存在が邪魔になった王妃は聖女を殺害し第一王子の存在はすり替えられ、王子の身分を無くした男児はその存在すら忘れ去られた。
「・・・それが俺だ」
まるで他人事のようヒースクリフは淡々と自分の過去を告げた。
感情の見えない言葉と表情には彼の抱えている闇が見えているようだった。
「だから、ヒースクリフは王妃への復讐をのぞんでいるのね」
「そうだ。当時の聖騎士だったトリスタンが俺を連れて逃げたおかげで命拾いはしたが、生きていることが苦痛だった。ここまで生きてきたのは母を殺したあいつに同じ苦しみを味わわせてやるためだ」
ヒースクリフの目に浮かんでいるのははっきりとした憎しみだった。それだけのために生きてきた、言葉通りの意味なのだろう。母親を殺されて、その存在すら葬られた彼が生きる支えにしたのが復讐という手段だとしたら回帰してから出会った彼の抜き身の剣のような様子も納得できる。
「俺がお前の前に姿を見せた理由はわかっているだろう」
「私があなたの存在を公表することを望んでおられるのですね」
「あぁ。俺の存在こそあいつの罪の証明になる。お前にはその証人になってもらう」
第一王子が認める存在を葬られた王子、それが公のものとなれば否が応でも注目が集まる。王妃の罪を告発するにはうってつけの機会だ。
「・・だが、問題は俺が証言したとしても決定打に欠けるということだ。権力でいかようにももみ消すことができるからな。だからこそいままで表舞台に立つことはしなかった」
「・・・・1つだけ、あります。決定的な証拠が」
「何?」
「けれどそれが今どこにあるのか、わかりません。幼いころに1度だけ見たことがあるだけなので。正直言ってあなたが私の目の前に現れるまで悪夢だと思っていましたから」
「なぜ今もあると言い切れる。王妃のことだからすでに破棄したんじゃないのか?」
「いいえ。それだけは絶対にありません。あの人は自分の執着したものを絶対に手放さない。それがたとえ自分の存在すら脅かすものであってもです。だからこそあなたもこうして生きているのではないのですか」
「皮肉なほどに説得力があるな。だが、それがどこにあるのかはわかるのか?」
「・・・わかりません。」
「その証拠とは何なんだ?」
「・・・・言えません。」
「なんだと?」
自ら証拠となるものの存在を伝えておきながら、ルーカスは急に言いづらそうに顔を背けた。
「今は言えないんです。・・・・とても、口にはできない恐ろしいものだから。」
真剣な少し青ざめた表情はルーカスがそれ以上話せないことを物語っていた。ヒースクリフもそれがわかったのだろう、それ以上追求することはしなかった。
「・・・まぁ、いい。お前が無事にそれを見つけ出すことができるならな。」
「隠しているものを探す必要はありません。本人に教えてもらえばいい。」
「何だと?あいつがそんなに簡単に尻尾を出すはずがない。」
「えぇ。あの人はとても用心深い。けれど反対に自分の執着したものを手放せない人でもあります。だから、俺に考えがあります。少し時間がかかりますが」
「かまわない」
「アリス、君にも手伝ってもらいたい。できれば・・有力貴族の協力も得たいところだけれど・・」
「・・・・私は、お兄様からの協力を取り付けるわ」
「君の・・。けれど、ルードベルト侯爵は・・・」
ルーカスの言わんとしていることはわかっている。ルードベルト侯爵家は有力貴族でありながら日和見だ。だからこそ絶対的な権力を持っている王族に逆らうことはしないのではないかという懸念がある。けれど、それはこれまでの当主の話だ。
「私は、私がやらなきゃいけないことをする」
決意を込めて2人を見返すとルーカスとヒースクリフは違った笑みを見せる。ルーカスは少し心配そうにヒースクリフはやってみろというように。回帰前、ヒースクリフはルーカスを殺害している。こうして話していることすら想像もできなった2人が今はこうして協力関係にある。これもまた、私がもがいてつかみ取った未来だ。
(だから、絶対に諦めたりしない)
諦めてしまうことで未来が閉ざされてしまうことを知っているから。たとえできることがなくても、惨めでもあがくんだ。少しでも望んだ未来に手が届くように。
読んでいただきありがとうございます。




