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「皆様、ようこそ舞踏会へ。

急な招待にも関わらず出席してくださったことに感謝を。

今夜の舞踏会ではルーカスの婚約者をこの場をかりてお伝えするつもりです。」


王妃の傍には着飾ったルーカスの姿がある。

普段通りの笑みを浮かべているように見えるが

どこか固い表情にも見える彼の様子が気になった。


「近頃は城下での事件が多発し私も大変胸を痛めています。

ですがご安心ください。舞踏会には優秀な魔塔の魔法使いが警備にあたっております。」


改めて会場を見渡すと警備をしている騎士に混じり

魔塔の魔法使いたちが警備にあたっているのが見える。

物々しい雰囲気になってしまうため

てっきり影から警備にあたるのかと思っていたが

魔塔の魔法使いとして正装をして控えている。


「それから特別な催しを用意いたしました。

今夜は皆さまにとって特別な夜になることをお約束いたします。

どうか心行くまでお楽しみください。」


歓声とともに拍手が巻き起こる。

ルーカスとよく似たオレンジ色の瞳と目があったような気がした。


**********



「アリス。」


声をかけられたのは王妃の挨拶が済んだ後のことだった。

共に入場していた両親も選ばれるのは私の娘だと主張する

貴族たちの言い合いに入っていってしまった。

今夜は誰もが王子の婚約者という椅子を虎視眈々と狙っている。

そしてその中でも筆頭の婚約者候補とされる私は否応なしにその注目を集めていた。

普段よりも注目されることに疲れた私は

人々の視線から逃れるように壁際へと移動していた。


「エゼキ・・」


「振り返るな。そのまま聞いてくれ。」


声の主を呼ぼうとすると鋭くとがめられた。

私にしか聞こえないような声で呟く声に小さくうなずく。


「傍にいられなくて済まないが会場にはマティアスも待機させている。

何かおかしなことがあったらすぐに呼ぶんだ。

分かったな。」


「あなたは?」


「せっかく大義名分を得て王城に来ているからな。

俺は王妃の身辺を探る。」


「わかったわ。」


小さくうなずくとエゼキエルの姿は人の波にのまれてみえなくなった。

なんとなく見えなくなったその背を見送っていると不意に周囲が騒がしくなった。

ハッとして周囲を見渡すと女性たちを引き連れたルーカスがこちらに向かってきていた。

周囲の令嬢たちに断りを入れながらこちらへ来ると私を見て穏やかに目を細めた。


「こんばんは、ルードベルト侯爵令嬢。今日のあなたは一段と美しいね。」


「ごきげんよう。王子殿下。そのようなお言葉をいただけるとは

身に余る幸栄です。」


表面的には以前と変わらない会話。

けれど彼の性格を知った今ではどこかすんなりと受け入れられる。

ルーカスはしく私に手を差し出した。


「ルードベルト侯爵令嬢。俺と踊っていただけますか?」


どこかこの緊張感のあるなかで仲間の姿があることにほっとする。


「えぇ。喜んで。」


微笑んで差し出された手を取った。


***********


「久しぶりだね。その様子だと元気に過ごしていたようだ。」


「えぇ。ルーカスも。変わりはないかしら。」


「この舞踏会のためにと準備に追われていたよ。」


「ふふ。私も同じよ。」


「それに城下町で起きている事件もあったからね。

余計に監視の目が厳しくなった。

おかげで城から1人で出歩くことが叶わなくなったくらいだよ。」


「あなたはこの国にただ1人の王位継承者ですもの。当然だわ。

そう言えば、あの件についての調べは進んでいる?」


「あぁ。今は母上の経歴を洗っている。

王妃になる前のことはどうにも情報が少なくて

まだ君に伝えられるほどのものはないがね。」


ダンスを始めると周囲に聞こえないような声で近況を離す。

必然的に身体が密着する私たちの姿に視線が集中した。

今日の主役であるルーカスと共に踊ることは

普段以上に注目の的になってしまっていた。


「・・・・アリス。気を付けるんだ。

母上は今日の夜会で何かを仕掛けるつもりのようだ。」


「えぇ。わかっているわ。」


「・・・君は何か知っているのか?」


「何が起きるのか、私にもわからない。

けれど嫌な予感がするの。

・・・あなたは何も知らされていないの?」


「残念ながら。

1ヶ月前に突然今日の舞踏会で婚約者を決めることを一方的に知らされた。

私ももうすぐ成人だ。婚約者を決めること自体はおかしなことじゃない。

だがあまりに性急すぎる。」


「・・・・。」


「それに合わせたように城下での事件が起きたのも気にかかる。

私やアリスだけじゃない、魔塔まで身動きがとれなくなった。

あまりにタイミングが良すぎると思わないか。」


(・・・たしかし。ルーカスの言う通りだ。)


「証拠はない。だがこの状況が余計にあの人らしいような気もする。

人目があるから直接手を出してくることはないはずだが

君も、決して1人になるようなことはしないでくれ。」


忠告に頷くとルーカスは少しほっとしたように微笑んだ。

彼の言葉に違和感が形を成していく。

王妃が何か直接手を出してくるようなことはない。

けれど私たちの身の回りにはすでに見えない糸が

張り巡らされているように思うように動けなくなっている。

1人で王妃を探ると言っていたエゼキエルは大丈夫だろうか。

とたんに心配になった。


私の心配とは裏腹に曲の終わりとともに一際大きな拍手が巻き起こる。

王妃はダンスの輪の中心にいる私たちをにこやかに見つめていた。

まるで獲物がかかるのを待ちわびているように見えてしまうのは

私の気のせいなのだろうか。


**********


「紳士淑女の皆さま。ご注目ください。」


舞踏会も中盤にさしかかった頃、会場にアナウンスの声が響いた。


「特別な催しを用意いたしました。

ご令嬢の皆さまはこちらへどうぞ。」


アナウンスにより令嬢たちは否応なしに集められる。

何がおきるのかと浮足立っている人もいれば

期待がかかっているのか緊張している面持ちの人もいる。

私もその中に混じるようにして移動すると聞きなれた声に呼び止められた。


「アリス。」


振り返るとそこには美しく着飾ったヘレンがいた。


「ヘレン。会えてよかったわ。」


「私もよ。あなたと入れ違いにルーカスとダンスを踊っていたの。

まったく、形式上のものとはいえあの男とダンスを踊るなんて

時間の無駄ね。」


「ヘレンッ!誰かに聞かれたらどうするの。」


「構わないわ。どうせ


ヘレンと談笑していると使用人が私たちの前に来て

カードを差し出した。


「1枚お引きください。今夜の皆様の運命を決めるカードです。」


「・・・どうやら、王妃殿下のおっしゃっていた特別な催しというものなのね。」


ヘレンは特に気にした様子もなくカードを引く。

私も続けてカードを手に取った。

一見するとトランプのようにも見えるが

タロットカードなのだろうか。

めくってみるとそこに描かれていたのは大きな鎌を持った骸骨だった。

死神の絵に一瞬ドキリとする。


「私は女帝ね。アリス、あなたは?」


「死神・・・あまり良くないみたい。

これを使ってどうするつもりなのかしら。」


周囲を見渡すとそれぞれカードをもらったらしい令嬢たちがざわめきだす。


「まぁ、私は死神ですって。不吉だわ。」


「私もよ。せっかくの舞踏会だというのに。」


私と同じ絵柄を引き当てた令嬢もいるらしい。

何かあるのではないかと身構えてしまったが

少なくとも自分だけではない事実にほっと息をついた。


「カードを確認いたします。

死神のカードですね。こちらをどうぞ。」


カードを配っている使用人とは別の使用人が回ってきた。

彼らはカードを確認すると私に赤いブローチを手渡した。


(・・・これを使って何をするつもりなのかしら。)


隣のヘレンを見ると彼女もブローチを受け取っていた。

けれど彼女が持っているのは青いブローチだった。

カードの役割によって色が違うのだろうか。


「・・・・アリス。あなたのブローチ私のものと交換しましょう。」


ふと周囲を見渡していたヘレンが

まるで周囲を警戒するように小さな声で私に声をかけた。


「あまり良くないもののようだけれど・・。」


「構わないわ。女帝だってそう変わらないわよ。」


疑問に思いながらも言われたとおりに交換する。


「どうかしたの?」


「何でもないわ。ただ私の杞憂で終わればいいだけだから。」


ヘレンはそう言って笑うとブローチを握りしめた。


「これは皆様が主役の物語。

巡る運命の輪に翻弄されないよう、お気をつけて。」


周囲を見渡すと令嬢たちだけでなく

他の招待客もブローチを渡されている。

これで一体何をするというのだろうか。


「では参りましょう。・・・転移。」


パチンっと指が鳴らされたと思ったとき、視界が真っ暗になった。

同時にパリンっと何かが割れるような音ともに立っている地面が揺らぐような感覚がした。


(何?・・立ち眩み?)


めまいがすぐに収まったが会場は停電したままだ。

けれどそれはすぐに違うことに気が付いた。

土と花の香り。

風に髪がなびいている。

突然の暗闇に目が鳴れなかっただけだ。


「・・・ここは・・外?」


再びパチンッという音が鳴るとふわっと蝋燭の灯りが灯される。

そこは煌びやかに装飾された庭園だった。

いつの間にか王城の庭園へと移動している。


(魔法・・?)


それにしても会場にいた人数を転移させるなどとても高度なものだ。


「あれ・・ヘレン?」


ふと先ほどまで隣にいたはずのヘレンがいないことに気が付いた。

周囲を見渡すと同じように何人かの令嬢の姿がない。

役割によって違う場所に転移したのだろうか。

これから何が起きるのかと皆が期待に胸を膨らませたとき


ドンっと大きな爆発音がした。


とっさに振り返ると先ほどまでいた舞踏会会場から煙が上がっている。

何が起きたのか理解する間もないまま

続けて3度の爆発が起きる。

突然の出来事に驚きながらも令嬢たちは皆両親のもとへと行き

お互いの安否を確認している。

会場が離れているからか、パニックになっている人はいないようだ。


「ヘレンッ!ヘレンはどこだ!」


そのなかで一際大きな声を出している夫婦がいた。

遠目からでもわかる。

あれはシェーファー侯爵夫妻だ。

近くにいる使用人に掴みかかっているのが見える。


「落ち着いてください。侯爵閣下。」


「落ち着いてなどいられるか!ヘレンがどこにもいない!

急いで兵を集めて探すんだ!」


嫌な予感がした。


(・・・まさか)


煙の立ち上がる会場からは炎が立ち上り始めているのが見えた。


読んでいただきありがとうございます。

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