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第62話:濃姫と吉乃が子育て論で意気投合したんだが!?

 戦国時代の子育てというものは、現代人の俺からすると、なかなか理解しがたいところがある。


 そもそも、武家の子どもは、生まれた瞬間から家の将来を背負わされる。男児であれば家督を継ぐことを期待され、女児であれば、いずれ他家へ嫁ぐことを前提に育てられる場合が多い。


 もちろん、すべての家がそうだというわけではないだろう。


 だが、少なくとも織田家では、子どもが生まれれば、ただ可愛がっていればよいという話にはならないらしい。


 家督。


 血筋。


 婚姻。


 後継ぎ。


 そんな言葉が、まだ生まれてもいない子どもの話にまで登場するのだから、恐ろしいものである。


 もっとも、今の俺には、まだ子どもはいない。


 だから、そんな話を真剣に考える必要はないと思っていた。


 ……その日の朝までは。


     *


 冬の冷たい風が、城の庭を吹き抜けていた。


 木々はすっかり葉を落とし、池の水面には薄い氷が張っている。廊下を歩く者たちは肩をすくめ、炭を運ぶ小者たちは忙しそうに行き交っていた。


 俺は、父上のもとで朝の仕事を終えると、ようやく自分の部屋へ戻ろうとしていた。


 その途中、源太が声をかけてきた。


「若殿。本日は、濃姫さまが吉乃どののお屋敷へお出かけになるそうでございます」


 俺は、足を止めた。


「……濃姫が?」


「はい」


「……何か用事があるのか?」


 源太は、少しだけ首を傾げた。


「詳しいことまでは存じませぬが、吉乃どのからお誘いがあったと伺っております」


 俺は、思わず眉を上げた。


 吉乃から誘った。


 あの初めての茶会以来、二人は手紙のやり取りをしていると聞いていたが、どうやら俺が思っていた以上に親しくなっているらしい。


 もちろん、それ自体は喜ばしいことだ。


 だが、少しだけ気になる。


 俺は、源太へ尋ねた。


「……俺も行っていいのか?」


 源太は、何とも言えない顔をした。


「それは、濃姫さまへお尋ねになられたほうがよろしいかと」


 俺は、少し考えた。


 確かに、そのとおりだ。


 勝手についていって、また二人から仕事をしろと言われるのは避けたい。


 俺は、濃姫の部屋へ向かった。


     *


 濃姫は、ちょうど外出の支度をしているところだった。


 落ち着いた色合いの小袖を身につけ、髪を丁寧に整えている。侍女たちは、寒さを防ぐための羽織や、手土産の包みを用意していた。


 俺が入ると、濃姫は静かに頭を下げた。


「信長さま。お仕事はお済みでございますか」


「ああ。ひとまずな」


 俺は、少しだけ笑った。


「……今日は吉乃のところへ行くんだって?」


 濃姫は、頷いた。


「はい。吉乃どのから、お茶にお誘いいただきました」


「……そうか」


 俺は、少しだけ考えた。


「……俺も一緒に行っていいか?」


 濃姫は、少しだけ目を丸くした。


 そして、静かに微笑んだ。


「信長さまも、でございますか」


「ああ。別に邪魔をするつもりはないんだが……」


 濃姫は、少しだけ考えた。


「吉乃どのがお嫌でなければ、よろしいかと存じます」


 俺は、ほっとした。


「……じゃあ、俺も行く」


 濃姫は、静かに頷いた。


 だが、そこで少しだけ首を傾げた。


「ところで、信長さま」


「……何だ?」


「本日は、吉乃どのと何をお話しなさるおつもりでございますか」


 俺は、言葉に詰まった。


 ……何を?


 いや、別に何か話すことが決まっているわけではない。


 ただ、二人が何を話すのか、少し気になっただけだ。


「……まあ、いろいろだな」


 俺がそう答えると、濃姫は小さく笑った。


「それでは、どうかお邪魔にならぬようお願いいたします」


 俺は、思わず顔をしかめた。


 まだ何もしていないのに、すでに邪魔者扱いされている。


 どうやら、俺の立場は相変わらずらしい。


     *


 吉乃の屋敷へ着くと、庭の梅の木はまだ固い蕾をつけていた。


 池の周りには霜が残り、縁側には冬の日差しが差し込んでいる。屋敷の中では炭火が焚かれ、ほんのりと温かい空気が漂っていた。


 吉乃は、俺たちを出迎えると、嬉しそうに頭を下げた。


「濃姫さま。信長さま。本日は、ようこそお越しくださいました」


 濃姫は、柔らかく微笑んだ。


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


 俺も、軽く頷いた。


「……元気そうだな」


 吉乃は、少しだけ頬を膨らませた。


「信長さま。また、そのお尋ねでございますか」


 俺は、思わず笑った。


「……悪い。つい」


 濃姫が、小さく笑った。


「信長さまは、吉乃どののお顔をご覧になるたびに、お体のことをお尋ねになるのでございますね」


 吉乃は、頷いた。


「はい。もうすっかり元気でございますのに」


 俺は、少しだけ肩を落とした。


 どうやら、今日も俺の心配性について話が始まるらしい。


 だが、吉乃はすぐに話題を変えた。


「本日は、少し珍しいものをお見せしたくて、お招きしたのでございます」


 俺は、首を傾げた。


「……珍しいもの?」


 吉乃は、嬉しそうに頷いた。


「はい。こちらへどうぞ」


     *


 案内された座敷には、小さな木箱が置かれていた。


 吉乃が蓋を開けると、中から布で作られた小さな人形や、色鮮やかな紐、木の玩具が現れた。


 俺は、少し驚いた。


「……子どもの玩具か?」


 吉乃は、頷いた。


「はい。母が、昔わたくしに作ってくれたものでございます」


 濃姫は、興味深そうに身を乗り出した。


「まあ。可愛らしいお人形でございますね」


 吉乃は、嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。こちらは、幼い頃から大切にしているものでございます」


 濃姫は、人形をそっと手に取った。


 小さな布の体に、糸で縫われた目と口。決して豪華なものではないが、丁寧に作られていることが分かる。


 濃姫は、静かに微笑んだ。


「お母上が、心を込めて作られたのでございましょうね」


 吉乃は、頷いた。


「はい。わたくし、幼い頃はこの人形を抱いて眠っていたそうでございます」


 俺は、思わず笑った。


「……吉乃にも、そんな頃があったんだな」


 吉乃は、俺を見た。


「信長さまにも、幼い頃はございましたでしょう」


 俺は、言葉に詰まった。


 ……まあ、そうだ。


 ただし、俺の場合は現代の話になるので、少々説明が難しい。


 吉乃は、くすくすと笑った。


 濃姫も、小さく微笑んだ。


 俺は、黙って茶を飲んだ。


     *


 やがて、話題は自然と子どものことになった。


 吉乃が、人形を箱へ戻しながら口を開いた。


「濃姫さまは、幼い頃、どのようにお過ごしでございましたか」


 濃姫は、少しだけ考えた。


「わたくしは、幼い頃から読み書きや礼儀作法を習っておりました。母や侍女たちから、武家の娘として恥ずかしくない振る舞いをするよう、よく言われたものでございます」


 吉乃は、目を丸くした。


「まあ。幼い頃からでございますか」


「はい。もちろん、遊ぶこともございましたが、自由に外を駆け回ることは、あまり許されませなんだ」


 吉乃は、少しだけ考えた。


「わたくしとは、ずいぶん違いますね」


 濃姫は、微笑んだ。


「吉乃どのは、どのようにお過ごしでございましたか」


 吉乃は、少し照れくさそうに笑った。


「わたくしは、毎日のように外で遊んでおりました。川で魚を追いかけたり、木に登ったり、畑の手伝いをしたり……」


 俺は、思わず笑った。


 いかにも吉乃らしい。


 濃姫も、興味深そうに聞いていた。


「木登りもなさったのでございますか」


「はい。柿の木によく登っておりました」


 濃姫は、少し驚いたようだった。


「まあ。それは、勇ましいことでございますね」


 吉乃は、くすくすと笑った。


「母には、何度も叱られました」


 俺は、二人の話を聞きながら、少しだけ考えた。


 濃姫と吉乃。


 育った環境は、まるで違う。


 だが、こうして話していると、不思議と会話が途切れない。


 互いの知らない世界に、興味を持っているのだろう。


     *


 しばらくして、濃姫が静かに口を開いた。


「吉乃どのは、いつか子を持ちたいとお思いでございますか」


 俺は、思わず茶碗を置いた。


 ……え?


 いきなり、そこへ行くのか?


 吉乃は、少しだけ頬を赤くした。


 だが、すぐに頷いた。


「はい。いつか、子を授かることができれば嬉しゅうございます」


 濃姫は、静かに微笑んだ。


「そうでございますか」


 吉乃は、少しだけ目を伏せた。


「ただ、わたくしは、子育てについて何も存じませんので、不安もございます」


 濃姫は、頷いた。


「それは、わたくしも同じにございます」


 俺は、少し驚いた。


 濃姫も、子育てについて不安があるのか。


 当然といえば当然だが、彼女はいつも落ち着いているので、あまりそういうことを考えたことがなかった。


 濃姫は、静かに続けた。


「武家の子どもは、幼い頃から家のために生きることを求められます。ですが、わたくしは、子どもには子どもらしく過ごす時間も必要だと思っております」


 吉乃は、嬉しそうに頷いた。


「わたくしも、そう思います」


 濃姫は、少しだけ微笑んだ。


「もちろん、礼儀作法や学問も大切でございます。ですが、幼い頃から何もかも厳しく教え込むばかりでは、息が詰まってしまいましょう」


 吉乃は、静かに頷いた。


「はい。わたくしも、子どもにはたくさん遊んでほしゅうございます」


 俺は、二人を見比べた。


 どうやら、子育てについては、かなり意見が合うらしい。


 だが、そこで吉乃が少しだけ首を傾げた。


「ただ、濃姫さま。わたくしは、学問を教えることがあまり得意ではございませぬ」


 濃姫は、静かに微笑んだ。


「でしたら、わたくしがお手伝いいたしましょう」


 俺は、思わず顔を上げた。


 吉乃も、目を丸くした。


「……よろしいのでございますか?」


「はい。読み書きや礼儀作法でしたら、多少はお教えできるかと存じます」


 吉乃は、嬉しそうに微笑んだ。


「それは、たいそう心強うございます!」


 濃姫も、柔らかく微笑んだ。


 俺は、その様子を見ながら、少しだけ胸が温かくなった。


 濃姫と吉乃が、将来の子どものことを話している。


 まだ、誰の子どもも生まれていない。


 だが、二人は自然と、互いに助け合うことを考えているらしい。


     *


 ところが、話はそこで終わらなかった。


 吉乃が、少しだけ考えてから口を開いた。


「濃姫さま。もし、わたくしに子が生まれたら、その子はどのように育てられるのでございましょう」


 濃姫は、少しだけ表情を引き締めた。


 俺も、思わず姿勢を正した。


 これは、かなり大切な話だ。


 側室の子ども。


 正室の子ども。


 武家社会では、その違いが将来の家督相続に大きく関わることがある。


 俺は、父上からも、そのことを何度も言われていた。


 濃姫は、しばらく考えてから答えた。


「それは、信長さまと、織田家のご意向によるところが大きゅうございます」


 吉乃は、静かに頷いた。


「はい」


「ですが、子どもが生まれれば、まずは健やかに育てることが何より大切でございましょう」


 吉乃は、少しだけ微笑んだ。


「そうでございますね」


 濃姫は、続けた。


「そして、誰が産んだ子であっても、織田家の子であることに変わりはございませぬ」


 俺は、息を呑んだ。


 濃姫は、静かに吉乃を見つめた。


「わたくしは、子を産んだからといって、必ずよい母になれるとは思っておりませぬ」


 吉乃は、少し驚いたようだった。


 濃姫は、柔らかく微笑んだ。


「反対に、自分が産んだ子でなくとも、心を尽くして育てる方もおられましょう」


 俺は、胸が締めつけられた。


 以前にも、濃姫は同じようなことを話してくれた。


 血のつながりだけが、親子を決めるものではない。


 その言葉が、今になって、少しずつ重みを増している気がした。


 吉乃は、しばらく濃姫を見つめていた。


 そして、静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 濃姫は、少しだけ首を傾げた。


「何のお礼でございましょう」


 吉乃は、柔らかく微笑んだ。


「わたくしの子のことまで、大切に考えてくださっていることが、嬉しゅうございます」


 濃姫は、少しだけ目を伏せた。


 そして、静かに答えた。


「まだ、何も決まっておりませぬよ」


 吉乃は、頷いた。


「はい」


 濃姫は、少しだけ微笑んだ。


「ですが、もしそのような日が来たならば、互いに相談しながら、よい道を探してまいりましょう」


 吉乃は、嬉しそうに頷いた。


「はい。お願いいたします」


 俺は、二人の顔を見比べた。


 何だろう。


 まだ子どもが生まれてもいないのに、すでに子育ての方針が決まり始めている。


 しかも、俺抜きで。


     *


 俺は、少しだけ咳払いをした。


「……あのさ」


 二人が、同時に俺を見た。


 俺は、少しだけ肩をすくめた。


「……子どもの父親になるのは、俺なんだが」


 濃姫は、静かに頷いた。


「はい。存じております」


 吉乃も、嬉しそうに微笑んだ。


「もちろんでございます」


 俺は、少しだけ安心した。


 だが、濃姫はそこで静かに続けた。


「ですから、信長さまにも、きちんとお考えいただきとうございます」


 俺は、目を丸くした。


「……何を?」


 濃姫は、少しだけ首を傾げた。


「子どもをどのように育てたいか、でございます」


 俺は、言葉に詰まった。


 ……子育て方針?


 いや、まだ子どもは生まれていない。


 だが、確かに、父親になる可能性はある。


 俺は、少し考えた。


「……元気に育ってくれれば、それでいいと思う」


 吉乃は、嬉しそうに頷いた。


「はい。わたくしも、そう思います」


 俺は、ほっとした。


 だが、濃姫は静かに微笑んだ。


「それは、何より大切なことでございますね」


 そして、少しだけ表情を引き締めた。


「ですが、信長さま。元気に育てるためには、何をなさいますか」


 俺は、言葉に詰まった。


 ……何を?


 食事をきちんと与える。


 病気になったら医者を呼ぶ。


 怪我をしないように気をつける。


 それくらいしか、思いつかない。


 俺が黙っていると、濃姫は少しだけ微笑んだ。


「これから、ゆっくりお考えくださいませ」


 吉乃も、くすくすと笑った。


 俺は、思わず肩を落とした。


 どうやら、父親になるというのは、想像以上に難しいことらしい。


     *


 その後、二人はさらに子育てについて話し始めた。


 濃姫は、幼い頃から礼儀作法を教えることの大切さを話し、吉乃は、子どもには自然の中で遊ぶ時間も必要だと話していた。


 俺は、その会話を聞きながら、少しずつ考え始めた。


 もし、俺に子どもが生まれたら。


 その子は、織田家の子として育つことになる。


 男の子であれば、いずれ武将になることを期待されるかもしれない。


 女の子であれば、他家との婚姻を求められるかもしれない。


 だが、俺は、その子たちに、ただ家のためだけに生きてほしいとは思わなかった。


 もちろん、武家の子としての務めはある。


 だが、それでも、一人の人間として幸せに生きてほしい。


 俺は、ゆっくりと口を開いた。


「……俺はさ」


 二人が、こちらを見た。


 俺は、少しだけ照れくさくなった。


「……子どもが生まれたら、できるだけ笑って過ごしてほしいと思う」


 濃姫は、静かに聞いていた。


 吉乃も、微笑んでいる。


「……武芸や学問も大切だろうけど、それだけじゃなくて、好きなことを見つけてほしい」


 俺は、少しだけ考えた。


「それから、失敗しても、すぐに叱らないようにしたい」


 濃姫は、少しだけ目を丸くした。


 吉乃は、嬉しそうに頷いた。


「それは、よろしゅうございますね」


 俺は、少しだけ笑った。


「……俺自身、失敗ばかりしてきたからな」


 濃姫は、静かに微笑んだ。


「信長さまらしいお考えにございます」


 俺は、少しだけ照れくさくなった。


 だが、濃姫はそこで少しだけ首を傾げた。


「ただし、信長さま」


「……何だ?」


「失敗を叱らないことと、何をしても許すことは、違いますよ」


 俺は、言葉に詰まった。


 吉乃が、くすくすと笑った。


「はい。悪いことをしたときには、きちんと教えなければなりませぬね」


 俺は、二人を見比べた。


 ……また、俺が教えられる側になっている。


 どうやら、子育てについては、二人のほうがずっとしっかり考えているらしい。


     *


 帰り際、濃姫は吉乃へ向き直った。


「吉乃どの。本日は、たいそう楽しい時間を過ごさせていただきました」


 吉乃は、嬉しそうに頭を下げた。


「こちらこそ、ありがとうございました」


 濃姫は、少しだけ微笑んだ。


「また、お話しいたしましょう」


 吉乃は、頷いた。


「はい。ぜひお願いいたします」


 俺は、その様子を見ながら、ほっと息を吐いた。


 最初は、二人が仲良くできるか心配していた。


 だが、今では俺がいなくても、二人は自然と話し合っている。


 それは、きっとよいことなのだろう。


 濃姫が駕籠へ乗り込む前、俺はそっと声をかけた。


「……濃姫」


「はい」


「今日は、楽しそうだったな」


 濃姫は、少しだけ微笑んだ。


「はい。吉乃どのとは、育った環境が違いますので、知らぬことをいろいろ教えていただけます」


 俺は、頷いた。


「……そうか」


 濃姫は、少しだけ目を伏せた。


「それに、あの方は、信長さまのことを本当に大切に思っておられるのでございますね」


 俺は、息を呑んだ。


 濃姫は、静かに続けた。


「それが分かったことも、よかったと思っております」


 俺は、何も言えなかった。


 濃姫は、少しだけ微笑んだ。


「ですが、信長さま」


「……何だ?」


「わたくしのことも、どうかお忘れにならないでくださいませ」


 俺は、ゆっくりと頷いた。


「……もちろんだ」


 濃姫は、安心したように微笑んだ。


     *


 その夜、俺は一人で部屋に座り、今日のことを考えていた。


 濃姫と吉乃。


 二人は、育った環境も、考え方も、まるで違う。


 だが、子どもを大切にしたいという気持ちは、同じだった。


 そして、俺もまた、いつか生まれるかもしれない子どもたちを、幸せに育てたいと思っている。


 ただし、現実はそう簡単ではないだろう。


 武家の子として生まれれば、家のために生きることを求められる。


 俺がどれほど自由に育てたいと思っても、すべてを思いどおりにできるわけではない。


 それでも、できることはあるはずだ。


 俺は、静かに息を吐いた。


 もし、いつか俺に子どもが生まれたら。


 その子たちには、できるだけ笑っていてほしい。


 濃姫にも、吉乃にも、幸せでいてほしい。


 俺は、そのために何ができるのだろう。


 ……などと真剣に考えていたのだが、ふと気づいた。


 そもそも、まだ子どもは生まれていない。


 それなのに、濃姫と吉乃は、すでに子育てについて意気投合している。


 しかも、俺だけが、父親としての覚悟を問われてしまった。


 俺は、思わず苦笑した。


 ……濃姫と吉乃が子育て論で意気投合したんだが!?

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