第6話:誰にも恨まれない信長になろうとしたら、家臣に警戒されたんだが!?
俺は考えた。
どうすれば、本能寺で死なずに済むのか。
一度目。
本能寺で明智光秀に謀反を起こされ、森蘭丸に首を斬ってもらった。
二度目。
明智光秀を怒らせないようにした結果、徳川家康が腐った魚を食べて死に、責任を取らされて処刑された。
そして三度目。
俺は三十三年前に戻ってきた。
ここまで来れば、さすがの俺にも分かる。
歴史を変えようとして、余計なことをするから駄目なのだ。
だったら。
「……誰からも恨まれなきゃいいんじゃね?」
俺は天才かもしれない。
明智光秀に恨まれなければ、本能寺の変は起こらない。
たぶん。
そもそも、なんで明智光秀が謀反を起こしたのかなんて、俺は知らない。
学校の授業では「諸説あります」で終わった。
テレビでも「怨恨説」「野望説」「黒幕説」とか、いろいろやっていた気がする。
だったら全部潰せばいい。
家臣に優しくする。
怒鳴らない。
無茶な命令をしない。
人を殺さない。
戦争もしない。
みんなに好かれる。
これだ。
俺はこれから、織田信長史上もっとも優しい織田信長になる。
*
「若殿、何をなさっておられるのです?」
「薪を運んでます」
「それは見れば分かります!」
昼前。
俺は庭で薪を抱えていた。
さっそく今日から、いい人になることにしたのだ。
さっき使用人の老人が重そうに薪を運んでいたので、手伝っている。
「若殿がなさる仕事ではございませぬ!」
「でも、手伝ったほうが早いでしょう?」
「そういう問題ではございませぬ!」
家臣が頭を抱えた。
なんでだよ。
いいことしてるだろ。
現代だったら、社長が社員と一緒に荷物を運んでいたら好感度爆上がりだ。
きっとネットニュースになって、
『部下と同じ目線に立てる理想の上司』
とか書かれる。
俺は将来、何万人もの家臣を抱えることになる男だ。
今のうちから理想の上司を目指して何が悪い。
「ほら、あと三束ですから」
「若殿!」
「大丈夫です。これくらい持てます」
「持てるかどうかを申しているのではございませぬ!」
難しい。
戦国時代のコンプライアンスが分からない。
*
薪を運び終えると、今度は廊下で若い使用人とぶつかった。
「も、申し訳ございませぬ!」
持っていた器が床に落ちた。
幸い割れてはいない。
「大丈夫?」
「は、はい!」
「怪我してない?」
「ございませぬ!」
「ならよかった」
器を拾って渡してやる。
すると、使用人はなぜか固まった。
「……どうしたの?」
「い、いえ!」
逃げるように去っていった。
なんだ?
やっぱり俺、嫌われてるのか?
その後も、俺は積極的に善行を重ねた。
庭掃除をしている老人を手伝った。
馬の世話をしている男に「いつもありがとう」と声をかけた。
料理を運んできた女性には「美味しかったです」と伝えた。
完璧だ。
これだけやれば、俺を嫌う人間はいなくなる。
夕方には、
「若殿が……礼を……」
「今日は使用人と一緒に薪を運ばれたらしいぞ」
「一体、何があったのだ……?」
という声があちこちから聞こえてきた。
……あれ?
好感度が上がるどころか、警戒されてない?




