↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/31

第11話:戦から帰ってきたら嫁の距離が近すぎるんだが!?

 屋敷が見えた。


「……帰ってきた」


 その瞬間、身体から力が抜けた。


 生きてる。


 ちゃんと手もある。


 足もある。


 首もある。


 首、大事。


 本能寺で一回なくなってるからな。


「若殿、ご無事のご帰還、何よりにございます」


「はい……」


 隣の家臣は上機嫌だった。


「初陣にて敵の伏兵を見抜き、深追いもせず勝利なさるとは!」


「たまたまですよ」


「ご謙遜を」


「本当にたまたまです」


 怖かっただけだ。


 林が怖い。


 伏兵が怖い。


 追いかけるのも怖い。


 死ぬのはもっと怖い。


 その結果、なぜか名将みたいな扱いになっている。


 勘弁してほしい。


「若殿!」


「若殿がお戻りになられたぞ!」


 屋敷の前では、家臣や使用人たちが待っていた。


 その中に。


「信長さま!」


 濃姫がいた。


「あ」


 俺を見つけた瞬間、表情が明るくなる。


 そして。


 走ってきた。


「え?」


 待って。


 なんで走ってくるの。


 怖い。


 反射的に一歩下がった。


「信長さま!」


「はいっ!」


 濃姫が俺の前まで来る。


 上から下まで俺の身体を見た。


「お怪我は?」


「ないです」


「本当に?」


「はい」


「どこにも?」


「どこにも」


 濃姫がほっと息を吐いた。


「……よかった」


 その顔を見て、俺は少し驚いた。


 本当に心配してたんだ。


「必ず戻ると約束しましたから」


「はい」


 濃姫が笑った。


「お帰りなさいませ、信長さま」


「……ただいま」


 なんだろう。


 変な感じがする。


 前世では、俺が家に帰っても誰かが待っていることなんてほとんどなかった。


 大学から帰れば、自分の部屋に入る。


 飯を食って、風呂に入って、寝る。


 それだけ。


 なのに今は。


 帰ってきた俺を見て、安心してくれる人がいる。


 しかも美人。


 いや。


 短刀持ってたけど。


 槍も俺より強いけど。


 美人ではある。


「信長さま?」


「なんでもないです」


 俺は目を逸らした。


 なんか照れる。


     *


 部屋へ戻ると、ようやく具足を脱ぐことができた。


「重っ……」


 肩が痛い。


 腰も痛い。


 馬に乗っていたせいで尻も痛い。


 初陣って、敵と戦う以前に身体への負担がすごい。


「信長さま」


「はい?」


 濃姫がまだいる。


 いつ帰るんだろう。


 いや、ここ濃姫の部屋でもあるのか?


 結婚してから数日。


 いまだに夫婦の生活範囲がよく分からない。


「お疲れでしょう」


「かなり」


「お休みになられますか?」


「そうします」


「では、お手伝いいたします」


「何を?」


 濃姫が近づいてくる。


 一歩。


 二歩。


「え?」


 俺は下がる。


「信長さま?」


 さらに近づいてくる。


「ちょっと待ってください」


「はい?」


「何するつもりですか?」


「お召し物を」


 濃姫が俺の帯に手をかけた。


「うわあっ!」


 俺は飛び退いた。


 濃姫の手が空を切る。


「…………」


「…………」


 沈黙。


 濃姫が俺を見る。


「信長さま」


「はい」


「私は何もいたしません」


「いや、今脱がそうとしましたよね?」


「お着替えをお手伝いしようと」


「自分でできます!」


「夫婦なのですから」


「夫婦でも自分でできます!」


 危ない。


 何が危ないのか分からないけど危ない。


 俺はまだ童貞だ。


 しかも、この人は俺の嫁だ。


 状況だけなら何も問題がない。


 むしろ世間的には俺がおかしい。


 でも無理なものは無理だ。


 濃姫は少し頬を膨らませた。


「信長さまは、やはり私がお嫌いなのですか?」


「違います!」


 即答した。


「では、なぜ逃げるのです?」


「それは……」


 怖いから。


 とは言えない。


 さすがに傷つくだろう。


「まだ……慣れてないんです」


「私に?」


「はい」


「いつになれば慣れてくださいます?」


「…………」


 難問だ。


「一年くらい?」


「長うございます」


「半年」


「長うございます」


「三か月」


「長うございます」


 値切られてる。


 何これ。


「では一月」


「善処します」


「信長さま」


「すみません」


 濃姫が吹き出した。


「ふふっ」


「なんで笑うんです?」


「信長さまは、おかしなお方」


 最近そればっかり言われる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。