怪のキュウ もふっとしたなにか
わたしの幼なじみにしてほんのり霊感少女、賀茂美怜。
小中と人には見えないものが視えてしまうせいで浮いた子だったものの、高校に入ってからはある特技に目覚めそのおかげでみんなから一目置かれるようになっていた。
それは占い。
失せ物探しにラッキーカラーに幸運を呼ぶアイテム。それに忘れちゃいけない人生相談。
最初はそういったもろもろの相談を友だちから秘密裏に引き受け、それが口コミで広がりこれがよく当たると評判になった。持って生まれた美貌と身にまとう儚げな雰囲気と相まって、霊感があると信じざるを得ないくらいに。
わたしも物をなくしたときとかにはお世話になっていて、これがまたピタリと当たっている。百発百中、占い師美怜にハズレなし。
まるでその場が視えているかのように、怖いくらい的確に物の位置を言い当てられる。人間関係の相談になると、それが個々の感情や秘密に置き換わる。
今まではそれが美怜の持つ霊感の賜物だと思っていた。だけどわたしにもいろいろ視えるようになって、そのからくりが視えてしまった。
女子たちの華やかな声でにぎわう昼休み。
暗幕を引きドアを閉めて電気もつけず、薄暗くした空き教室でわたしと美怜、それと相談者とその友だちの四人で机を合わせていた。まるでコックリさんでもしているかのような怪しげな雰囲気。
わたしと美怜が並んで座り、相談者の栄東さんは美怜の前の机、友だちの西堀さんはわたしの前に座っている。栄東と西堀で東西コンビだ。東西コンビはどちらも興味津々と言った顔で美怜の手元の水晶玉を覗き込んでいる。
美怜が相談に乗るときには、なるべくわたしが付き添うようにしていた。前に美怜の回答に不服だった子が、ヒステリーを起こしちゃったことがあったから心配で。
「それで彼氏とケンカになったんだけど、仲直りのきっかけがつかめないで一週間も経っちゃって…」
今回の相談内容は夢の国で彼氏とデートしていたら、アトラクションの待ち時間にスマホをいじってばかりの彼氏にもっと話を聞いてよと迫り、ケンカになってしまい仲直りしたいというもの。
定番の話として耳にしたことはあったけど本当にあるんだなあ。
「なるほどねえ。それはやきもきしちゃうねえ」
美怜はうんうんとうなずいて占いモードに入っている。
美怜の手元には銀の三脚に乗った、握りこぶしくらいの大きさの水晶玉。これに手をかざして念を込めると、不思議と視えてくるらしい。
美怜の家は陰陽師の家系らしくこの水晶玉は祖父母の家の蔵に眠っていたもので、勝手に拝借しているそうだ。そういう曰くありげなものでも気に入れば平気で持ってきてしまうのが美怜だ。たぶんそういうことをしているから、この前みたいに変なの(ヒトベロス)に憑かれてしまうのだと思う。
触らぬ神に祟りなしと美怜に言いたい。
それはともかく、高校生になりたてのときにこの水晶玉を見つけて拝借し、そこから美怜は占いに目覚めた。
「それじゃあ、占ってみるね。むむむ…」
気の抜ける集中の声を発して水晶玉に手をかざすと、水晶玉がぽわっとおだやかな光を放った。
「うわぁ…」
「きれい…」
光に顔を照らされながら栄東さんと西堀さんが感嘆の声を上げた。わたしも初めて見たときには感動したものだ。
この子には本当に霊感があるんだって、問答無用で信じてしまうほど神秘的な光。
普通の人には水晶玉の発する光しか見えていない。かく言うわたしもつい最近まではそうだった。
でも今は違う。視えるようになった今では、その光の正体が視えていた。
「キュウー!」
美怜の背後に浮いてにょろんと伸びている、真っ白で細長い、もふっとしているなにか。近い生き物はフェレット。
みんなには視えていないみたいで、かわいらしい鳴き声も聞こえていない。
毛並みは真っ白。シルクみたいな純白。手触りはばつぐんに良さそう。ふかふかの絨毯みたいな感じだと思う。
顔は品のある犬や狐みたいで耳はピンと尖っている。顔の下に短い前足がついてて、美怜の集中に合わせるかのようにバタバタさせてキュウキュウ鳴いている。いっしょうけんめいな感じがして応援したくなる。
フェレットみたいなもふもふが前足をバタつかせるのに呼応するように、水晶玉から放たれる光が強くなっている。まるで自転車を漕いで発電させる電球みたいに。
そう、水晶玉の光は美怜の霊力的なものを受けて光っているのではなくて、このもふもふのバタバタで光っていたのだ。
がんばれ、がんばれもふもふ。
「はい、視えました!」
「キュキュキュウ、キュウキュキュー」
「あなたと彼氏さんには共通の趣味、盆栽にあるでしょう。それが仲直りの鍵を握っています」
占いの結果を伝える美怜の耳元にもふもふが顔を寄せてキュウキュウ鳴いている。まるでもふもふの言葉を、美怜が通訳しているみたいに。
そう、美怜の占いの異様な的中率はこのもふもふのお告げのおかげだったのだ。フェレットもどきが耳打ちするたびに美怜の口から言葉が出てきて、相談者はあまりの的確さに驚愕している。
「うそっ!?みんなにも秘密にしてる趣味なのにどうして!?」
「あんたらそんな趣味あったんだ…」
西堀さんは渋い顔で栄東さんを見ていた。確かに盆栽はむちゃくちゃ渋い。もっとかわいい趣味にすればいいのに、時代劇とか。一緒に推そう、狼藉侍。
美怜はフェレットもどきからの受け売りを自分の功績のようにとうとうと語り、栄東さんはふむふむとうなずいている。盆栽の専門用語が多くてわたしにはさっぱりだがどうやら的を得ている内容らしく、それなら仲直りできると顔を明るくしていた。
やるじゃない、もふもふちゃん。
それにしてもこのもふもふ、やたらとかわいい。もふもふしたい。
ちょっとだけいいよね、さわっても。だってひと仕事終えたみたいに満足げな顔してるから、ねぎらいのもふもふしてあげないと。
「キュウー!」
しかしちょっと手を伸ばしただけでもふもふは敏感に反応して鎌首をもたげてくる。野生動物並みの警戒心。
でも大丈夫。わたしはこういうときに唱える魔法の言葉を知っている。
「怖くない怖くない」
気分は風の谷のお姫様。幼女の声でランランルーと歌っているのが脳内で鳴っている。今ならどんな動物も手懐けられそうな気がする。
「シャー!」
「ひいぃ!」
でも思いっ切り口を開いて威嚇され、わたしはすごすごと手を引っ込めた。こわ、鋭い牙が剥き出しだったよこの子。こんなにもふもふしているのになんて気性が荒い。あのまま手を伸ばしていたら、たぶんガブリとやられてた。
「なにしてんの、ひかり?」
慌てて手を引っ込めるわたしに訝しげな目が向いている。
「えっと、これは、その…」
どう言い訳したものかと考えていると、ドアがガラリと開いて光が差し込んできた。
「君たち、こんな暗いところで何をしているんだ」
教室を覗き込み、低く通りのいい声で言ったのはつややかな黒髪をなびかせた美女。
月白高校が誇る才色兼備の生徒会長、蘆屋朔夜。




