リーゼの手紙
拝啓、お父様、お母様。
前回送った手紙の、鳥籠の顛末からお知らせしますね。
様子を窺っていた私達を、どう解釈して見かねたのか分かりませんが、凄く強い勇者のような方が颯爽と現れて、鳥さん達を一匹残らず倒して行ってしまいました。
私達は呆然としたまま、その方が白い歯をきらめかせ、失礼だけど、たぶん格好良いポーズだと思ってる仕草をし、何かお誘いを受けていたような気がしつつも、去って行くのを見ているしかなかったです。
正気に戻った私達は、何事も無かったように血生臭さに堪えつつ、依頼の羽根と調薬に使えそうなのをいくつか回収して終わりました。
思っていた以上に数が多かったので、勇者様が居なかったらちょっと難しかったかもです。でも、ひとつずつこなして、経験を積んでいこうと思います。
鳥籠の報告をしたあと、お昼前だったので、そのまま私達は街道を南に下った街、ラフルに来ています。夜でも賑やかな街で、星空も綺麗です。あと、宿のご飯もお水も美味しかったです。
またこの街に寄ったときは、是非同じ宿に泊まりたいです。
ソフィアは疲れていたみたいで、もう隣のベッドで休んでいます。
彼女は剣の扱いに慣れてきたようで、最近では剣に水術法を纏わせて当てることも出来るようになりました。
本人いわく、手が滑って剣の飛距離が伸びるのがいい、とのことですが、滑って投げてる時点で命中率はよくありません。いくらすぐに手元に戻せるからといって、剣をそのように扱うのはどうかと最近思っています。厳密に剣じゃ無いのかもしれないんですけど。
もうちょっと上手く扱って欲しいと思います。
結局、滑って飛んでった剣を操作して当てているのですから、やっぱり剣とは違うのかも。
それでも、まぁ、私から見れば腕は上達していると思います。…たぶん。
明日はこの街を探索してみたいと思います。なにか発見があるかも。
またお手紙出しますね。愛するお父様、お母様へ。
リーゼより。
――少女は手紙をたたみ、封緘する。そして両開きの小さな窓を開けた。湿った冷たい夜風が頬と髪を撫でる。紫色の髪は夜に混ざり込んでいるように燦いて黒く靡いた。
手紙を手にしたリーゼは、はしばみ色の目を閉じてそれを両手で胸に当てて、刹那念じた。
――届きますように――
手紙を両手の平で上下に包み、祈りを唱える。
「大切な人に、この思いを届けて。――風切鳥!」
術法の発動と同時に、手紙は鳥の形に姿を変えて、夜空を羽ばたいていった。
リーゼはそれを見えなくなるまで見つめ、窓を閉めた。
もう何通目になるだろうか。依然として返事は無い。しかし、それでもリーゼは手紙を送り続けることにしている。そうしないと、本当に繋がりが断ち切れてしまう気がするからだ。
故郷の村を離れてから一年が経った。未だ、誰からの手紙も届かない。
それが何を意味するのかはわかっている。だが、それでも送り続けることで返事が来るかもしれない。リーゼは一縷の望みをかけたいのだ。
――例え、彼女たちの故郷がもう存在しないとしても。




