第十四話
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※誤って十三話としてしまいましたが正しくは十四話です。混乱させてしまい申し訳ありません。
「ガァァァ!」
「げっ」
倒れていた魔物のうちの一体が雄叫びを上げた。どうやら一体だけ倒し切れていなかったようで、致命傷ながらも立ち上がってくる。
「魔法……を使うには魔力が足りないか」
先ほどの魔法でほとんどのMPを使い切ってしまったため、回復しきるには時間がかかる。
こうなると、剣で倒すしかない。仕方が無いので腰の剣を抜く。
(3メートルもある相手と接近戦なんてしたくなかったんだけどなあ……)
余裕がある時ならいざ知らず、今は時間の余裕が全く無い。
こうして悩んでいる間にも魔物の大群は近づいてきているのだから、さっさと倒してしまわねば。
「ふぅ」
一つ息を吐き、魔物に切りかかろうとした時だった。
「【九天落】!」
声と共に、天井近くから矢が魔物のところへ降っていった。
「へ……?」
「ギュガァァァァ!?」
俺が呆然として声を出すのと、魔物が断末魔の声を上げるのとはほとんど同時だった。
巻き起こった煙の中、混乱する頭を落ち着ける。
「なんとか倒せたわね」
そして、土煙が晴れる中聞こえてきたその声に、どうにか気を取り直した俺は後ろを振り向いた。
「何してるんですか……」
そこには予想通り、弓を持って北川先輩が立っていた。
「何って、楠君が倒し切れてなかったから助けてあげたんじゃない」
目を若干逸らしながら言う先輩に、思わず顔が引きつるのを隠せない。
誰も頼んでねえよ。口から出そうになる言葉をどうにか抑えた俺は、オブラートに包んだ言葉で反論した。
「今倒しに行こうとしてたじゃないですか」
「それでも、もしかしたら怪我したかもしれないでしょう?」
確かに北川先輩の言っていることは事実だ。後ろから魔法を撃つ分には怪我の危険はほとんどないが、直接切り結ぶとなると話は別になる。どんなに注意して戦ったところで、相手は俺の思う通りに動くわけではないのだから、怪我をする可能性は排除することができない。
だからこそ最初から魔法を使って、安全に倒そうとしたのだから。
しかし、俺が魔法を使った理由はそれだけというわけではない。
「俺が魔法を使って、先輩にMP使わせないようにしてたことくらい分かってるでしょうに」
「それは……」
呆れた顔で言うと、やはり分かっていたようで先輩は言葉に詰まった。
「何で分かっててやるんですか……」
「それはもちろん、心配だったからよ」
「だとしても、です。今先輩がMPを使ってしまうことがどういうことに繋がるか考えて下さい」
心配してもらえることは嬉しい。だが、そんな一時の感情で魔物に殺されたりしたら元も子もない。
どんな理由であれ、ここは引くわけにはいかない。そう思った俺は、先輩の事を厳しい目で見つめた。
「……」
「いや、黙りこまないで下さいよ」
顔を俯けて何も言わない先輩につい文句を言ってしまう。
そんな俺の言葉が悪かったのか、先輩は涙目になりながら勢い良く顔を上げた。
「怪我するよりはマシでしょう!私自身が怪我するならまだしも、誰かに怪我させて自分はのうのうと見ているなんてこと、私には出来ないのよ!」
自棄になったように、先輩はそう叫んだ。
そして、ハッとしたような表情になった後再び俯いてしまった。
「……」
それを見て、俺は言葉を失ってしまった。
今までの先輩ならまずこんな姿を俺に見せることはなかった。多少弄りすぎたと言っても、こちらの世界に来た頃の先輩だったらここまで爆発することはなかったはずだ。
それはつまり、後輩の前で取り繕うことすら出来ないほどに先輩が追い込まれていたということで。そんな先輩の変化に、俺は全く気づくことが出来なかった。今思えば、確かにその兆候はあったのに。
この迷宮に飛ばされてから、先輩はどんどん言動に余裕がなくなっていっていた。その事に気づいておきながら、それは余裕のなさの表れではなく俺とのちょっとした掛け合い程度としか思っていなかった。
「はは」
どうしてこうも鈍いのだろうか。乾いた笑いがもれてくる。
落ち込んで、徹底的に自分を責めたいところだったがそれを許してはくれない状況が訪れてしまった。
「……先輩、魔物です。例の大群が来てます」
タイミングの悪い凶報に舌打ちしたい気分になるが、自棄になっている先輩の前でするようなことではないので辞めておく。
頭を抱えて沈み込んでいた先輩もこれは聞き逃せなかったようで、暗い顔をしたままではあったが上を向いてくれた。
「……どうするの?」
どうせ勝てないーーーそう言いたげな先輩の眼差しに、俺は真っ向から立ち向かうことにした。
「ええ。俺一人で全部倒します」
そんな俺の一言に、先輩は唖然とした顔で固まってしまった。
「……何を言ってるの?」
「何って、だから魔物をどう対処するかですよ」
先輩こそ何を言ってるんだ。
そう思いながら先輩を見返すと、またしても怒ったように先輩が詰め寄ってきた。
「何を考えてるの!?たったの五匹ですら、MPをほとんど使って倒しきることが出来なかったのよ?それなのに、千を軽く越える魔物が倒せるわけが……」
「倒せます」
先輩の話の途中だったが、無理やり割り込んでそう断言した。
一瞬面食らったような表情になるも、すぐに先ほどまでの勢いを取り戻して言い募ろうとしてくる。
「だから、そんなこと……」
「出来ます」
そして、そんな先輩の言葉をまたしても途中で遮る。
少しムッとしたような表情になった先輩に、面倒になってきた俺は先手を打って自分から話すことにした。
「先輩は、俺じゃあそんなことは出来ないって言いたいのかもしれません。けど、出来なくてもやらなきゃいけないんです。そうしないと先輩も、もちろん俺自身も助けることは出来ない」
「それで死んだら……!」
その先は言わせたくない。俺は先輩の顔を手で挟み、無理やり目を合わせた。
「俺は死にません。というよりまだ死ねません。こんなところで死んだら、四季や茜に怒られますから」
苦笑いしながらそう言う俺をぼーっとした顔で眺める先輩。
その珍しく無防備な表情に、
……あれ?説得失敗した?
と思う俺なのだった。
思ったより話が進まなかった……。
先輩、あんた面倒すぎるよ……。




