第十三話
というわけでようやく50話です。長かった…
無事気づかれずに済んだので、俺たちは魔物が来るのを息を潜めて待っていた。
「そろそろね……」
「なんか緊張しますね」
軽口を叩かずにはいられないくらいには。
そんな俺に先輩は目もくれず、ただ虚空をじっと睨んでいた。
「……来たわ!」
そして、手持ち無沙汰になった俺が、頭の中で一人しりとりを始めたところで先輩が小さく、しかし鋭い声で報せてきた。
「……うっわ……」
その数秒後、地響きと共に魔物が現れた。
土煙りで姿がうっすら隠れてはいるが、その大きさは見間違うことはない。それは、優に3mは超えていた。
「……あれは、ライオン?」
その威容に飲まれかけた俺だったが、北川先輩は冷静に観察を続けていた。
その声を聞き、俺も顔をよく見る。
「……ですかね。二足歩行ですけど」
どうやら先輩の観察眼は正しかったようで、そこには立派なタテガミをしたネコ科の魔物がいた。
「……タテガミがあるってことはオスですよね?」
「え?ええ、そうだと思うわ。異世界特有の種族だったりしたら分からないけれど」
急にどうでもいいことを聞いた俺に困惑する北川先輩。
いや、でももし地球と同じなんだったら生態も同じかもしれないし。
「……地球のオスライオンみたいに働かなければいいのに……」
なんて考えるのも仕方ないと思うんだ。
しかし、俺の希望的観測は予想外の理由で破られた。
「あれは働かないわけじゃないわよ」
「そうなんですか?」
そもそもライオンのオスが働かないという知識自体が間違っていたらしい。
オスは働かないって話はいろんなとこで聞くから、まさか嘘知識だなんて夢にも思わなかった。
「基本的にオスのライオンは流れ者だから、狩りはその場所に詳しいメスに任せているだけなのよ。現にメスでは狩れない大物とかは手伝うらしいし」
「へぇー、そうだったんですか、知りませんでした」
「それに、オスの仕事は群れを乗っ取ろうとするオスから守ることらしいからね」
「それも初耳です」
「そんなわけだから、全く働かないっていうのはちょっと間違ってるのよ。ただ狩りを基本的にメスに任せるからそういう風に思われてるだけで」
「そこだけ聞くとニートみたいですしね」
いや、ヒモの方が正しいか?
「まあ、それはさておき」
「?」
疑問符を浮かべる先輩に、魔物の方を指差して示す。
そこには雄叫びを上げながらこちらに走ってくる魔物の姿があった。
「気づかれたみたいですよ?」
「えっ!?」
驚愕する北川先輩。いや、考えれば分かるでしょうに。
あれだけ喋ってたらそりゃ気づかれるわ。
「ど、どうしましょう!?」
「どうしましょうかね〜」
「何でそんな軽いのよ!」
敵がこちらに向かってくるのをノンビリ眺めていると、先輩が責めるようにそんな事を言ってくる。
軽いとか言わないで下さい、これでも結構真剣です。
「……おとなしく投降したら許してもらえませんかね?」
「無理に決まってるでしょ!あなたどれだけ魔王の事バカにしたと思ってるのよ!」
確かに俺はバカにしたけど。
「先輩だけなら助かるかもしれないじゃないですか」
特に魔王といざこざはなかったのだから。最悪一人でも助かればーーーそんな事を言おうとすると、先輩から平手打ちが飛んできた。
咄嗟に首を捻って避ける。
「避けるな!」
「嫌ですよ!何でビンタされなきゃいけないんですか!」
キレ気味に言う先輩に戸惑いつつもそう答える。
というかそもそも何故そんなに怒っているのか不思議でならない。
これといって悪いことをしたわけでもないのに、やはり迷宮に来たことが負担になって情緒不安定なのだろうか。
「誰が情緒不安定なのよ!貴方がふざけたことを言うから私は怒っているのよ!」
「なっ、心を読む能力まで……!」
なんて万能なスキルなんだ。
「貴方が声に出してたのよ!」
「ああなるほど、それはすみませんでした。でも実際、そんなにイライラしてるのは体に良くないですよ?」
「誰のせいよ!というかもうすぐそばまで魔物が来ちゃってるんだけど!?」
「あ、それはマズイですね、戦闘に備えましょう。……ところで、若干キャラ崩壊してません?」
「だから誰のせいだと思ってるのよおおぉぉぉぉぉ!!」
ついに頭を抱えてしまった先輩。
まだ「魔物のせいです」とか言ってふざけるつもりだったが、流石にそろそろ魔物とぶつかるので自重する。
「さて、いい加減マジメにやりますか」
「やっぱりさっきまではふざけてたのね」
ジトッとした目で睨まれるが今は時間が無いので無視する。
「とりあえず、出会い頭に魔法でもぶっ放しますか」
「無視しないでよ」
言いながら魔法の準備をする。
おれが選んだのは雷魔法。俺が比較的得意としている、最も出が早い魔法だ。
「ちょっと聞いてるの?」
「あー先輩後でいくらでも相手してあげますから今は魔物に集中させてくれません!?」
先輩ってこんなにしつこかったっけか?面倒になってきたんだが。
少し辟易とするが、そうしている間に魔法が完成した。余波で俺の周囲に雷が迸る。
「先輩、危ないんで少し離れてて下さい」
「……分かったわ。後で覚えておきなさい」
下がりながら言う先輩に笑みがこぼれる。
この時点で「後で」というのは魔物を倒したらということではない。操られているであろう魔物を倒したら間違いなく今度は魔王が出てくる。つまり「後で」というのは、魔物は全部倒して魔王も倒し、それから話の続きをするということだ。
「ははっ」
ようやく先輩の決意が固まったことに安堵する。散々煽った甲斐があったというものだ。
「それじゃあ、いくぜ!」
近づいてくる魔物に気合いを入れ直すように宣言する。
そして、距離が10メートルを切ったところで、俺は魔法を解き放った。
「【ライトニング・レイ】!」
それはさながら花火のように、魔物を燃やし火花を散らした。
「……汚ねえ花」
「それは言っちゃダメよ!」
だって思い浮かんだんだから仕方ないじゃないですか。
なぜこんな記念すべき話が大半ライオンの生態で潰されるのか。というかそもそもそんな話でなぜライオンの生態を調べなければならなかったのか。
不思議でしょうがない。




