新しき風 吹き抜ける世界(49) ~ 柿留しょうの帰郷
風切あやかも佐渡せきもいなくなったが、一方で戻ってくる者もいた。
「八霊山も久しぶりだなぁ。あやかさん、元気にしているかなぁ」
声を高らかに、意気揚々と丘を駆け上る影が一つ、その後ろにゆっくりと歩いて進む人影が一つ見える。
「おいおい、元気だなぁ。はしゃぎ過ぎじゃないか?挨拶の一つでも考えなくていいのか」
「もう昔の僕じゃないんですって。遠慮なんかいりませんよ!強くなったところ、見せてやりたいんです!!」
そう強く意気込んでいるのは、なんだか見覚えのある顔……柿留しょうであった。
ともするともう一人の人影は天道そらである。
二人は流 あさひの起こした天道家の事件以降、八霊山を離れ、各地を旅して回っていたのだ。
それからもう10年以上の月日が経っていた。
あの頃は幼かった柿留しょうの顔は、未だ子供っぽさは残るものの凛々しい青少年へと変わっていた。
この顔を見れば、きっと風切あやかは驚いただろう。そして彼女の剣術にも目を見張ったに違いない。
それを柿留しょうはこの上なく楽しみにしていた。
どこもかしこも見慣れた風景が広がっている。10年以上離れていても、この景色はまるで昨日も見たかのように思えるのだ。
(それでもちょっと変わった部分もあるかな?)
所々、地面が抉られたようにへこんでいたり、誰かが住んでいたような建物の残骸を見ることができた。
あれから一体なにがあったのだろうか?遠い旅の空の下では、八霊山の話など何一つ聞くことはできなかった。
聞いた話といえば遠くの国の戦争の話、そして王国の興り、あとは科学の発展であったろうか。
八霊山を見ていると、それらのことなどまるで別世界の話のように思える。しかし、それらは確かに同じ世界で起きている事実である。
「この世界もいつまでその姿を留めていられるのかなぁ……」
ふと柿留しょうから言葉が漏れた。それを天道そらが聞いていたかは分からない。
二人はまず風切あやかの小屋を訪れた……もとい小屋の跡地である。
柿留しょうが知っている風切あやかの小屋はナオキが山城暁と戦った時に起きた地震で崩壊してしまっている。
これは『バーンアウト事件』以前の話なので、相当昔の話になる。
先ほど見てきたような火焔族の住居跡地とは比にならないほどの時の流れに晒され、
「あれ?あやかさんの家がない。変な像が建ってる」
風切あやかの小屋跡地は変な像へと姿を変えていた。
「うーん、コレは次期山神…・・・山城 暁じゃないな」
天道そらが変な像を見ながら呟いた。一応、彼女は護山家だった人間である。山城 暁の顔や背格好も見知っていた。
じゃあ誰だろう?柿留しょうがじっと変な像を眺めていると後ろから声がした。
「おや、もしかして、しょうじゃないですか?そっちの方はそらさん?」
「あっ……」
柿留しょうが振り返るとそこにはかつての上司の高山はるかがいた。
それから積もる話をした。柿留しょうからは旅の話、そして自分の剣術の話である。
久しぶりに戻った高山はるかの小屋は昔と変わってはいない。
一時期滞留した高山かなた用に多少の増築を施してはあるが、それ以外はまったく変わっていない。
「それであやかさんは……」
話題が風切あやかのことになったとき、ふっと高山はるかの顔が曇った。
もしかしたら――柿留しょうは既に察するところがあった。
「ま、簡単に言えば行方不明ですよ」
「行方不明!?」
そこで高山はるかは1冊の本を前へ出した。例の『第二次火焔事変』の記録書である。
この項目の一つ、風切あやかについてのページを開いて見せた。
風切あやか
炎、風、水の魔力を開放により三界発現『ギアカ・ホーオル・イオーガ』を発動。
水炎邪霊姫 サン・ラジェイドの撃破に成功する。
しかしその後に姿を消してしまう。
これは三界発現による反動で風切あやか自身も消滅してしまったのか、はたまたどこかへ飛ばされてしまったのかは分からない。
護山家や火焔族による捜索が行われたものの、ついに発見することはできなかった。
捜索活動は現在も続いており、発見の暁には本項目の追記をお願い致します。
と書かれていた。
「そういうワケなんですよ。私がしょうと会ったのも、捜索を兼ねた見回りでして」
ちなみにあの変な像は風切あやかの像だという。
サン・ラジェイドを倒して八霊山を護った功績を称えて、山城 暁が造った。
そしてその他にも風切あやかの姿を忘れないように……そして、彼女の姿を見た者が彼女だと気付けるようにとの願いも込められているのだ。
「へ、へぇ……あの像、あやかさんだったんですか」
「変な像って言っていたね。しょうちゃんは……」
「製作者には、そう言っておきますよ。製作者の山城さまに」
高山はるかが笑った。柿留しょうはやめてください!と慌てて手をばたつかせた。
懐かしい空気だった。
こうした雰囲気の中にかつて彼女達はいたのだった。
「あやかさん……」
ふっとそのことを思い出した柿留しょうの目から大粒の涙が流れ落ちた。
旅先でも出会いや別れは日常的なものだったが、何度味わってもこればかりは慣れるものではない。
そうでなくても風切あやかはかつての上司……いや上司以上の存在だったのだ。
仲間、友人……いや家族であったのかもしれない。確かに苦手としている部分はあったけれども、付き合いは長かったし、時には助け、時には助けられたのだった。
そんな風切あやかがもういない。自分の成長した姿を見せることもできないなんて……。
「しょう……」
天道そらがいいかけて口をつぐんだ。この先は言わずとも分かるだろう。
「そういうことなら、旅も終わりにして護山家に戻るとしよう。さっそく山城さまに挨拶をしに行かなければ」
そうして二人は八霊山の山神となった山城 暁に会い、正式に護山家として復帰することが決まったのだった。




